異能力は対価とともに

一夏

第1話 物語はプロローグとともに

これは別になんてことのないはずの日常。

俺とこいつがただ一緒に暴れて、笑って、苦しんで、泣いて、死にかけて、

それでも生きていく物語。

世間一般的な日常とは違うだろうし俺らは自分がもはや一般人と呼べないことも知ってる。それでも心は人間だ。

一般人とは違う何かを持っていたとしても、それが到底人間社会で受け入れがたいものであったとしても。

だから俺たちにも人としてこれから先も生きていくことが許されるはずだ。

今後は俺たちだって報われていいはずだ。

なにせ一度はなのだから。



「高宮、今暇ー?」

白い髪の少女が近くにいる少年に問いかける。

顔は完全に日本人。肌は白いが眼は黒色。一見アルビノのように見えるがアルビノではない。華奢な体つきだが不健康というほどではない。

一部貧相な部分はあるが。

その少女はアイスを片手に半袖にハーフパンツという姿でソファに寝転がっている。

「なんだよ...別に暇だけど」

それにこたえるのは高宮と呼ばれた少年。

容姿は中の上。筋肉はそこそこついているものの目に見えて鍛えられているようには見えない。

「いや、ちょっとこの後仕事あるから手伝ってくれるかなぁー?って思って」

仕事。この少女は一見10代。それも高校生。バイトというならともかく仕事という言葉を使うのには違和感がなくはない。あくまで世間一般で見ればの話だが。

「またかよ...。あのな?姫宮、俺はお前の仕事に付き合わねぇぞ?なにせお前の仕事手伝っても給料そんなに出ないし何より身の危険を感じる」

「そんなこと言わずにさ?」

姫宮と呼ばれた白髪の少女は手を合わせて上目遣いで高宮を見上げる。

姫宮の容姿は高宮から見ても優れている。多少正確に面倒くさがり屋なところもあるが基本的には信頼に足る人物だと思ってるしそのうえで好ましい人間だとも思っている。

たまにある面倒ごとに巻き込まれるのはちょっと勘弁願いたいが。

「...ッチ、しゃあねぇな付き合ってやるよ」

「わーい!......ちょろいな」

「おいまてお前」

さらっと聞き捨てならない発言が聞こえたような気がしたが問い詰めようとしても逃げられるしそもそも口論で勝てるとは思えない。

ハァ...とため息をつきながらあきらめる。あまりこういったことに体力を使っているとこの少女とはまともにかかわっていけない。

大切なのはあきらめること。無駄に体力を使わずいざという時のために温存するべきなのだ。

「んで、今日の依頼は?なんなんだよ」

「ん?あー、今日の依頼はねまたジャックの件だよ」

「またかよ...。」

ジャック。つい最近この周辺に流れ着いてきた殺人鬼。調べがつくだけで被害者は24名。その中には子供も老人もいる。

年齢性別関係なく殺しを行う気狂いの異常者。

おそらく凶器はナイフ。だが、それ以外は情報がない。

性別も声も、容姿もなにも情報がないのだ。

ゆえに警察も手をこまねいている。

そんな中この近辺で3件目になるナイフで斬り殺された被害者が見つかった。

被害者は20台の女性。2日前に腹部を斬りつけられた状態で見つかった。

「依頼者は遺族の人。警察はこの件に対して捜査してるけど何も見つからないみたい。だからおそらく能力者の可能性がある」

能力者。普通に生活していれば聞くこともない単語だ。

「つまり俺らの出番ってことだな?対能力者専門の探偵さんよぉ?」

「そういうことさ。そこで君の力を借りたい。いざという時に君の能力は便利だからね」

そう、この二人は能力者。

対価を払い、本来ならばあり得ないような事象を起こすことができる。

けどそれだけ。それ以外はただの人間と何ら変わりない。

「とは言っても俺の力じゃ一般人相手に姿隠すくらいしか基本使い道ないぞ?」

それを聞いてにやりと笑う姫宮。

「その力が便利なんじゃないか」

あ、だめだコイツ。完全に悪だくみしてる。

そしてそれに俺巻き込まれるじゃん。まぁ、バレなきゃ問題行動でももんだいにならないからいいのか...?

いや、よくはないだろ。

またもやため息をつきながら下を向く。あと、言い忘れてたわ。

「なんでお前俺の部屋でそんなに寛いでるんだよ!」

「あれ?今更?」

ほんとにおっしゃる通りです。

とりあえず外に出る準備をする。



夜の8時ごろ仕事道具をもって外に出て待つ。出発予定時刻の30分前だ。余裕をもって準備できた。さすがにいつもさぼり気味な姫宮でも仕事となればしっかりしてくれるはず...。今度こそは...。

そう思いながら25分が経過し、出発5分前。それでもあいつは集合場所に来ない。

何かあったのか?トラブル?

姫宮に限ってそんなことは無いと思うしそれに彼女もまた能力者。一般人関係のトラブルで来れないなんてことは無いはず。

もし彼女が何かしらのトラブルに巻き込まれているとなるとただの面倒ごとかジャック関係の可能性が高い。

もしジャックならば姫宮が後れを取るとは思えないがもし万が一があった際のことを考えてしまう。

(いや、あいつならジャックの件で何かあったらこちらに何が何でも情報を残すはず。それともこちらに情報を飛ばす暇すらなかった?もしかしたらジャックは俺たちが想像していたよりも強い?)

万が一のことを考えて探しに行く。これが最善だろう。

自分の能力は戦闘向きではない。少なくとも能力単体では。

だが彼女を連れて逃げ出すくらいならできるはずだ。

それに能力者なら能力を使う際に何かしらの違和感を発する。それは能力が強力なものであればあるほど大きくなる傾向にある。

(姫宮の力はそこそこ大きなエネルギーを放つから半径100メートルくらに入れば感知できるはず)

「一応連絡を送ってここにいないことを伝えておかなきゃな」

何もトラブルがなかった際の保険として連絡は取っておく。

報連相は大事だ。すれ違いはできる限りなくしておきたい。

LINEで姫宮に連絡を送り走り始める。

能力者としての一般的な基礎能力の中に身体能力の向上がある。

個人差はあるものの能力を得る前の1.1~1.5倍ほど身体能力は向上する。

もちろん一部例外はあるが。

(基本あいつは通知切ってるけど電話はどうしても音が出る。その音に気を取られたり、隠れているのがばれる可能性がある以上電話はできない。文面での会話に絞るべきだ)

なにせ過去に無線の音でバレたこともある。

それ以降基本的に仕事の時は終わったときか安全が確かめられた状態でしか電話は行われない。

(ジャックは噂によれば何でも斬れるって話だ。確定はしてないが参考にする文意は十分)

あくまで予想だがさすがに非物理的なものは斬れないはず。

そうしんじて姫宮の無事を確認するべく俺は夜の闇の中駆け出した。

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