21.穴

「つまるところ、この下に陽炎蜥蜴がいるってことですよね?」


 ミカゲは揺に確認する。


「そうだ」


「じゃあ、どうします? 掘ってみますか?」


「いや、それは無駄だ」


「ですよね」


 ダンジョンの岩盤はいかなる手段を用いても破壊できないのは常識であった。


『名無し:どこかに抜け道があるってことですかねー』


「そうなるな……しかし、そんなところあるのだろうか。過去にもアンダーの捜索は入念に行っているつもりなんだがな……」


「そうですよね……」


(……俺と束砂も同じことをやった)


 さて、どうしたものか……と途方に暮れそうになった時……


『名無し:なんかあそこだけ地面の地質が違くないですか?』


「え?」


「どこだ……!?」


 揺がドローンにめちゃくちゃ近づいて聞く。


『名無し:ほら、左奥の……見間違いだったらすみません……』


「ありがとう、確認してみよう」


「……ここ……か」


 確認する。

 よく見ると確かにそのエリアだけ、地質が少し違っていた。

 ちょうど六角形をつなぎ合わせたような模様になっていた。


『名無し:ナイスー』

『名無し:よく見つけたな』

『名無し:しかし、ただ模様が違うだけの可能性もあるな』


「どうします? とりあえず掘ってみますか?」


「そうしよう……これを使っていいぞ」


 そう言って、揺はどこからともなくスコップとヘルメットを取り出し、ミカゲに渡す。

 そして、自らも同じ形のヘルメットを被り、率先して掘り始める。


『名無し:マッド・スコッパー(物理)』


「こらっ、変なあだ名で呼ぶなっ!」


 揺は怒る。


 が、しかし……


「うーん、やっぱりこれも岩盤なのだろうか。硬過ぎるようだ」


 マッド・スコッパーを以ってしてもスコップでは掘れる気配が全くしなかった。


『名無し:すみません……誤報でした』


「いやいや、謝る必要はないさ。情報提供ありがとう。それにまだ誤報と決まったわけじゃない。何せ、"ダンジョンでは何が起きても不思議ではない"のだから」


 揺は普段より幾分、優しい口調でそんなことを言う。


「それに、ここに"お泊りセット"もある」


(え……)


「これほどまでに2層に迫ったことは過去にないんだ。他に何か変わったことはないか……長期戦も視野に入れる」


 そして実際に、その日はお泊りセット……という名の簡易キャンプを使うこととなる。


 深くは言及しないが、21時に就寝する。


 翌日の配信開始――


「ミカゲ、陽炎蜥蜴に動きはないか?」


「はい」


 相変わらず追跡の妖石はくるくると回っていた。


『リリィ*:もう死んでたりして笑』

『名無し:あ、リリィさんだ』

(あ、リリィさんだ)


 コメントとシンクロするミカゲ。


『リリィ*:揺さん、ミカゲさん、お疲れ様―。パーティ(仮)結成おめでとー! がんばってねー』


「あぁ、ありがとう……」


 揺はいつになくジト目で応えている。

 本当ならお前がここにいるはずだったのに……という目であろうか。


(陽炎蜥蜴……流石にまだ死んではいないよな……)


 と、ミカゲが思った時……


 地面が激しく振動する。


「うわっ、なんだ!?」


 辺りを見ると、昨日の六角形模様の地質があった箇所に大きな穴ができ始める。


 振動が収まるとなにやら下の方から物音が聞こえてくる。


 その穴からなんと……陽炎蜥蜴の頭が出てきた。


 頭だけの陽炎蜥蜴がミカゲと揺の方に気付く。


『名無し:うぉおおおおお出たぁあああああ』

『名無し:こんにちは』『名無し:こんにちは』『名無し:こんにちは』


 ……


 一瞬の静寂の後、陽炎蜥蜴の頭がゆっくりと穴に戻っていく。


『名無し:あ、逃げた』


「追うぞ! ミカゲ!」


「はい……!」


 ミカゲと揺は陽炎蜥蜴が出てきた穴へ飛び込む。


 穴を降りると、そこはつるつるとしており、二人はほぼ滑落する。


 そのまま地面まで滑り落ちた。


 そして、ミカゲはそこで、そのつるつるの正体を知る。


「言っただろ? ダンジョンでは何が起きても不思議ではないって……」


「はい……」


 六角形模様の地質の正体は巨大な亀の甲羅であった。

 亀の甲羅が下への入口を塞いでいたのだ。


「昨日のリスナーさん、貴方は間違っていませんでしたよ。改めて有難うございます」


 揺はそんなことを呟く。


『名無し:昨日の人、ないすぅうう!』

『名無し:昨日の人、ぐっじょぶ!』

『昨日の人:ありがとうございます、お役に立てて光栄です』


「さて……」


(目の前には蜥蜴……後方には亀がいる)


 亀の方は極めて巨大であるが、動く気配はない。


 蜥蜴は例の奴。ミカゲが切断したしっぽは完全には戻っておらず、少し生えている状態であった。


「逃げたところ見ると、こいつミカゲにビビってるな」


「そうかもですね……」


 陽炎蜥蜴は壁際に下がり、やや縮こまりながら、威嚇している。


(こいつを狩るべきか……)


 ミカゲは悩む。


 ミカゲにとって、この蜥蜴は因縁がある。

 しかし、蜥蜴が一層に戻るために必要になる可能性があった。

 もしこの後、亀が再び穴を塞いでしまったら、元に戻れなくなってしまうかもしれない。

 この蜥蜴が鍵のような役割をしている可能性があった。


「どうする? 戦意はないように見えるが」


 揺がミカゲに尋ねる。


「はい……それにこいつがいなくなると戻れなくなる危険性がありますね」


「まぁ、それもそうだな。ただ、こいつが一層に出てくると、危険な存在になっているのは事実だ……」


「そうですね…………あっ……」


「ん……? どうした?」


(こいつの危険度は75……ギリいけるか……)


「凄腕のテイマー知ってますよ」


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