七話 霧須磨は 霧斗に サイコーの、ハッタリだと言う
「あら、来たのね」
霧須磨は。
部室の椅子の上から、挑発的な目線を上げる。
霧斗が、昨日。
とりあえず、おいた椅子は、一枚の長机を、はさみ。
対面に置かれ。
手のひらで、座ることを促された。
「なぁ?」
霧須磨は、読んでいた本を、たたみ。
「向こうの世界は、コチラの三倍の速さで、時間が進んでいるわ」
言葉を待つ、霧須磨に。
霧斗は、沈黙で、先を促した。
「アプリは、向こうの世界基準で、デキているみたいなの」
「実際は、一ヶ月しかないんだな?」
「依頼達成には、十分だわ。
エリスさんは、勘違いしているようだけど。
あの依頼を達成するポイントは、そんなことじゃないわ。
エリスさんが、人と子供を作っているという事実を、認知させれば達成よ」
「霧須磨に、してみれば、そうなんだろうな。
でも、エリスにしてみれば、同じことだろ。
そのあと、子供を妊娠するまで、続けなければ、イケないんだからな」
「この依頼は、私に、どうにかできる、モノではないの。
橒戸君が、入部したから、達成できる依頼よ」
「霧須磨は、手が出せない。
成り行きを見守ることしか、デキない。それは、分かった」
「そう…」
さみしげに笑う顔が、印象的だった。
それでも、霧斗から目をそらさず、言葉を待っている。
「霧須磨、まだ、分からないことが、一つある。
オレが、この話から、下りられない理由は、なんなんだ?」
霧斗は、依頼イヤなら、部活に来なければ良いのだ。
関わり合いに、なりたくないなら。
全て、放り投げてしまえば良い。
極論、退学して、逃げ切ることすらできる。
霧斗が、エリスの問題に、ココまで付き合う理由がない。
だが、霧須磨の態度は、一貫して、霧斗に言っていた。
そんなことには、ならない、と。
「向こうの世界と、コチラの世界は。
条件が、あるらしいけど、満たされているなら、二重生活は難しくないわ。
海外留学生特別クラスに、いる子達みたいにね」
霧斗が、ナンの実感もなく。
簡単に、向こうの世界へ行って、帰ってこれるなら。
ソレは、向こうの世界の住民にも、言えることだ。
「そういう話か」
エルフ族は、エルフ族の威信にかけて、霧斗を、追いかけ回すだろう。
つまり、あの依頼を正しく理解するなら。
エリスを妊娠させるための種馬を、あてがえ、だ。
見たときは、驚きもしたが。
アレでも十分に、オブラートに包まれていたのだ。
霧斗は、向こうの世界に、行ってしまった時点で。
逃げ道の全てを、取り上げられていた。
つまり。
依頼 妹が、奴隷商に売却されるのを、阻止して欲しい、は。
誰かと、エリスが、子供を作らない限り、回避不可能だと、分かっていて。
生補部に、依頼されている。
エリス以外の第三者によって、どうあっても、遂行されるのだ。
さしずめ、霧斗は、まな板の上のタイ。
カモが、ネギを背負って来た、来訪者だ。
あとは、おいしく食べられるだけの、段まで来ている。
「このまま、私はナニもしなくても、依頼は達成されるのよ」
もう、食べられることは、決まっている。
あとは、どう、食べられるか、でしかない。
なら、当事者としての妥協点は。
二重生活で、日常を守りながら。
子作りに励むのが、落とし所だろう。
「昼休みと、放課後を差し出すのか?」
「朝、いつもより、早く登校するのも、よ。
これで、向こうの世界の感覚で、三日。
毎日という条件が、達成されるわね」
こっちの世界の、一時間を差し出せば。
向こう世界で、3時間になる。
昨日、行って帰ってきた時点で。
このロジックに、気づくべき、だったのだ。
「霧須磨は、ソレで良いのか?」
「良いも、悪いも、ないわ。
私が、ソコまで深い入りして良い話じゃ、ないだけよ」
エリスの問題は、種族の決まりに従った話だ。
買い物をするとき、消費税を取られるのが、おかしいと、思わないように。
エルフ族は、この決まりを、自然に受け止めている。
消費税を否定するなら。
国の決まり、そのものを、否定するのと変わらない。
エリスの依頼に、口を出すとは。
種族の生き方を、否定しているようなモノだ。
「橒戸君のプランは、素晴らしいモノだわ。本当に」
レンタルゴーレム。
エルフ族が、置かれた状況を変える、一つの方法だろう。
だが、あのプランは。
「愛理先生に、好かれるのも納得できるわ」
あの場を切り抜けようと、考え出したモノでしかない。
「でもね、橒戸君」
霧斗は、帰ってくるべき言葉を、そのまま受け止めた。
「穴だらけだわ」
話にオチを、つけただけだ。
これ以上ない、解決方法に見える。
見えるだけだ。
解決したワケではない。
実際に、どうするかを考えれば。
レンタルゴーレム制作プランは、問題だらけだ。
制作するメドが、曖昧などころか。
製作法が、確立していない。
現代知識で、無双する話は、創作物の中には、いくらでもあるが。
実際、モノを作り出すとなれば、文化レベルに、依存するしかない。
作れたとしても、その先。
どのように、金銭を稼いでいくか、明確になっていない。
武器を貸し出して、金銭を得る文化があるなら、乗れば良いが。
実際、重機のように、乗り物レンタルとは、行かないだろう。
「ギャンブルとして、これ以上ないぐらい。
サイコーの、ハッタリだったわ」
やったこともない、作業を。
模型を、作っているという、実績を。
模型を作っているから、ロボットまがいのモノも、作れると、誤解させただけだ。
レンタルゴーレムは、模型などではない。
動力を必要としない、ハリボテ・ロボットなのだ。
コンベアーと、同じような、工業機械に近い。
模型は、模型なのだ。
工業機械・製品とは、全く別物だ。
ナニも分からない。
専門職の区分を、大きく誤解している人に。
大工なら、家具も作れると言う、思い込みを。
否定せず、乗っかっただけ。
家大工・家具木工・テナント木工、宮大工。
全て別物であり、他業種だ。
デキるか、どうか、分からないものを。
デキると、言い切る。
ハッタリと、言われても、しかたない。
「私には、成功すると思えない」
ギャンブル、まさに、その通りだ。
実際、一ヶ月しかないにも、かかわらず。
こうして、霧須磨に、確認しているのだから。
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