二話 母子特権で、解決するよ?
「妹さんの売却を、阻止してほしいと言う、依頼の話ですが」
「ソレは、橒戸君が、生補部にいるから、解決だよ」
「…そう、良かったわね。
存在意義を、彼女が提供してくれたわよ、橒戸君」
槍の矛先が、もう、向けられた。
「……」
「この場合、沈黙は、肯定になるわよ」
「肯定も何も、うまい茶しか飲んでないぞ、俺は。
異世界的な、特殊文化を、吹っ掛ける気か?」
「あら、よくわかったわね」
「…マジで、言ってんのか?」
「橒戸君、私の依頼は」
エリスの依頼は、奴隷商に、妹を売りたくないから、どうにかしろと言うモノだ。
霧斗に、実感なんて、まるでないが。
ココが、別世界なら、奴隷制度も、奴隷商も、いるのだろう。
それが、霧斗と、どうつながるのか。
全く、見当がつかないのだから、エリスの言葉を、黙って聞くしかない。
「橒戸君の子供を、私が孕めば、母子特権で解決するよ」
「ゴッホ、ゴホ。茶が、器官に入った」
「よらないで、唾が飛ぶでしょ」
「十分、最初から離れてるよな? 霧須磨さん」
机の端と端に、霧須磨と橒戸が。
正面中央に、エリスが。
見事な、三角形である。
「あと、三か月で、成功させなきゃイケないから、かなり、ギリギリだけど。
生補部に、男性が入ってくれて良かった。
橒戸君がいるだけで、私たちは、かなり救われるよ」
「男に生まれて、良かったわね、橒戸君。
もう、分かると思うけど。
ウチの海外留学生特別クラスのいくつかは、彼女たち、エルフ族よ」
「私が妊娠すれば、アナタたちの世界から、手当がもらえるから、全部解決!」
曇り一つない笑顔が、霧斗に、耳を疑わせる。
「えっと? 俺には、エリスさんを、俺が。
妹さんが売られてしまう前に、妊娠させろって、聞こえてるんだけど?」
「正しく、理解してるじゃない」
眉一つ動かさず、霧須磨は、カップに口をつける。
「一応、聞くけどさぁ? かなりギリギリって、言うのは?」
「ああ、ソレね。私たちエルフは、妊娠率が低いの」
(恥じらいもなく、ズバズバくるな)
「エルフの男性は、もう、数が少ないし。
アナタたちの男性のように、性欲も強くないから。
妊活難易度が、スッゴク高いんだよ」
(やばい、クソビッチにしか、見えなくなってきた)
「私は、処女だけどね?」
前のめりに、美人だと思った彼女は、何を言っているのだろう。
「…ああ」
「処女なのよ?」
「なんで、二度言った?」
「いやらしい」
「なんて言えば正解なのか、教えてくれよ、霧須磨さん」
「こっち向かないで、気持ち悪いから」
「あ~。会話したくない。
マジで帰りたい。
愛しの愛理先生を、召喚してくれ」
「普通に気持ち悪いよ、橒戸君」
「エリスさんに、言われたくない」
「それでね、橒戸君」
「まだ、続くのか? その話」
「人と、エルフが子供を作るのも、妊活、難易度が高くてにゃあ」
「語尾を可愛くすれば、許されると思うなよ」
「エルフ同士より、妊娠率がひくいの~」
エリスは、霧斗の目の前で、クネクネしてみせる。
(カワイイじゃねぇか…)
「おい、エロエルフ。可愛く見せても許さねぇからな」
「橒戸君、お口が汚いわよ」
霧須磨の目線が、一瞬、橒戸を映し。
「最初から、ヒドかったわね」
「さすがに、言葉を選べよ、霧須磨」
「え~。エリス困っちゃう~」
「いつの時代の、知識が刷り込まれた、エロエルフ?
霧須磨、人同士でタイミングを計って、一晩で、子供を授かる確率知ってるか?」
霧斗は、話の角度を、変えてみることにした。
「今度は、セクハラかしら」
ただの地雷だった。
「三十%ぐらいだ」
それでも、強行してみた。
「明日から、私に話しかけないでね、うんこ君」
霧須磨の評価が、マイナスに振り込んだ。
「ハッキリ、言いやがったな?
ついに、キレイなお口から、吐き出しやがったな、霧須磨」
「ソレって、一晩で男性が頑張って。
二回以上、射精しなきゃいけない、ヤツでしょ?」
「エロエルフ? さすがに、聞くに堪えないんだが?」
「エルフと人間の場合は、一か月続けて、同じぐらいに、なるらしいよ」
お調べしてしまった、ようだった。
「良かったじゃない、橒戸君。
うだつの上がらない、さえない男にも、使い道があって」
「霧須磨、この場で肉バイブになれって、言われてる、人の気持ちを。
少しは、考えてみたらどうだ?」
「本当に、近づかないでね。気持ち悪いわ」
もう、何を言っても、地雷だった。
「俺のせいか?
少しは、言葉をオブラートに、うまく包んだらどうだ?」
「夜だけとは言わず、回数が増えれば、受精率は、うなぎ上りだよ!
アナタの世界の男性は、そういうの、喜ぶんでしょ?」
「まだ、続くんだ! 否定は、しないけどな」
「うんこ君、明日から時間を分けて、部活動しましょうね」
(会話してるだけで、針の筵かよ…)
「それに、私たちって、好みなんでしょ?」
「俺の種にしか、興味がないヤツは、好みじゃない。
それに、俺が、エリスの話に乗って。
本当に解決する話には、聞こえないんだが、どうなんだ?」
流れるような、会話は、途切れ。
「依頼は、達成できるわね」
凜とした、霧須磨の声だけが、置かれた。
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