化物とオフ会した話

バケモノ

第1話

私は興味本位で三つ目で腕が6本生えている化物と食事に行きました。そこは少々値がはるレストランでした。なにしろ、化物専用のレストランでしたから、大量のカラトリーが並べられ、部屋中が腐った果物をそのまま放置したようなおかしな匂いが充満していました。しかし私はそれを受け入れなければいけないという、気持ちになりました。何も知らないからです。怖いのです。そして、先が見えないほど長い長いテーブルは、真っ白のテーブルクロスがかけられていました。そのテーブルを前に等間隔に座らせられた私は、向かいに座っている化物と目が合っています。「楽しい夜を」。そう言ってから、化物は何も言いません。四方八方化物たちに囲まれた食事は味がしませんでした。とても辛かったという記憶しかないのです。人は辛すぎる経験をすると、その記憶を真っ白なモヤのなかに混ぜて、更にモヤを注ぎ、どんどんと奥深くにソレを埋め込みます。

その化物は、私のテーブルマナーについて、その場では何も言いませんでした。それから3ヵ月が経ちました。ある日その化物は言いました。「あのときの、貴方のテーブルマナーは〇〇と、〇〇と、〇〇がおかしいと思いました。その所作は周りが不快になるでしょう。気をつける様に。」。そのマナーは化物書籍や、化物特化型マナー講師も知らない、化物の独自のルールと見解と世界でした。まあ宗派と言ったものなのかしら。あの3ヵ月前の事を、その場で、または後日指摘せず、”周りが不快になる”という形で伝えられたことは、自分が不快に感じた事を、周りの意見という、フィルターをかけて私に伝えたのでした。私はそれをとても気持ち悪い事に思いました。その反面、3ヵ月‥およそ90日間もの間、わたしの5倍程大きな巨体の化物が、小娘の私の粗相を胸に秘めていたのかと思うと、何だか愛おしく、常にグルグルと思考が周り止まらない人間の脳みそを引き摺り出したようでした。正確には化物の脳みそですけれど。ヒト(私)と化物は美しく、限りなく、気持ちが悪いですね。

(完)

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