裏切りの理由

「過去に死んだ親友の亡霊に囚われ続けている……?」


 突然のことすぎて、ついオウム返しに聞いてしまう。


「そう……」


 想像以上に辛そうな表情をするらきめを気遣ってか、かおるが肩に手をやって心配そうに声をかけた。


「あの、無理に喋っていただかなくても……」

「でも……そうしないと信用が得られない……」


 人の死に関するトラウマを強制的に話せというのは、京太にも何となく辛さがわかってしまう。

 乗り気ではないが会話に入っていくことにした。


「別に俺はそういうのには興味がない。ただお前が役立つかどうかで判断するだけだ」


 そうぶっきらぼうに言い放って、話を中断させる流れにした。

 本当は続きが気になるのだが、それは相手が話したくなったらでいいだろう。


「まったく、お優しい方々で……。昔の銃子チームにちょっと似てる……」


 らきめはボソッと呟いた。


「さてと! それじゃあ、私っちがどれくらい役立つか見せていってあげるなの!」


 一瞬でVTuber配信モードに切り替わるのはさすがだ。

 プロとしてのスキルを感じる。


「それじゃあ、ちょっとPCを借りるなの~!」

「あ、どうぞ」

「……このPC、性能微妙だ」

「素に戻った声で言わないでくれませんか!?」


 デスクチェアに座ったらきめは、デスクトップにあった流行のFPSゲームであるPU・PEXのアイコンをダブルクリックした。

 そして新規のアカウントを作り、ログインする。

 ちなみに新規のアカウントを作ったのは、他人のPCでIDとパスを入力するというリスクを回避したのだろう。

 かおるのアカウントを使うというのも、他人によるアカウント操作は規約違反にあたる。

 普段のおちゃらけている一面とは違い、そこらへんは割としっかりした行動ができる思考の持ち主らしい。


「それじゃあ、どれくらいの腕があるかの証明をしていくなの~!」


 マウス感度などのゲーム設定を調整したあと、らきめは試合開始した。

 このPU・PEXは、三人×二〇チームで争うバトロワだ。

 武器などは落ちている物のみ使用でき、銃子主催のバトロワの下地になっていることは明白である。


「復帰した上級者向け設定にして、いきなり強敵と戦えるモードなの~」


 通常、始めたばかりの人間は、レートによるマッチングなどで初心者同士が当たるようになっている。

 しかし、らきめはそれをすっ飛ばしていきなり上級者とも当たるようにした。

 それらをモノともせず、らきめは順調に敵を撃ち倒していく。

 そして――


「らきめ、勝っちゃったなの~! やっぱりツイてる~! ラッキー!」

「い、いや……ラッキーとかじゃなくて、完全に腕だろ……」

「京太、VTuberにはキャラ付けというモノが必要ですから、そこは突っ込まずにいてあげてください……」

「あたし、何やってるか全然わからなかったよ……」


 三者三様の感想を口にするが、明らかにコーチに相応しいとは感じた。

 二〇チームで戦って勝つというのは、並大抵の腕ではない。

 道中の物資の奪い合いなどもあり、ただ運が良いだけでは勝つことが難しいのだ。

 らきめは二戦目、三戦目とチームを優勝に導いていく。

 最上位クラスの腕を持つのは明白だ。


「これで証明はできたなの~?」

「あ、ああ。コーチになってくれれば心強い……」

「それじゃあ、銃子っちのバトロワで勝ち抜くために準備なの~!」

「アバターでのイメージを掴むために、まずはFPSに慣れるための特訓だな……!」

「違うなの。ここはPC環境がクソだから、お買い物にいくなの~」


 予想外で肩透かしを食らったが、たしかにここには人数分のPCがないと気が付いた。

 やはり、しっかりと現状を把握して考えているようだ。

 とは思うものの、部屋の持ち主は感情的に声を上げていた。


「人の部屋に勝手に乗り込んできてクソ言うなですよー!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る