10.コラボ配信

「さて、わかってると思うけど、30層は、君たちE級は本来、立ち入れない領域だ」


 出発を前に七山はミカゲと佐正に告げる。


「知ってますよー」


 佐正は少し鬱陶しそうに答える。


 ユグドラシルには厳格な立ち入り規定があり、基本的に申請なしには入ることができない。


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【ユグドラシル立ち入り規定】

 攻略者でない者は立ち入り不可

 ・~10層 E級

 ・~20層 D級

 ・~30層 C級

 ・~40層 B級

 ・A級以上はフリー


 ただし、該当層への立ち入り資格ありと合同であれば、A級攻略者の承認の上、+2等級分、上の階層に立ち入ることができる。

 ==========


 つまるところ、31層から上はE級は引率があったとしても入ることができないため……


「本当、ぎりぎりのところじゃん。揺さん、攻めすぎー」


 リリィがケラケラと笑うように言う通り、ミカゲと佐正が入れるギリギリの階層が30層ということになる。


「というわけだから、E級のお前らは、俺らの後ろで安全めにな」


「わかってますよー」


 佐正は少し不満げだが、納得する。


「あと、これ、揺さんからの餞別だ」


 そう言って七山は佐正に魔石を渡す。


「これは……離脱の魔石……ですか」


「あぁ……」


(離脱の魔石……戦闘領域外へ逃げられるアイテムだ。結構、希少で高価なものである)


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【離脱の魔石】

 Lv1

 効果:使用者の半径1メートル以内の最大3名が戦闘領域から離脱する。

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「せいぜい、それを使わなくていいことを祈るんだな……よし、では行くぞ」


 そう言って、七山は先陣を切り、リリィと柳がそれに続く。


「あー、なんかちょっと嫌な感じですねー」


「ん……?」


 佐正はミカゲに小声でそんなことを言う。


「舐められてるっていうか……」


「そうかな……」


「そうですよー! 俺らのこと下に見てるんですよ!」


(……まぁ、実際、下だし)


「ミカゲさんは見下されて悔しくないんですか? 俺らだって、危険度75を撃退してるんすよ」


「うーん、どうだろう……でも彼ら、E級については言及してるけど、"宝物特性レベル"については言ってないね」


「……!」


「だから……なんていうか……やっぱり揺さんが選んだメンバーなんだなって」


「……社長を語るとは……ミカゲさんも出世したものです」


 佐正は少し悔しそうに、冗談めいた口調で言う。


 ◇


「よし、ではこれから本格的にモンスターが出るエリアに入るから、より一層気を引き締めるように」


 七山は木々がうっそうと生い茂る森に入る手前で足を止め、そのように言う。


「了解」


「それじゃあ、配信もスタートする。そっちはそっちでドローンを飛ばしてくれ」


「了解っす」


 佐正はそう言うと、配信ドローンを飛ばす。七山も同様のようだ。


「はい、本日は墨田ドスコイズ所属のパーティ"SMOW"と注目の新パーティ"アース・ドラゴン"でコラボ配信していきます」


 七山が導入、しきってくれる。


『名無し:もぐら来たー。楽しみにしてたー。ついにアンダー脱出か笑』


 始まるや否や温かい(?)コメントが来る。


(もぐらって……いや、まぁ、薄々気づいてはいたけど……)


 揺がさらっと決めたパーティ名"アース・ドラゴン"……一見、格好良さそうに見えるがアース=土、ドラゴン=竜……つまり土竜もぐらである。


(もう命名からして……アンダー行かせる気満々じゃないか……)


 ミカゲはこっそり苦笑いする。


 それはそれとして、アンダー配信から今日まで一週間ほど経っていたのだが、その間にパーティファボが81から95まで増えていた。

 配信後、間が空くとパーティファボは減少してもおかしくないのだが、むしろ少し増えていて、ミカゲは少し嬉しかった。


「誰がもぐらじゃい! 地龍! ドラゴン!」


 佐正がコメントに対して反応している。


 ミカゲはコメントをうまく拾ったり、視聴者とじゃれ合ったりするのがまだ不慣れであったので、佐正のリアクションには非常に助かっていた。


『名無し:へぇー、新しいパーティできてたんだー』

『名無し:なんで猫いんの? かわええ』


 SMOW側にはアース・ドラゴンより遥かに多くのコメントが寄せられている。

 そして、アース・ドラゴンに関心を示すコメントも散見される。

 これがコラボ効果である。

 認知されていなければ、どんなに凄いことや奇抜なことをしていても注目されることはない。

 すでにある程度の認知度がある者とコラボすることで、認知度を引き上げることができる。


「今日はタイトルにある通り、アイロンゴーレム撃退の依頼をやりたいと思います。とりあえず依頼主のいる"精霊の森"までの道中を垂れ流していきます」


 七山が配信の目的を説明する。


『名無し:アイロンゴーレムかー、結構手強いね』

『名無し:お気をつけて』


「それじゃあ、早速、行きます」


 七山は森に向けて歩き出す。


 ◇


「この森の危険度のアベレージはだいたい50くらいですかなー」


 リリィがそんなことを言う。視聴者に向けて喋っているようだ。


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【危険度:推奨等級】

 70~: D級以上

 80~: C級以上

 90~: B級以上

 Ⅰ~: A級以上

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 SMOWのメンバーは配信中、七山かリリィが絶えず喋っていた。

 どうやら二人が実質的なトーク担当のようだ。


「リリィ」


 と、柳が声を出す。


「おっ、来たみたいですな」


 羽音が聞こえてくる。

 1メートル弱はありそうな虫の集団が正面からこちらに迫っていた。


【モンスター キラーバグ 危険度55】


「ミカゲさん……」


「おぉ……」


 ミカゲと佐正は身構える。


(普通に危険度50オーバーがうようよしてるのか……やっぱりアンダーとはちょっと違うな……)


 が……


「E級のお二人……後ろで安全めにと言ったろう?」


 七山がそう言って、制止するように手を前に出し、背負っていた盾を構える。


「……?」


「ここはひとまず先輩せんぱいに任せときなってー」


 リリィが笑顔でそう言う。


 柳もほこを構え、静かに前に出る。


=======

【あとがき】

今日はこの後、もう一話更新します。

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