第47話 クンラートの企み

 翌日、身支度を整え終え、宿の部屋から出るとクンラートとディーデリックの姿があった。


「よーく眠れましたかあ? アリ……ユウキ」

「ええ、眠れました。二人も休めたかしら」

「程々に」

「ユウキ、様。朝食を摂りに参りましょう。行きますよ。クンラート、ディーデリック」

「お堅いこって」


 肩を竦めるクンラートをマレイケは無視して宿に併設されているらしい食堂へと向かう。今は朝食時だ。ここへとたどり着いた昨日の昼間から私は寝ていたので大層腹が減っていた。ディーデリックとクンラートは夕食は摂っていたらしく、そこそこ美味いとのことだ。マレイケはディーデリックに運ばせたものを食べたそうだ。私に付きっきりで居たらしかった。


 食堂はそれなりに賑わっている。席について注文はクンラートに任せた。何品か選んで店員に注文を通したのち、クンラートからギルドについての説明を受ける。


「まずギルドってのは冒険者ギルドと商業ギルドに別れる。まあ俺たちは冒険者ギルドに向かうから商業は置いておく。これから話すのはギルドでも簡単に説明は受けるとは思うが話すぞ」

「わたくし、このドリアを食べたいわ。追加で注文してもいい?」

「聞けよ!」


 ちゃんと聴いておりますよ。とメニューに目を落としながら返事をする。ソーセージもいいわね〜なんて話していると大きなため息が聞こえてきた。待ち時間もあるからと話を再開した。


「ギルドってのは国や地方なんかに点在する組織ってくらいは分かるな? それぞれ連携を取って冒険者を派遣したり、金払いを対価に交流、流通の要としてギルドに所属する人間を使う。ランクが設けられているが、上位のランクの冒険者は旨みが多いな。金払いも多けりゃ、顔も効くようになる」

「十二年ヒティリアに留まり続けるのなら、そう名声を上げずとも良いのでは」

「まあ聞けよ。上位ランクの冒険者は国とも繋がりを持つことが可能とされている。国直々に依頼なんかもギルドを通して入ってくるわけだ。するとどうなると思う?」

「……私共の存在が明るみに出るだけでは? 国と神殿は繋がっているでしょう」


 マレイケの言葉に、気障ったらしく指を振るクンラート。先に運ばれて来ていた飲み物を口に運ぶ。


「国にバレるってことは、神殿が最も恐れていることだ。今現在大っぴらに探されていないのを見るに、神殿は神殿内だけでユウキの件を留める腹づもりと見ていい。国からの来賓はあったが、恐らく口止めをしている。国に付け入るということは、ユウキを国に認識させて女巫であると言う認識を無くす行為だ」

「国を欺くと?」

「そういうことよ。女巫と同じ見目をしていても、神殿に居るはずの新女巫だとは向こうは考えない。女巫と同じ見目の人間はひとりじゃあねえんだから。国の目にとまれば神殿は口出しも手出しも出来なくなる。後々連携を取ろうとしてくる可能性はあり得るが、神殿は不祥事を恐れてそれは可能性は低いと見ていい」


 て、ことで。とクンラートがにやりと猫の顔で笑う。


「さっさと手柄上げて、ギルドの上に行って、十二年を平穏に過ごせるように頑張りましょうってことだ」

「あなた、本当に平和主義なのねえ。見た目は軽そうなのに」

「ほっとけ」


 運ばれてきた食事に四人で手をつけ始める。ドリア美味いな〜なんて思っていると、そういえば、とディーデリックが話し出す。


「人気が多いが、何か祭りがあるのか」


 確かに朝だと言うのに食堂には人気が多い。酒を飲んでいる人間も見える。それにガルシア育ちはちげえのか? とクンラートが答えた。


「年明けが近いからだ。年明けは皆で盛大に祝おうってやつが普通なんだよ。ガルシアじゃ違うのか?」

「ガルシアでは家族で年明けは過ごすものだ」

「ふうん。なんか寂しいねそりゃ」


 ガルシア組は風土にも慣れるべきだな。と私とディーデリックに告げて、クンラートは朝っぱらからエールを飲んでいる。


「そういや次の年の神はどいつなんだ」

「猫さんだったわ」

「年明けまで三日くらいだろう。そのうち神託が降るんじゃねえの」


 早々に神殿は発表出来ないだろうが、神託は神殿へと向けて手紙を使うつもりだ。そう言うと、それじゃあ遅い。とクンラートが言う。


「鳩便を使った方がいいな。年末年始にやってるか怪しいが、金握らせりゃなんとかならあ」

「年始から働かせるのも可哀想な気もするけれど、鳩さんを」

「おまんま食うには働かなきゃな」


 と言うことで俺たちも国目指して働くためにギルド行くぞ〜。と緩くクンラートが告げる。一応この中で一番の年長者ではあるので彼に意見は聞くに値するだろう。


 食事を摂り終えて一旦部屋に戻り準備をする。この宿場町のギルド支部は小さなものらしく、目ぼしい依頼なんてないだろうから、登録した後、今日一日は準備を整えることに使うとのことだ。重い荷物も持たず、マレイケが貴重品だけ持って部屋を出た。


 四人集まってからギルド支部へと向かう。向かう道すがら、店が年末年始での追い込み営業中らしく、どこの店も活気がある。


「今準備出来るのは良かったかもな。どこの店でも割引だサービスだなんてやってる」

「へえ。俺の父母の店は、年末年始なんて暇なものだったけれど、この国は面白いな」

「ガルシアはお上品だな。ぱーっと騒いでぱーっと綺麗な姉ちゃんに金使うんだよ。年末年始なんて」

「クンラート、ユウキ様の前でそのような不埒なことは言わないで」

「かーっ、その硬いのどうにかなんねえのかあ? マレイケよお」

「まあまあ、ギルド、あちらの建物かしら?」


 二人を諌めながら、前方に見えてきたそれらしき建物を指差した。


「ああ、ヒティリアではあの釣り看板が目印だって覚えておきな」

「あれは、ドラゴンかしら」

「龍だよ。まあドラゴンって言ったらそれでも合ってはいるがな」


 釣り看板に形取られているのは、前世の日本で見ていた長い体を持つ龍らしかった。国によってギルドの看板も特色があるのだろうか。

 入るぞ。との言葉に、クンラート、ディーデリック、マレイケに続き最後に扉から中に入った。

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