冬月の短編集

冬月鐵男

狭穂姫命と垂仁天皇

◯前の状況(説明)

 時は古墳時代、11代目天皇である垂仁すいにん天皇には、狭穂姫命しほひめのみことという妻がいた。

 その妻が、垂仁天皇を裏切り、共謀者とともに籠城ろうじょうする。

 垂仁天皇は、狭穂姫命を取り戻そうとするが失敗し、結果として城は炎上してしまう。




「垂仁様……さようなら」

 そういう、狭穂姫命の声が聞こえた気がした。

 その瞬間、垂仁天皇の頭の中には狭穂その思い出の日々が蘇ってくる。

「嫌だ……嫌だ!」

 燃え盛る城を前に呆然と見つめていた部下を前に、垂仁天皇は飛び出していく。

「嫌だ! 俺も狭穂と一緒だ、狭穂も死ぬなら俺も死ぬ!」

 勢いよく駆け出した垂仁天皇、それに気が付きた部下達がざわめく。

 すると、一人が飛び出て垂仁天皇の前へと行き、羽交い締めにする。

「馬鹿ッ、この無礼者! 離さんか!」

 そう部下を叱りつける、一瞬怯えたが縛り付ける力はゆるめず、後ろへと引きずって戻そうとする。

「嫌です、陛下が居なければ我々はどうするのですか!?」

「やめろ、やめてくれ。俺を置いていかないでくれ。狭穂、狭穂――ッ」

 垂仁天皇の嘆く声が木霊し、城は燃えていく。

 そして、燃え尽きた後……垂仁天皇の方も完全に燃え尽きていた。

「嘘だ……狭穂……狭穂」

 垂仁天皇は泣き続け、部下はどうしようか、と悩んでいる。

 するとそこに、狭穂との子供である鉾牟和気御子ほむちわけのみこがやって来て、優しく背中を撫でる。

「鉾牟和気……」

(そうだ……俺にはこの子がいるんだ)

 そう思い垂仁天皇は鉾牟和気御子を抱きしめて(しっかりしなくては)と思うのであった。

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