11.SMOW

「来るぞ……!」


 七山がその巨大な盾を持って、前に立つ。


 キラーバグの群れが迫ってくる。


《名無し:ウォーシールド来たー》


(……盾役タンクか……パーティに一人いると安定するんだよな)


 七山の宝物は歴戦盾ウォーシールド


 七山はこの巨大な盾で以って……


 ゴシャ……


「……!?」


 キラーバグを殴り潰す。


《名無し:盾は鈍器》


「うぉらっ! うぉらっっ!!」


 七山は歴戦盾を振り回し、次々にキラーバグを潰していく。


(……なんかすご……)


「ななさん、調子いいねー、私もいくよー」


 リリィがそう言うと、リリィも猛然とキラーバグの群れに飛び込んでいく。


 リリィは長ものの武器は持っていない。


 そんなリリィにキラーバグの一匹が襲い掛かる。


「ほいっ!」


 リリィはキラーバグに右ストレートを叩き込む。


 ギシィイ


 キラーバグは奇声をあげながら、地に落ちる。


「どんどんいくよ!」


 リリィは機敏に動きながら、キラーバグをパンチで次々に撃墜していく。


 灰輝拳ミスリルフィスト


 灰色に輝くナックルダスター(通称、メリケン)が彼女の宝物だ。


 シンプルな拳による殴打。それが彼女の戦闘スタイルのようだ。


 ゴシャ……グシャ……ズシャ……


 キラーバグが一定の間隔で潰されていく。


『名無し:これは良いASMR』


「あぁ~、殴るのって気持ちいい……」


 リリィは恍惚の表情を見せる。


『名無し:リリィ姉さん、その顔は放送で見せたらあかん』


「……」


 殴打によりガンガン、キラーバグを撃墜する二人から一歩引いたところで柳は静かに矛のような武器を構えている。


 と、キラーバグの一体がリリィの背後から迫っていた。


 すると、柳は矛を前に突き出し、囁く。


「風の精霊よ……"悪戯なそよ風"」


 ギシィ


 キラーバグが力を失い、落下する。


「別に大丈夫だったんだけどなー」

「まぁまぁ、保険です」


 リリィと柳がそんなやり取りをする。


『名無し:りゅーさん、素敵』

『名無し:精霊魔法、最高にクール』


(精霊魔法……あの矛は戦うものじゃなくて、儀式の道具的なものなのかな?)


 祈りのとかり。それが柳の宝物である。


 柳は精霊と契約することで、魔法を扱うことができる精霊魔法師である。


(あれ? ってか、今日の目的地は精霊の森だけど、関係あるのかな?)


 ……


「いっちょあがりっ!」


 リリィが両拳をぶつける様な仕草をする。


(はは……すご……)


 ミカゲは空笑いする。

 SMOWのメンバーはあっという間に危険度55のキラーバグの群れを全滅させてしまった。


 ◇


 その後、森の中を進んでいくと何度かモンスターと遭遇した。


 しかし、その都度、SMOWのメンバーがあっという間にモンスターを駆逐する。


「……なんかコラボの意味なくねえか?」


 特に何もしていない佐正がそんなことを言う。


「う、うん……」


 特に何もしていないミカゲも同意する。


(まぁ、初めての上層だし、安全第一ってことなのかな……)


 そうこうしているうちに……


「着いたぞ」


(おっ?)


 そこには森の中に少しひらけたエリアがあり、キャンプなどの施設が目に入る。


「目的地の精霊の森に着きました。今日の配信はここまでにして、明日、ターゲットのアイロンゴーレムを探していきたいと思います。本日は有り難うございました」


 七山が配信をクローズする。


『名無し:お疲れ様~』

『名無し:また明日、楽しみにしてます』


 ……


 そのようにして、配信を終了する。


「二人もお疲れ、予定通り、今日はこの精霊の森キャンプで一泊するぞ」


「はい」


 精霊の森キャンプは人間が精霊に許可を得て、設置したキャンプのようだ。

 精霊に守られているためか、なぜかモンスターが出現しないため安心して休むことができる。


「せっかくだから依頼主の精霊に少し会っていくか? 初めてだろ?」


(精霊……!!)


 ミカゲと佐正の目が子供のように煌めく。


 七山がニヤリと微笑む。


 ◇


「へぇー、これが精霊かー」


 七山らに連れてこられた洞窟の中で、空中を暖色の光がぼんやりと漂いながら瞬いている。


(うーん、これはほぼ……でかい蛍だな……)


 ダンジョンにはモンスターのような人間を襲う生物だけでなく、友好、または共存するような生物、生命体が存在し、精霊はその代表例だ。


 精霊は配信NGらしく、実物を見るのは初めてであった。


「なんかちょっと騙された感ありますよね」


 佐正が少しがっかりした様子で言う。


「そうだね」


「リリィさんに聞いたところによると、りゅーさんには見えているらしいんですけどね」


(へぇ……)


 確かに先ほどから柳が光の近くで何やら一人で談笑しているなぁとミカゲも思っていた。


 本日、訪れている30層は精霊が住んでおり、精霊魔法師の柳を含むSMOWのメンバーはよく来ているのであった。

 通常の魔法師は自分自身で魔法を発動するのに対して、精霊魔法師は精霊と契約して魔法を借りるようにして使用する。契約次第で属性を変えられる上に、魔力を精霊から借りる方式のため、通常の魔法師と比較するとポリバレントで燃費がいいのが特徴とされている。


「精霊魔法師はミカゲさんのスタイルと似てるかもですね」


 佐正がそんなことを言う。


(え、そうなの……?)


「ちなみに今はアイロンゴーレムとの戦いに備えて、風の精霊シルフから土の精霊ノームへと契約移管をしているみたいです」


「なるほど……」


(光がブラウン系の暖色だなーとは思っていたけど、ノームだからかな?)


 ◇


「今日、借りているキャンプは3人用が二つだ」


 精霊との契約移管や食事等を終え、いざ休むというタイミングで七山が言う。


(なるほど、じゃあ、SMOWとアース・ドラゴンで別れて……)


「では、くじ引きをする」


(……はい?)


 ◇


「んじゃ、明日なー」


(え……あ……)


 ミカゲ以外の三人の男達はあっさりと立ち去っていく。


(……まじか)


「よろしくねー」


 リリィがにこりと微笑む。

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