五話 佐奈ちゃんは、兄にもの申す。かっこ良く作ろうとしすぎ~
「__て、ことがあったんだ」
「なに、そのアニメ。タイトル教えてよ」
橒戸家の、いつもの夕食時。
魚に味噌汁、納豆の和食を。
ぼんやりと、つつく霧斗の様子が、おかしかった。
おかしいのは、いつものことだが。
いつものように、プラモデル製作で、悩んでいるようには、見えず。
佐奈が、声をかければ、出てくる、出てくる。
あるがまま話をした、霧斗も、霧斗だが。
あるがまま、飲み込んだ佐奈も、なかなかだ。
「そんなモンは、ない」
「ネット小説でも読んでみたいな、ソレ」
「ないっての」
「で、お兄ちゃんの自作小説で、ナニが問題なの?」
佐奈の中で。
そういうコトに、なったようだった。
霧斗の良き、理解者というか。
さすが、妹なのだろう。
問題は、中学三年生の女生徒が。
霧斗の異世界体験を、すんなり受けれている所だろう。
「はぁ…。まぁ、それでも良いが。
ファンタジー世界で、木を使って、模型を作るのは、良いんだけどな」
「うん、お兄ちゃんが、お兄ちゃんで安心した」
「サイズが、5メートルは、必要なんだ。
そうなると、一番問題なのは、駆動間接なんだよ」
「プラモみたいに、作れば良いんじゃない?」
「プラモの関節は、動き続けることを、想定してないだろうが」
「遊ぶと、ボキボキ折れるモンねぇ」
「佐奈が、へし折ってくれた関節の数々、許してないからな」
「スグ直ったじゃん。しかも、ビックサイトで、高く売れたんでしょ?」
「なんで、佐奈の功績みたいに、言ってるんだ?
オレが買って渡した、リナちゃん人形に、悲惨な運命を、たどらせやがって」
「う…」
「忘れられない、ロックで、ファンキーな、お人形」
長い髪は、逆立ち。
着ていた服は、ダメージ加工が施され。
関節が破壊され、腕すらなくなり。
とても、女児向けのおもちゃとは思えない、ありさまだった。
こうして、リナちゃんは、人形としての使命を終えたのである。
「そのあと、お兄ちゃんが魔改造したヤツ、まだ残っているよ」
あまりにも、かわいそうだったので。
佐奈から、人形の全てを受け取り。
手持ちの余剰パーツと。
塗装技術によって、全く別物になり。
模型として、生まれ変わった。
「強襲戦闘用リナ 高機動装備。デッカイ銃までセットで」
顔だけは、キレイだったのが、幸いしたと、言って良いのか。
キレイなフェイス以外は、全て、バラバラになり。
切った貼った、霧斗の、変なテンションが後押し、して。
完成したときには、全く別物になっていた。
佐奈が上げた写真が、SNSを騒がせたのは、余談である。
「マジで?」
「でも、その小説の話の続きって、かなり悲惨だよね? お兄ちゃん」
流した髪が、昔から見てきた顔が。
スッと、霧斗の懸念を的確に貫いた。
霧斗が、どうしても、思考が、まとまらない原因は。
ゴーレムを作った先にある。
確かに、ハリボテゴーレムを作れば、話のようになるだろう。
残り期間が三ヶ月。
ギリギリ、とすら言えない。
金を稼ぐだけなら、十分だろうが。
逆に言えば、依頼を達成するまでしか、手が届かないだろう。
霧斗が作る、ゴーレムの有用性を示さなければ。
誰も使おうとは、思わない。
エルフは、立場が弱いのだから。
そもそも、商談そのものが難しい。
消耗品として送られ続けている、ハーフエルフ達に。
レンタルゴーレムの、使用決定権がない。
エリスに、異世界で言ったことを、実現するには。
ハーフエルフに、レンタルゴーレムを、貸し与えた方が良いと。
ハーフエルフを使っている人物に、思わせる必要があるのだ。
特攻隊として送られ続けている、ハーフエルフ達を救うには。
産業化するにも、だ
圧倒的に、時間が足りない。
種族が抱える、根強い問題が。
他の種族に、根付いてしまった常識を。
ひっくり返すだけのモノを、用意しなければ。
霧斗が提示した、エルフの明るい未来は、ないだろう。
途中で、中途半端に企画が頓挫するのが、一番、最悪なパターンだ。
エルフに族に対する風当たりが、もっと悪くなるのは。
火を見るより明らかである。
佐奈が言うとおり、ナニも考えず、この話をなぞれば。
かなり悲惨な結末へ、続く道だけが、頭に、いくらでも浮かぶ。
「自分で言ってて、気づかなかったの?」
食事の手が止まった霧斗を、ラフな服装で、のぞき込む姿は。
妹でなかったなら、惚れていただろう。
「さすが、オレの妹を、十年もやってるだけあるな、佐奈」
「十年も一緒にいれば、これぐらいはね」
「こっちから、素材を持って行くコトは、デキないよな?」
「そうだね。違う世界なら、向こう世界のモノだけで作らないと。
新しく作るときも、ソウだけど。
壊れたとき、お兄ちゃんが、必要になっちゃうモンねぇ」
「構造的に、木製間接じゃ、強度が、どう考えても足りないんだ」
「ソフビ人形だって、子供が本気で遊んだら、壊れちゃうモンね。
戦わせるには、リアリティが足りないけど。
読者が、そこまで考えると思わないから。
そのまま、書き進めても、不思議に思わないと思うけど」
「模型を、実際に作らなきゃ、イケないんだよ」
「得意分野じゃん」
「模型は、動かないだろうが。
激しく動き続けるんだよ、この模型は」
「お兄ちゃん、ノート見せて。書いてるんでしょ?」
隣の椅子に転がしていた、ノートを、そのまま開き、指を指す。
「ああ、コレだな」
「あ~。やっぱり」
「なんだよ」
「かっこ良く作ろうとしすぎ」
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