【1話完結】雨に晴れる恋心

空豆 空(そらまめくう)

雨、それは恋の転機


「あーあ、ついてないなー」


 私はバイトの制服に着替えながら、窓の外を眺めて思わずそうボヤいた。


 外は予想外の雨。それも横殴りの雨だ。


 昼間はあんなに晴れていたのに、私の期待は大外れ。


 せっかく……片想いしてる谷岡さんと、久しぶりに一緒のシフトになれたのに。




 私のバイトしているこのカフェは、雨が降ると途端にいつもの倍以上のお客さんでごった返す。


 雨宿りのために来店する人、迎えの車待ちの人、バスの待ち時間を潰す人……、みんな雨のせいだ。


 雨さえ降らなければ、バイト中に谷岡さんと他愛のない会話が出来たかもしれないのに。


 空の色みたいに、私の心もどんよりと曇る。



——案の定、私が出勤した時にはもう満席で、順番待ちのお客さんが入り口の外まで並んでいる状態だった。


 ご案内、オーダー、配膳、片付けにレジ……


 谷岡さんと話す余裕なんて全くないまま、バタバタと時間だけが過ぎていく。


 それでも時々見られるテキパキと調理をこなす谷岡さんの背中に、ドキドキと胸が高鳴った。




 あーあ、気付けばもうすぐ谷岡さんが帰ってしまう時間。一言も話せなかったなあ。


 そんな事を考えていた時。


「谷岡ー、悪いんだけど、あと一時間だけ残ってもらえないかな。今日こんなに忙しくなると思ってなかった」


 谷岡さんに話しかける店長の声。


 え? あと一時間?? そうしたら私と退勤時間が一緒になる!! それなら……退勤した後、少しくらい話せるかな。


 少しわくわくしながら残りの一時間を乗り切った後。


「お疲れ様ー。今日は忙しかったねー」


 谷岡さんの方から話しかけられた。


「あ、はいっそうですね。雨降るなんて思ってませんでした」


 思わず声が上擦りそうになる私。


 わー、話しちゃった!! 


 密かに心の中で舞い上がる。


 すると、思いもよらない事が起こった。


「今日、雨だし送って行こうか? 俺、車で来てるんだ」


「え?」


 信じられない。雨さまさまじゃん!!




 谷岡さんの運転する車の助手席に座る私は、もうドキドキが止まらなくて。


「いやーそれにしてもすごい雨だね。雨だとうちの店、容赦なく混むよねー」


「そうですよね、もうお客さん、お店の外まで並んじゃってて、大変でした」


「でも、あんなにたくさんのお客さんさばいてたんだから、すごいじゃん」


「そんなそんな、谷岡さんこそ!」


 雨で渋滞した車の中で、雨を話題に谷岡さんとの会話はどんどん弾む。



 バイト前までは、あんなにうとましく思っていた雨なのに。


 今はその雨に、感謝してる。


 

 “この時間が、いつまでも続けばいいのに”


 

 止まない雨の中、そう思う私の心とは裏腹に、私達を乗せた車は、私の家の前で止まった。


 あーあ、この楽しい時間はここでおしまい。


 そう思った時、


「なぁ……」


 谷岡さんに話しかけられた。


「え?」


LEINEレイン……聞いてもいいかな」


「はいっ!」



——雨が止んだその日の夜。


『今日はありがとうございました!』


『いえいえ、よかったら今度晴れた日に、ドライブでも行かない?』


 今度はスマホの中で、嬉しいやり取りが始まった。



 今の私はわくわくと晴れやかな気分。

 どんより気分だったはずなのに。


 これは全部雨のおかげ……なのかな。



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