失踪
おれは出掛けた。
ちょっと出掛けた。
そんな感じだった。
ふらあっと出掛けた。
何も考えてはいなかった。
そしてもう二度と帰って来ることはなかった。
そんな気はまるでしなかったが。
(まさかな………)
手ぶらで空は晴れていた。
いつも世界は無関係だった。
空が晴れようが、風が吹こうが、おれとは何の関係も無かった。
だが今はそうではなかった。
玄関を出た。
そして見慣れた景色が暫くは続いた。
おれは新しい靴を履いていた。
そいつが行きたい方向へ行った。
ただちょっと出掛けるだけのつもりだった。
誰かに呼び止められれば振り返るつもりだ。
だが誰もこの街でおれを呼ぶことはなかった。
どんどん先へ進んだ。
やがて見知らぬ景色が現れた。
(もしかしたらこのまま行方不明になるのかもしれないな)
一瞬そう思った。
すぐにそれでもいいやと思った。
新しい街へやって来た。
回転寿司屋の入口から寿司が脱走していた。
おれは拍手した。
みんな自分らしく生きれば良いのだ。
他には何もする必要なんて無いのだ。
ここではない何処か。
そのような場所を夢見るのは幼く愚かなことだろうか?
この道の先には、きっとよくある光景が広がっているのだろう。
それはおれを酷く失望させるだろう。
目新しさなど一瞬で慣れ飽きて、また退屈な日常と化してしまうのだろう。
それでもいいさ。
今この瞬間は(もしかしたら………)って思っている。
もしかしたらこの道の先には何か新しい景色が待ち構えているかもって。
そんな気持ちさえ失くしてしまったら、もうこんな世界でおれたちは二度と微笑みを浮かべることはないだろう。
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