風船が
風船が。
飛んでいた。
飛んでいたというか。
追放されていた。
あいつは多分。
まだこの場所に留まりたかったのだ。
だがそれは許されなかった。
決断を下すのはそいつではなかった。
そいつの意思なんて一切、関係無く地面から引き剥がされていた。
あー。
おれは、思った。
何か声を掛けてやろうかとも思ったが。
風船はそんなことを求めてはいないだろう。
それはよくあることで全然、特別なことではなかった。
よくあること。
それはこちらの思考を奪う。
それが無条件に受け入れるべきことなのだと錯覚させる。
風船は追放され。
やがて視界の外で萎むだろう。
だからまるで何も起こらなかったかのように振る舞うことが可能なのだ。
見て見ぬ振りすらしなくて済む。
おれたちはもうわざわざ哀しい想いなんてしたくない。
この空を埋め尽くすぐらいの風船が一斉に放たれれば。
おれたちはその存在を無視、出来ないだろう。
だがそのような日はけして訪れないだろう。
そしておれが握り締めているこの風船はけして手放されずに明日の朝、結局、死ぬのだ。
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