残り二チーム

 一方、京太とかおるは――


「ガンガール、静かですね……」

「ああ……」


 二人は岩陰に隠れ、風の音だけしか聞こえない戦場にいた。

 普通はFPSの大会なら銃撃音が続くと思われがちだが、弾にも限りがある。

 派手さを売りにしたハリウッド映画と違い、相手が顔を出さない限りは銃弾は発射されない。

 使用された銃弾一万発! などというキャッチコピーは使えないだろう。

 大会用の端末を見ると、そこには脱落者の名前に桃瀬、聖丸、それと知らない三人の名前があった。


「これは……」


 乱戦、混戦、協力戦、いくつかの状況が考えられるのだが、京太は確信していた。


「やったな、ピンキー……」

「さて、そうなるとこの大会で残ったのは私たち二人と、向こう側にいるガンガールの二人――銃子さんと、らきめさんだけですね」

「こうなった状態なら、もう横やりは入らないということだ。待っていても状況は動かない……。いや、フィールドが一段階狭まる数分後までは、だな」

「つまりは実質、膠着状態ですね」


 普通のFPSアバター同士なら、物陰から射撃で削り合うという手段もあるだろう。

 しかし、ひいき目に見ても射撃の腕ならガンガール側が有利だ。

 下手に打ち合うと、先に手持ちの回復アイテムが足りなくなって負けるだろう。




 ――一方、ガンガール側も離れた岩陰で大会用の端末をチェックしていた。


「あちゃ~……。何か勝手に必勝法があるとか言って飛び出していて、勝手にやられとるなぁ……聖丸……」

「素行が悪かったりと、あんまり良い噂を聞かないサバイブルも一緒にやられてるなの~。う~ん、たぶん聖丸っちが舐めプして、ピンキーっちの爆発力を侮って四キルされたなの~」

「まっ、そんなにヤバそうなピンキーを、どうやってか知らんけど相打ちにできたのは聖丸にしては上々やろ」

「銃子っち、リスナーさんも見てるのにお口が悪いなの~。……その通りだけど! あはははは!」


 らきめは、普段から溜まっていた鬱憤からか、いつも抑えている感情を出して大笑いしてしまっていた。

 それは向こう側に隠れている京太たちにも聞こえるほどだ。


「さぁて、楽しぅなって来たなぁ」

「銃子っち、上機嫌なの」

「せやな、もっともっと楽しませてもらうでぇ!」

「じゃあ、そろそろわたしっちのアレを使ってみるなの?」

「まだええんちゃうか? アレは強すぎてつまらんからなぁ」

「はーい」

「美味しいもんはじっくりや……」


 銃子はスナイパーライフルのスコープをのぞき込み、山猫の如くしなやかな体勢で時を待った。




 ――そんなガンガール側の事情も知らない、京天桃血。

 京太とかおるは未だ岩陰に身を隠していた。


「さすがに隠れっぱなしというのも、相手が移動する可能性があるな……」

「京太さん、ちょっと覗いてみてくださいよ」

「うーむ……」


 京太としては、覗いた瞬間に頭部をぶち抜かれると予想が付いている。

 配信のネタとしては面白いかもしれないが、本人としてはたまったものではない。


「あ、そういえば、かおる」

「何ですか? 私はやりませんよ!」

「いや、鏡って持ってるか?」

「そりゃ持ってますよ! 女子ですから! 普段は使いませんが、配信前にニパーっと笑顔の練習をしたりして、ずっと苦楽を共にした鏡がこれです!」


 どこかから取り出された手鏡。

 京太はそれをぶんどった。


「借りるぞ」

「あ、もしかして京太も顔のチェックですか? 最近は男子もそういうの気にするんですね~」


 何か男子に理解ある女子風に、うんうんと頷いているのが見えたがスルーした。

 京太は鏡の角度を合わせながら、岩陰からスッと出した。

 パンッと遠くから銃声が聞こえると同時に、手鏡がパリンと割れた。


「あああああああ!! 私の大事な鏡があああああ!! さっき苦楽を共にしてきたと言ったじゃないですかああああああ!!」

「あとで弁償してやるから喚くな」

「金の問題かバカヤロー!! この人でなしー!!」


 京太とかおるが大声で喧嘩をしていると、遠くから申し訳なさそうな声が微かに聞こえてきた。


「堪忍な~……!」

「大会が終わったらわたしっちが弁償するなの……。人の心がない京太っちを置いて、一緒に買い物に行こうなの……」


 どうやらガンガール側も申し訳ないと思ってしまったらしい。

 京太は岩陰でガッツポーズをした。


「よし、まだ銃子とらきめはあそこにいることが確認できたぞ。鏡は貴い犠牲だった」

「今この場で京太VS三人になりましたよ……!」

「はははは、この試合で勝ったあとに勝負を受けよう」


 そんなやり取りをしつつも、向こう――ガンガールの行動方針が見えてきた。

 あの遠くの岩陰から動かず、スナイパーライフルで狙い続ける気だろう。

 こちらは岩陰から覗き込んだだけで正確無比な一撃を受けることになる。

 ここから移動して、別の遮蔽物へ行くなど夢のまた夢だろう。

 動かず撃ち合うとしても、狙いの正確さが違いすぎるので勝負にならない。

 何とかして近付かなければ、勝機が掴めないのは明白だ。


「どうするか……スモークグレネードでもあれば目くらましになるが……」

「うーん、そんなものは持ってないですねぇ……。あるのは銃が二本と、バックパックに予備弾丸、回復アイテム……」

「俺の方は――……よし、これを使うか!」

「げっ、それ・・持って来てたんですか!?」

「せっかくのレアアイテムだしな」


 京太はニヤリと笑った。

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