10 君が泣くことはない。
お祖父様の館に着いたのは、王都を出て4日後の夕暮れ前。
行程は順調だったのだけれど、ローズのせいで予定が台無しになってしまった。
《イーライ、お話をさせ》
《ローズ、僕ら疲れてるから明朝にして》
《キャヴェンディッシュ候、ご入浴の準備をさせて頂きたいのですが》
『あぁ、直ぐに湧く様にしてあるでな、準備させよう』
《では、お夕飯のお支度を》
『うん、好きにしておくれ』
《じゃあ部屋でゆっくりさせて貰うよ、行こうイーライ》
「うん、申し訳御座いませんローズ嬢、失礼させて頂きます」
《ぇえ、構わないわ》
イーライの家の母親もそうだけど、ウチの母親も甘い。
大方、謝罪するとローズが泣き付いてこんな事になったのだろう。
「はぁ」
《僕は少しお祖父様と話してくるから、ウォルターと良い子で待っててね。絶対に1人で行動しない、ローズと2人きりにならない、良いね?》
「うん」
『お茶を淹れるからおいで、イーライ』
ウォルターが居てくれて良かった。
それこそ良い子のイーライが謝罪したら、それを利用して何を言い出すか分からないんだし。
《失礼します、お祖父様》
『あぁ、うん、怒っとるよねぇ』
《いえ、流石に追い返すには難しい時間に来たんでしょうから。でしょう、ローズ》
《ごめんなさいお兄様、けどお兄様の事も》
《そうした物言いが僕は大嫌いだと何度言えば分かってくれるんだろうか、前にも言った筈だよね、聞かれた事に対して最初に返事をするのが身内の話し合いにおける最低限のマナーだって》
《ごめんなさい。はい、お祖父様が追い返せないであろう時間に私が参りました》
《で?》
《イーライを苦しめていた事を謝罪したくて》
《予定はコチラから伝えた筈だけど、どうして予定を乱したの?早く謝りたいから、だけ?お祖父様に取り入って貰おうとは微塵も思わなかった?》
《いえ》
《もっと詳しく、それに相槌を打って貰わないと話を進められないなら、手紙で良いんじゃないかな?時間は有限だよ?》
《ごめんなさい》
《どれについて謝ってるの?簡潔に話せないなら会い来るべきじゃなかったんじゃない?》
『お主、凄い怒っておるよね?』
《躾けのつもりで叱っていたんですが、そこまででしたら控えます》
『いや、うん、分かっておるなら良いんじゃよ』
《加減して、今までキツく叱らなかったせいで、こうなってたのかも知れないとは思っていますよ》
『ぁあ、ココまでは初めてなんじゃね』
《教育の為に敢えて濁し、考えさせていましたから》
『うん、そうか、邪魔してすまんパトリック』
《いえ。で?僕にどう思われるかも考えずに、ココまで来たのかな?》
《ごめんなさい、その、今からでも》
《夜道を帰るの?それでもし何か有れば僕やお祖父様が責められるんだけど、そう責められて欲しいワケ?》
《そんな!そうでは無くて》
《冷静に話せないなって、自己判断出来ないのかな》
《すみません、失礼します》
やっと引き下がってくれた。
お祖父様を困らせない為には、僕の顔を見た時点で下がれば良かったんだよローズ。
『コレ、うん、明朝で正解じゃよね。うん、すまん』
《いえ、お祖父様は嘘がクソ下手ですし、仕方無いですよ》
『クソて、うん、まぁ、助かった』
《では、明朝に》
まさか、朝食後の優雅なひと時の後で、コピペみたいな問答を目の当たりにするなんて思わないじゃん。
《イーライ、本当にごめんなさい》
《謝るなら最初からしなければ良かったし、正すタイミングは幾らでも有った筈だけど?》
「あの、理由を」
《それはだから、寂しくて》
《寂しかったら何をしても良いんだ。とっくに僕の耳にも入ってるんだよ、他の男に粉を掛けてたって》
《ちが、好きなのは》
《イーライだけ?なら粉を掛けなければ良かったよね》
《もう2度と》
《既にしてしまった事が問題なんだよ、それに今後なんて無い》
《別れるのだけは》
《もう別れてる状態だよ》
《本当に、後悔し》
《人間関係はガラスや卵よりも繊細だって言った筈だよね、しかも君が壊しまくって元に戻るワケが無いと、どうして分からないのかな?》
《ごめんなさい、でも好きで》
《あ、寂しいなら粉を掛けてた子が居るじゃない、アレにすれば?》
《彼は別に》
《凄い仲良くしてたって聞いたし、僕も見掛けた事が有るけど?》
《別に好きじゃ》
《好きでも無い者に優しくして、好きな者を虐げるのが君の流儀?》
《虐げてなんか》
《自覚が無かったんだ?》
《もう、しま》
《同じ話を繰り返す気なら追い出すよ?》
《ごめん、なさい》
《自分が悪い立場になった時こそ、絶対に泣くなと教えられた筈だよね。それとも慰めが欲しいなら、粉を掛けた子に慰めて貰ったら?》
《そんな、婚約者でも》
《婚約者でも無い人間に擦り寄って周囲を誤解させ様としたのは誰だったっけ?》
《それは、だから誤解で》
《誤解される様な事をすべきじゃないとは思えないんだね?》
《それは、イーライが》
《じゃあイーライが何を誤解させたの?君の言い付けを全て守って、女性とは2人きりにも、3人にもならない。常に髪で顔を隠し、プレゼントも付き添いも全て疎かにする事無く、こなした。それに対して君は何をしたの?》
《ごめんなさい》
《何を謝ってるのか具体性に欠けるし、そもそも相槌を必要とする会話の仕方は学園入学前までしか許さない、と教えられた筈だよね?》
《私は、誤解させる様な、事を》
《時間は有限だとも教えたよね?しどろもどろになるなら手紙で良いんじゃない?今話し合う意味ある?》
「パトリック」
《イーライ、ごめんね、イライラするでしょう?》
「いや、寧ろ君に対して呆気に取られてる、君こそイライラしてない?」
《ううん、心配してくれてありがとう、僕は至って平常心だよ》
嘘じゃないのがまた、怖い。
いや、そんな事を思ってる場合じゃないな。
「どうして、あんなに冷たくしたのか、聞きたいんだけど」
《私に、微笑んでくれなかったから、お兄様に笑い掛ける様に、私に微笑んで下さらなくなったから》
我が妹ながら、本当にどうしようも無い。
イーライの可愛さにつられて。
《そんなに喜んでらっしゃるなら、婚約者になってあげても宜しくてよ》
照れ隠しにしたって、あんな高慢な物言いをして。
しかもその時のイーライの表情を見れば、自分が間違った言葉の選択をしたと直ぐに分かった筈。
幾ら直視出来無い程に可愛かったとしても。
好きだからこそ、ちゃんと反応を読み取るべき。
なのに。
「それはごめん、けど無理だよ、あんな高慢な物言いをされちゃ。それこそパトリックは優しい物言いだったし、ちゃんと僕の顔色を伺ってくれた、今でも僕の様子を気にしてくれてるって分かるもの」
嬉しい。
ちゃんと僕が見守ってた事を、ちゃんと理解してくれてる。
《アレは、最初は、照れてしまって》
「その後もだよ、会う度につっけんどんな態度を取られて、そんな物言いをされて。嫌味に命令口調、気を使っても察しろって言うだけで、ヒントもくれない。毎回プレゼントに、気に食わない、流行遅れだ、もっと早くにくれたら良かったのにって。そう言って最後には、
うん。
流石の僕でもイーライがそんな態度なら、愛情や好意を疑うし、傷付くもの。
《だから、それは、素直になれなくて。言えなくて、恥ずかしくて》
「なら手紙でも良かったんじゃないかな、それこそ黙って受け取って、後で手紙をくれてたらまだ分かるけど。工夫してくれなかったよね、素直になれない事も知ってたけど、ただ僕に嫌味をぶつけてただけだよね」
《ごめんなさい》
「それこそパトリックが言ってた様に、もっと前に、素直になれなくてごめんなさいって、ちゃんと言ってくれてたら少しは違ってたかも知れない。けど君は手紙ですらも相変わらず、プレゼントの文句、付き添い時の文句、褒めた事なんて殆ど無いでしょう」
《ごめんなさい、アナタは完璧だった。けど、私に》
「パトリックに笑い掛けるみたいに、微笑まなかったから、冷たくした?」
《はぃ、ごめんなさい》
「そう僕に伝えた?」
《いえ》
「素直に言ってくれたらって、ずっと考えてた、けど粉を掛け始めた事で本当にガッカリしたんだ。僕は君の為に出来るだけしてきたつもりなのに、君は家名の事も気にせず、僕を嫉妬させる為に粉を掛けた。誰の為にもならない事を君が選んだ時点で、もう完全にすっかり冷めてた。けど君やパトリックやお爺様の為、家の為に我慢してきた。勿論、嫉妬出来無い自分が悪いんだとも思ったけど、傍から見て大事にされてない僕が、どうやって嫉妬出来ると思うの?」
《ごめんなさい》
「自分がされても嫌じゃなかったの?」
《いや、です》
「そんな事を何年もされて、それでも本当に微笑む事が出来るの?」
《社交の場では無くてね、身内として過ごす時間に。もし出来るって言うなら、今直ぐに表情を立て直してみせてよ、ローズ》
《ごめんなさい》
「そこはもう良いんだ、だって好きじゃないから微笑むとか無理だったんだもの。如何に好きになるか色々考えたけど、ローズ、君なら好きになれたの?」
《私、だから不安で、ごめんなさい》
「不安なら何をしても良いって習った?」
《いえ、貴族こそ、不安を解消すべきだと》
「王族の君に相応しい振る舞いをって、僕は頑張ってたと思うんだけど」
《それは、はい、イーライは何も悪くは無いのだけれど》
《けど非難し褒めなかった。そも王族の末端としても、貴族としても最低の振る舞いだよね》
「パトリック」
《ローズがどうしてこうなったか、お祖父様にもこの際だから僕の考えを聞いて欲しいんだよね。何故、どうしてこうなったのか》
『うむ、頼むよパトリック』
パトリックが言うに。
そもそも流言飛語を受け入れてしまう素地が育った事が問題だ、と。
《ほら、ウチって恋愛物の本が多いでしょ?それこそお母様も大好きで、演劇や何かにも良くローズは同行してた。それがダメだったんだと思う、創話は創話、史実は史実。その教育が行き届かなかった》
『あぁ、良い様に作用すれば良かったんじゃけどねぇ』
《そのまま恋愛に関する話を鵜呑みにする様になって、学園では流言飛語を疑う事すらもしなくなった。甘言ばかりに耳を傾け、諫言について考慮しなくなった、何故か。全ては恋愛が上手くいけばどうにかなるだろう、と言う恋愛至上主義教団に汚染された結果だと思う》
『成程、君も知っとる?恋愛至上主義教団』
『はい、噂程度ですが』
「僕、知らないんだけど?」
《イーライは社交場でも避けられてたからね、無理も無いよ》
《そん、別に、私はあんな教団になんて》
《そうそう、コレコレ。何故か皆言うんだよね、自分はそんな思想や主義じゃない、って》
《僭越ながら、私の周りにも1人、被害者が出た事が有ります》
《そんなの、それこそ教育を》
《確かに学園程の教育がなされた者では有りませんでしたが、全く周りを省みず、完全に居場所を無くしてらっしゃいました》
《ほら、ですから私は》
《ローズ、君に居場所が有ると思ってるの?》
「パトリック」
《僕じゃないよ、それこそ学園の人間が、だよ。考えてもみて、婚約者が居ながらも他の男に粉を掛ける様な素振りをし、上手く行かないとなれば婚約破棄をチラつかせ。破棄されたとなれば狼狽え、学園を休んで話し合いの予定も無視する。そんな者が王族だなんて、それこそ貴族の恥晒し、馬鹿にされ、遠巻きにされると分かっていた筈が。こうなった、コレこそが信者の思想を反映しているよね》
《そんな、けど私、違うんです》
《じゃあ誰にも、何も言われず、全て自分の意志で決めて考えて、ココまでの事をしたって事で》
『ローズや、誰にも、何も言われた事は無いんじゃろか?良く思い出してみるんじゃ』
《別に、私はそんな、そんなに弱く》
『すまんイーライ、下がってくれて構わんよ』
《待って!》
《待てと言ってお前は待ったの?縋り困らせる事が愛だと本気で信じてるの?》
《違う!違う!》
《けどお前は困らせる事ばかりで》
《でも好きなら!》
「好きでも、何事にも限度が有るんだよ。じゃあさ、好きなら自分のクソを喜んで美味しそうに食ってくれる?本当に美味しそうに、喜んで食べるの、出来無いでしょ?」
《それで、好きに、なってくれるなら》
「例えば、だよ。そんな事をされても僕は好きにならない、謝られても好きにはならない、困るのは嫌いなんだ、凄く迷惑だから」
《ごめんなさい》
「うん、下がらせて貰うね」
『すまんが付き添ってやっておくれ』
『はい』
私は、そんなに意志は弱くない、バカじゃじゃない。
そんな、操られるワケが。
《面白いから適当な事を言って、時に慰めて、そうしてもっと情報を引き出そうとするんだよ。オモチャにする為に、だから信頼出来る者の情報しか取り扱うなと言っただろ》
《でも》
《素直になれ、謝れ、言い過ぎだと言った者を遠ざけただろう。イーライを取られたく無いからと》
《だって》
《もう、信じたいなら信じれば良いよ。学園に戻って確認してみれば良いよ、自分の立場も友人だと思っていた者の言動も、確認してみなよ》
だって、私はちょっと、素直じゃないだけで。
『ローズや、お茶にしよう』
《お祖父様》
《じゃあ僕は下がりますね、では》
《お祖父様》
『ローズ、先ずはお茶を頼む』
修羅場。
やっちゃったなぁ、もう少し手加減すべきだったのに。
『イーライ』
「加減しなかった、すべきだったのに」
『いや、イーライは悪くない』
「それは、ウォルターは全てを知らないからで」
『だとしても、反論出来無い時点でアレは承諾したも同じだ』
「けど、でもさ」
《イーライ?》
「ごめん、手加減すべきだったのに」
『手加減する部分が、有っただろうか』
「負い目が有る、最初から無理だって、思ってたから」
《それはそうだよ、あんなんじゃ》
「でも、けど」
《イーライの前の事は分からないけど、努力してたのはちゃんと知ってる。見て来たし、皆も認めてる》
『その努力が足りないと言えるのは、真に、全く同じ状況の者だけ。その同じ状況だった者が、それこそ友人なら、責めるんだろうか』
よく頑張った。
羨ましい。
そう言ってくれるとは思う。
けど、だからこそ、もう少し何とか出来たんじゃないのかって。
この世界だからこそ、もっと。
《ほら、だから聞いて欲しくなかったのに、自分を責めてる》
『私達ですら難しいと思う努力をイーライは何年も継続させた、それだけではダメなんだろうか?』
「罪が、それこそ原罪が」
『イーライ、それ以上はいけない、休もう』
《イーライは悪くない、頑張った、大丈夫だよイーライ》
生まれ変わったのに、生まれ変わっても。
『ローズや、名節って知っとるかの』
《名誉と、節操、でしょうか》
『じゃよ、原典は知っとるか』
《いえ》
『まぁ、ザッと言うと世は上手くいかんもんじゃ、と。大概、上手くイカンと嘆く文なんじゃけど。どう、上手くイカンのか、じゃよね』
《はい》
『負の学習、やってはイカン事だけを学ぶのもイカンし、良き見本だけを学ぶのもイカン。その理由は分かるじゃろか』
《良い事だけを学んでも、悪い事を学んでも、活かせない》
『何に活かすんじゃ?』
《貴族として》
『貴族では無くなったら活かせんのじゃろか?』
《いえ》
多少のお転婆も、それこそ粉を掛けるフリじゃとかも、普通なら若い頃の過ちで済まされるんじゃけど。
婚約破棄となれば、一気に問題化するんじゃよねぇ。
『ふむ、まだ頭が働かん様じゃな、庭でも見に行くと良い。キャサリンじゃったか』
《はい》
『一緒に見回ってくると良いじゃろ』
《はい、では参りましょう》
《はい、失礼致します》
ふむ、このままでは廃嫡直行じゃよね。
例え追い込まれ様とも、どんなに立場が悪くなろうとも、冷静に抜け道を探さねばならんのが王族であり貴族なんじゃし。
偶に生まれるんじゃよね、令嬢らしからぬ子が。
それこそ平民で有れば生きるのも楽なんじゃろうけど、アレはな、双方の時間の無駄かも知れぬな。
『何とか眠ってくれたが』
《くすぐられながら怒ってたけど、仕方無いよね》
『君は、あの言葉を、どんなつもりで妹へと投げ掛けていたんだろうか』
《最後の手向け、悼辞だと思ってる。家族としての義務で、致し方なく、言ってあげた》
『最後、か』
《まだ若いし、それこそイーライが気にするだろうから直ぐに廃嫡は難しいだろうけど。向かないからね、あの子、貴族にも王族にも向かないもの》
『それこそ、恋に』
《じゃあ君はイーライにあんな酷い事が出来る?言える?褒めないでいられる?》
『いや、無理だが』
《可愛いからイジメるのとはワケが違う、君は今までに興味が無かったから分からないだろうけど、アレは本当に無い》
『なら、だからこそ、恋は怖いモノなのでは』
《バカにしてみたらただ振り回されるだけ、本分を理解してれば大丈夫。じゃあ、本分とは》
『イーライの幸せを1番に考え、幸せにする事』
《正解、ただ決して独善的にならない様にする事。悲しませない、幸せにする》
『だが、あの』
《ローズ?そんな気持ちが無いからこうなったんだよ、イーライに笑って欲しくて全力だったかと言えば、違う。恥ずかしいと感じる自分の気持ちを最優先させて、何も言わずに理解しろと迫った。けど僕らは違う、イーライに言葉も何もかもを惜しまない、惜しめないでしょ?》
『あぁ、無理だな』
《悪しき見本とするのは良いけど、ローズと僕は同じじゃない、ちゃんと違う命なんだから全然違う》
『あぁ、そうだな』
《僕らも少し休もう、イーライの為に》
全てはイーライの為に。
「話は聞かせて貰った、ごめんね」
『いや、うん、ワシも上手く丸め込めんですまん』
「いや、理由が理由だったし、ありがとうございました」
『うん、ワシの孫になっちゃわない?』
「いや、何で」
『パトリックの親は凡庸じゃし、パトリックは本家と養子縁組じゃし、したらばイーライが妥当じゃろ?』
「それこそローズが」
『最悪は、じゃよ。アレが良い夫を見付ければ問題無いんじゃが、お主より良い男とか逆に難しいんじゃよね?』
「検討だけは確実にしますが、善処出来るかは別なんで期待しないで下さい」
『うーん、コレじゃよコレ、じゃよね。濁すがキッパリ断る、うむ、良い良い。明日には学園か?ご実家じゃろか?』
「取り敢えずは実家で、飛び出した事だけは謝罪しないとなので」
『じゃよねぇ、そしたら手紙を渡すでな、渡しといてくれんかね?』
「何を書いてるか聞いても?」
『形式的な謝罪とかじゃよ、パトリックにはパトリックで渡して有るでな、うん。形式的なモノじゃよ』
「ご迷惑お掛けしました、ありがとうございます」
『うん、食事はアレじゃ、部屋でお食べ。アレはアレでワシと食うし、気にせんでな』
「はい」
くすぐられながら泣き叫んで、疲れて寝て、起きて。
凄いよな人間て、ある程度はリセットされちゃうんだもんな。
《それは?》
「ウチの親に手紙だって」
《あぁ、お夕飯はどうする?》
「部屋で食べろって」
《じゃあそうしよう、お風呂を先にしようか》
「1人でさっさと入るからね」
《はいはい》
顔を見ないで済むのは、本当に有り難い。
どうしても鬱々してどうしようも無い事を悩んじゃうし、心配掛けちゃうし。
「ありがとう」
《やっぱり一緒に入ろうか、念の為に》
「いや」
《冗談だってば、早く部屋に戻ろう、鉢合わせたら面倒だもの》
「ごめんね、兄妹なのに」
《気にしないで、ただの兄妹だもの》
くすぐりって凄いな、一瞬悩みそうになったけど、マズいなって思考にストップが掛かったもの。
うん、コレは暫く考えるのを止めておこう。
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