第7話 配信者、買い物に行く
今日はドリを連れて近くのショッピングモールで買い物をする予定だ。近くと言っても車で何時間もかかってしまう。
目的はドリの服と靴などの生活用品や畑に必要な道具を買うことだ。ホームセンターならもう少し近場にあるが、子ども服が売っているところはここにしかない。
こういうところが田舎の不便さを感じてしまう。
「パパ!」
そんなドリは初めてきたショッピングモールに目を輝かせていた。いや、正確に言えば売っている観葉植物を見ていた。
「これが欲しいのか?」
俺の言葉に首を横に振っている。
「畑で育てたいってこと?」
「うん!」
どうやらドリは畑で観葉植物を育てたいようだ。流石に観葉植物は畑ではなく、室内で育てるようなものだ。できてもユッカや竹ぐらいだろう。
「あっ、そうだ! 近くに花壇を作ってお花を植えてみようか!」
植物を育てたいのであれば、お花ならちょうど良いだろう。畑でも育てることができるし、蜂が来るようになれば受粉の手伝いをしてくれる。
野菜や果物の収穫量や品質を上げるには必要不可欠になる。
花の種を売っている売り場に向かうと、急にドリは走り出す。
「ドリ待って!」
思ったよりもドリの足は速かった。単に俺が運動不足なんだろうか。
「パパ! ハナ!」
ドリが向かったのは花の種売り場だ。それよりも親として急に走ったことに注意しないといけない。
誰かにぶつかっては、あのドリなら大人でも吹き飛ばしてしまう恐れがある。
お年寄りに当たって骨折なんかさせてしまったら、ドリも一生嫌な記憶として残るだろう。
「お花の種を見つけてくれたことは嬉しいけど、急に走ったら危ないよ」
首を横に傾けているため、あまり理解ができないのだろう。
子供の方が強いって言っても理解はできないだろうし……。
「ドリが迷子になって、一生会えなくなったらどうするの?」
言葉の意味はわかってはいるが、何がいけないのかわかっていなかったのだろう。
ドリの目がうるうるとしている。
あっ、ひょっとしてこれは泣いちゃうやつだ。
「イヤイヤ!」
ドリは俺の服の裾を掴み離れようとしない。きっと会えなくなるというのが理解できたのだろう。
少し言い過ぎたのかもしれないが、物分かりが良いドリにはちょうど良いのだろう。
世の中子育てをしている人達を本当に尊敬する。
ただ、相変わらず掴む強さが異常だ。服がワンサイズ大きくなる勢いで伸びている。
「だから勝手に走ったらダメだぞ!」
「うん!」
頭を優しく撫でるとドリは泣き止んだ。本当に親になった気分だ。
「ドリはどの花がいいかな?」
たくさんある花の種からドリに選んでもらう。
「えーっと、パンジーでいいのか?」
ドリはパンジーの種を指差していた。今の季節的には春から夏にかけてがちょうど良いだろう。他にもキンセンカやコスモスを買うことにした。
ドリに種を持たせてレジに向かう。買ってもらえることが嬉しいのかルンルン気分で歩いている。
それでも俺の服の裾を掴みながら歩くのはえらい。
次はお目当ての服を買いに行くことにした。
♢
「どの服がいい?」
たくさんある服の中でドリは迷っているようだ。センスがない俺が選ぶよりは、ドリが着たいのを買ってあげたほうが良いのだろう。
「パパ!」
「本当にこれで良いのか?」
ドリが持ってきたのはオーバーオールだった。
「イッショ!」
ひょっとして作業用のつなぎが欲しいのだろうか。俺は畑作業する時に、汚れても良いようにツナギを着ている。
だから、形が似ているオーバーオールを持ってきた。
「他にはいらないの?」
「うん!」
どうやらドリはオーバーオールが気に入ったらしい。流石にそれだけではお出かけもしにくいため、いろいろ並べて見せると、緑がお気に入りの色のようだ。
「じゃあ、オーバーオールと緑のスカートとズボンと服を何枚か買って行こうか。パジャマは花柄がいいかな?」
花柄のパジャマを見せると、ドリは飛び跳ねるように喜んでいた。どうやら女の子っぽい服も好きなようだ。
レジでお金を払うとドリは手を伸ばしていた。
「小さい袋にお詰めしましょうか?」
気を利かせた店員がシャツを一枚小さな袋に入れてくれた。
「はい!」
それを渡すとドリは頬を膨らませていた。これはどういう意味なんだろう。
ひょっとしたらまだ買い足りないのか?
「服の枚数が足りないのかしらね?」
試しに俺の持っている袋を渡すと、満足そうに抱きかかえている。
小さい頃って買ってもらった物を全部持ちたいと思ったこともあったな。お菓子とかおもちゃは特にそんな印象だ。
「ありがとうございます」
店員にお礼を伝えると、俺達はショッピングモールを後にすることにした。力はあっても流石に袋が大きいのかドリはヨタヨタと歩いていた。
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