というわけで魔法少女
緑窓六角祭
1.少女/2.昼食/3.探索
1.少女
というわけで私、高木知枝は魔法少女になった。
詳しい経緯は省く。いつか話すことがあるかもしれないし、ないかもしれない。
高校2年生。魔法少女と言われてイメージする年齢からは少しだけ外れている。
それもずっと魔法少女をつづけてこの年齢になったわけじゃない。この春に始めたばかりだったりする。
黒髪ロング、目元は若干下がっててやさしい雰囲気があるとよく言われる。身長は平均ぐらい。
見た目が少女的かと言えばそんなこともなくて、体形の方もそれなりに発育してる、と思う。
他の魔法少女と並んだ時、すこぶるバランスの悪い感じがする。子供の中に1人だけ大人が混じってるみたいな。いや大人と言い切れるような年齢でもないんだけど。
しかもまだまだこっちは新米だから、たいていは相手の方が先輩だという。ただしそんな縦社会というわけでもないのでやりにくいことはない。
楽しくやってる。小さな子ばかり戦わせるのは悪いと思うからわりと積極的に活動してるぐらい。
2.昼食
「六本足の犬の話、知ってる?」
正面に座っているゆうがいきなりそんなことを言い出した。
「は? 何言ってんのあんたは」
その隣に座るハルサンは目の前のお弁当に視線をあわせたまま冷え切った声でそう言った。
ショートカット身長低め運動大好きなゆうと、長身セミロングふちなしメガネの文学少女ハルサン。
正反対な2人だけども小学校に入る前からの幼なじみだという。ちなみに私はと言えば中学で2人に会ってそのまま同じ高校に入ってこうして付き合いがつづいている。
普段はただの女子高生なので教室で友人と机をくっつけてお昼ご飯を食べる。ほとんどはくだらない話で内容は忘れるがこうしてたまに気になる情報が手に入ることがある。
どう見てもしゃべりたそうにうずうずしているゆうに私は問いかけた。
「それってどんな話なの?」
「よくぞ聞いてくれました!」
食べかけのアンパンをぐっと牛乳で流し込んでから、ゆうは勢いよく語り始めた。なんだかんだでハルサンも茶々入れずにその話を聞いていた、単に諦めてるだけという説もあるが。
ゆうが語った六本足の犬の話とは以下の通り。
「陸上部の後輩から聞いた話なんだけど、その友達の友達がね、ほら、あそこのファミレスあるじゃん、その傍にトンネルあるでしょ、国道? 太い道の下とおってるやつね、わかる? わかるでしょ、あそこのことね。何日前にそこ通りかかった時のことなんだけど、ばきばきめきょめきょ、何か硬いものを割って砕いてるみたいな音がしたんだって。あ、その子、もともと霊感とかあるんだって、これは別の道から帰った方がいいかもなあって思ったんだけど、ただの勘違いかもしれないしって思いながら、ゆっくりゆっくり進んでったら――犬がいたんだって、トンネルの中ほどに、柴犬ぐらいのサイズの、中型犬っていうのかな、で黒いやつ。その犬の口もとががりがり動いてて音もそこから鳴ってたらしいのね、そこで足止めてみたら口元から血が垂れてたんだって。さすがにやばすぎると思ってそこで引き返したんだけど、さっきの噛み砕いてる音が止まってて走りながら後ろみたら、犬がものすごい速さで追いかけてきてたんだよ。でその時気づいたんだけどその犬、足が6本生えてたんだって、普通の4本に加えてお腹のあたりに追加で2本。無事逃げ帰れたけどその子、熱だしてぶっ倒れて今も休んでるって話」
「昆虫じゃないんだから6本脚の動物なんているわけないでしょ」
「いるもん、六本足の犬、絶対いるもん!」
「なんなのそのテンションは……」
そんな2人のやりとりを聞きつつ私は唐揚げをかみしめた。私の直感があやしいと告げていた、なんの根拠もないけれど。
3.探索
帰宅部なので授業終わったら即座に下校、一旦家に帰っていらない荷物だけ置いたら再び出かける。
グループラインに今日聞いた話の簡単な概要とそれから今日の私の行動予定を流す。報連相大事。
ついでに他の娘たちからの連絡もチェック。特に緊急の話はない模様。
夏前、4時すぎ、まだ明るい時間。討伐はだめでも今日のうちにできればあたりぐらいはつけておきたい
典型的な被害報告だった。謎の生物の出現と原因不明の病気の発生。妖魔が絡んでる可能性が高い
妖魔の発見は早ければ早いほどいい。彼らが力をつける前に叩ける。早期発見早期対処が原則だ。被害が広まる前にちゃっちゃと見つけてちゃっちゃと潰しておきたい。
魔法少女には妖魔の存在を察知する能力がある。ただしその感度と範囲は人によって異なる。私はどちらも結構いい方だ。索敵は得意分野だったりする。
ただの根も葉もないうわさ話であるかもしれない、そうでないかもしれない。どのみち散歩は趣味みたいなものだからハズレでもそんなに気にしない。
記憶の中でそれを再構築してみる。昼間でも暗いトンネル。冷たくてじめじめしている。妖魔がどうこう関係なしにあんまり気分のいい場所じゃない。
入り口が見えてきたところで私は足を止めた。ビンゴ。びっくりするぐらいあっさり正解にぶつかった。ありがとう、ゆう。どうやら動き回るタイプでもないらしい。
『妖魔発見、これから対処に取り掛かります』
一報入れておく。もしもの場合もこれで安心。まあ『もしも』なんて考えたくない話だけど。
スマホをポケットにしまおうとしたところで着信音が鳴る。きらきらしてる感じのやつ――私と同じ魔法少女からの連絡だ。
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