ある日、引き籠もり少年がフロンティア・トラベラーになった件について
神永 遙麦
生きる意味を望む者
学校に行けなくなった凌弥
僕を見てほしい。誰にも見てほしくない、目があったらお終いだ、ただ教室の隅で目立たずに過ごしたい。誰かに僕だけを見てほしい。
凌弥は何度も足を前に出そうとした。必死に脳から足へと信号を送った。動かない。もうすぐ1時間目が始まる。胸元を引っ掻くように掴んだ。真新しい学ランにクシャッと皺が寄った。
何で足が動かないんだ。手は動くのに。
もうそこに中学校が見えてる。ここまで重い足を引きずりながらも、歩いて来られた。
急がないと。
そう思えば思うほど、どんどん足から力が抜けていった。
「学校に行かなきゃ」
そんな思考がどんどん大きくなって行くにつれて、足が萎えていった。
学校のチャイムが鳴った。門が閉まった。もう入れない。門にいた先生たちがいなくなった。
凌弥の足に少しずつ力が戻っていった。足の力が戻るにつれて、目尻が涙できらめいていく。
凌弥は両の足でフラフラと立ち上がり、家に向かって歩いた。
今日は父さんも母さんも仕事。
家にたどり着いた、凌弥は玄関の鍵を開けた。2階に上がって、部屋に閉じこもった。夜に夕魅が帰ってくるまで、部屋の隅で膝と頭を抱えて座り込んでいた。
*
翌日、凌弥は学校に登校した。ゴミ箱の洗礼を受けた。何でか靴が無くなった。
翌々日、凌弥は学校に通えなかった。
1ヶ月後、1週間ぶりに登校した。この間無くなった靴がなぜか唐辛子漬けになって飛んできた。
2週間後、凌弥は1時間目と2時間目を欠席した。風紀の先生に追いかけられ、髪を黒に染めるよう言い渡された。ライトブラウンの髪は生まれつきなのに。
3ヶ月後、凌弥はいつも通り登校した。急に剣道部からリンチにあった。
1週間後、珍しく家にいた母親に相談しようとした。けれど、言えなかった。
1ヶ月後、同級生の花ケ迫さんは休みだった。机の上にカミソリとハチの死骸が入っていた。カミソリとハチの死骸を払うと、似顔絵が入っていた。凌弥の青銅色の瞳と鷲鼻を誇張し、バカにしたような絵だった。
1ヶ月後、体育館まで探しものに行ったら、隠れていた上級生に体育マットに巻かれて50分出られなかった。一組の学級委員長に助けられた。
翌日、凌弥はまた学校に通えなかった。翌々日も通えなかった。1週間後も。
1年経っても。
*
学校に通えなくなってから今日で1年。
凌弥は11月7日と表記されたカレンダーを虚ろな目で見た。胸の、たぶん心がある辺りが急にギュウギュウと痛みだした。
こんなのがずっと、一生続くのか。
そう思った時、心底早く消えたいと思った。
胸の痛みはどんどん酷くなっていく。今は昼、けど夜になって横になると死しか見えない。凌弥は胸元を掴んだ。死がずっとライオンのようにこっちを狙い続けているんだ。患部が取れろ、取れちまえ、心臓だろうと構わないから取れちまえばいい。蹲っているうちにお腹や肩にも力が入って行った。のたうち回っている音なのか分からないがドンドンドンという音が響いている、和太鼓のような音が頭の中から響いている。どこからか流水音が聞こえた、どっかの主婦が帰ってきたのだろうか?スマホが震えた、視界がぐにゃりと歪んだ。
*
流水音が聞こえる、鳥の鳴き声が聞こえる。
凌弥は目を開いた。その瞬間、目がカッと大きくなった。身を起こそうとしたが、背中がズキッと痛み倒れた。なぜか手足も痛い。
「どこだ、ここ?」
起き上がれない代わりに、なぜか痛む首を、ぐるっと回した。
頭の右上には木。葉っぱが日を透かして緑色の輝きを放っている。人の気配はないし、森かな?
背中の下にはチクチクする草。
血塗れの左腕が川に浸っていて、パーカーがびちゃびちゃ。水はすごく冷たい。岩に苔が生えている。
真上を見たら、太陽が燦々と輝いていて、目がやられた。思わず目を瞑った。
再び目を開くと、少年が凌弥の顔を覗き込んでいた。
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