転生したので登場人物皆殺しにする

鵜山 定水

第1話 身体はない

 私はそこに存在していた。意識が急に生まれた。そうだ。それが正しいだろう。


 しかし私には記憶があった。毒で死んだという記憶が。映像には起こせなかったものの、苦しいものであったと本能が覚えている。


 悲しいことに、私は前世の名前や顔などは思い出せなかった。しかし私は意識ができたときから言葉を理解できた。だからそうか。これが生まれ変わり、転生というのか。

 

 私が生まれた場所は森の中であった。何十メートルもある高い木々が日陰を作りあたりは鬱蒼としていた。私はこの世界にも人間がいると信じ森を抜けようと移動を始めた。私は移動を始めてすぐ異変に気づいた。景色は変わるが、足音も足跡もないのである。私は自分を殴ろうとした。しかし手はなかった。


「私には体がないのか?」


 声を出そうとしたが声らしき音は聞こえない。聴覚が死んでいるのかと思うも鳥の囀りは聞こえていた。私は落胆し虚空を見上げた。蒼昊には烏が飛んでいた。


「あぁ烏でもいいから身体がほしい」


 そう思った途端、視点が変わり森は視界の下まで移動した。私は空から町を見つけることに成功した。


 町へ移動している間に、私は段々と落ち着きを取り戻してきた。そして状況を整理し始めた。私は毒で死んだのだ。つまり、私は殺された可能性が高い。何故だ。私は殺されたのにのうのうとお前らは生きている。人の苦しみも知らずに葛藤も知らずに。腹立たしい。虫唾が走る。しかし、私は別世界に転生し、憑依の能力を得たということだ。つまり、私は人間にも憑依できるかもしれない。肉体が手に入るやも知れない。


 そんな事を考えている間に、私は町についた。見た目は川に囲まれた中世ヨーロッパ風の大きな城塞都市だ。周りの土地は小麦畑で金色に輝いている。人間もいたため、パラレルワールドというやつなのだろうか。言語はラテン系の言語だったが何故か理解ができた。前世では学者だったのだろうか?町では大通りで市場が開かれていた。


「プロディートルの勲爵士、イグニヘムへ加入してたとかで斬首刑になったらしいよ。」

「まぁ、恐ろしいねぇ。」


 何の話を彼奴はしているのだ?まぁいい。あいつに憑依してみよう。


              ?


 憑依できない。空中だとだめなのか?近づいてみよう。そうだ。せっかく烏なら、尿でも落としてみるか。


 ビチャチャチャチャチャチャ


 wwwww。


「何この水!」

「あの烏の尿よ!」

「あのクソ鳥め」


 そう言うと彼女は私に食いかけのりんごを投げてきた。私は不覚にもその投擲の餌食となり墜落した。私が脳震盪を起こしている間に、女は私の羽を果物ナイフで切り落とした。そして首も切られた。

 

 その瞬間私の視点は意識の状態に戻った。目の前には先程の女が居て、視点を下に向けると肉塊があった。私は女に殴りかかったがやはり当たらなかった。そして私を見ることもできないようだ。私はもうひとりの女に憑依することにした。


 視点が変わり私の目の前には女がいた。私は判断を付ける前に首に蹴りを入れていた。女は目の前で倒れた。ボールのような頭が私の足にあたり、それは実に蹴りやすそうだった。しかし、私はあえてボールに踵落としをした。血が地面に広がり始めたため私は後ろに下がった。


 私は止めが刺したかった。私は女の果物ナイフを奪い首に投げた。女は咆哮を上げながら死んだ。


 はぁ。疲れた。


「この人殺しめーーー」


 は?


 私の背中には槍が刺さっていた。耳を澄ますと悲鳴が聞こえ、視界はいつのまにか冥冥としていた。


 私はまた意識の状態に戻った。目の前には槍が刺さった女と槍を刺す男がいた。悲鳴を上げ逃げ惑う人々。


 囂しい。不愉快だ。


 私は槍を刺している男に憑依した。私は槍を抜いた。


「か弱い女に躊躇なく槍を刺すとは、全く。ん?この指輪は。あぁ、こいつは烏殺しの女と夫婦だったのか。南無釈迦牟尼佛。ハハハハハハ。

 さて、お前らは私を何度殺した?一二三。なんと三回も殺しているのか。で、私は一人しか殺してないな。おいおいおい。これじゃぁ、タイトルが『転生したので登場人物皆殺しにする』ではなくて『転生したら登場人物に殺されまくる』になってしまうなぁ。wwwww。あぁ↴。

 全く。いい加減にしろよ。まじで。俺がとてもおほらかな性格だと思って調子乗りやがって。私を助けようともせず。気色悪い。つくづく不愉快だ。」

 

 私は群衆に近づき自らの首に槍を刺した。私は意識の状態に戻った。それにしても羽をもがれたとき、腹を槍が貫いたとき、そして首を槍が貫いたとき、どれも痛みを感じていない。これはいいなぁ。


 私はすぐさま適当な民衆に乗り移り、槍を抜き適当な者の腹にやりを突き刺した。槍を抜きまた適当な者の頸に槍を当てた。幾千度も同じ事をし、人の数も疎らになってきた。私はその間何度も体を変えた。民衆が狂っていくさまは実に感慨深く、趣がある。私が憑依しなくとも民衆は民衆同士で殺害をし合った。赤児を殺す者もいた。人を信じれなくなったのだろう。中には、街から逃げようとする者もいた。愚かだ。私が意識の状態である時、私は隼より速く視点が動く。私から逃げることは不可能だ。しかし私にも飽和というものがある。流石に取り逃がしたものもいる。だが、彼らは新しい玩具冒険者を連れてくるだろう。私はその混乱の中で美しい若い女を探した。私という素晴らしき性が入れば、それは至高の領域に達する。しかし終に理想の人物を見つけることは出来なかった。


 そしてある時点で町から人が見当たらなくなった。


 あぁ、臭い。血腥い。小麦畑は紅く染まっている。森へ行こう。あぁ、明日は新しい町に行ってみよう。いい夜だ。



         〜隣町〜


「なんだと?隣の村が謎の感染症で全滅だと?何処の情報だ?」

「避難民です。また、その避難民が我が町に入る事を要求しています。受け入れますか?」

「いや、病原菌を我が町に入れるとなれば我々は大損害を被る事になるだろう。それは断じて許容できない。別の町を当たれと伝えろ。」

「御意。」


「流行病か。恐ろしい事だ。嫌な予感がする。我が町に来ないと祈ろう。」


                 つづく







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