第二話
思い立ったが吉日! 家に帰って速攻ジャージに着替え、ゲームソフトを取り出して、テレビゲーム機に差し込んだ。
卵型のコントローラーを二つ、両手に握る。質量は軽いが、センサーを通してテレビと連携し、振動機能もあってあらゆる動きも臨場感丸出しで楽しめる、特にスポーツジャンルでは、ついつい壁にぶつけてしまうほど操作に酔いしれてしまう活躍ぶりだ。
『ようこそ! 新! トキメキ♡トレーニングへ!』
おっ、始まったみたいだ。すでに期待で汗ばんだ手をズボンで拭い、コントローラーを握り直した。
『このゲームは、あなたの理想のトレーナーとトキメキを感じながら、あなたのペースで広範囲なトレーニングができます。目標に向かって、一緒に頑張っていきましょう!』
ダメだ、まだナレーションだけなのに、ニヤついてしまっている。平常心、平常心。
『あなたのニックネームを入力してください。トレーナーが呼んでくれます』
おぉ、そんな機能もあるのか。人気声優ばかりだし、それはありがたい。これといったあだ名もないので、そのままにするか。タカユキっ、と。
『あなたの今の体重と、目標の体重を入力してください。トレーニングの難易度も、選んでください』
なるほど。これによってトレーニング内容も変わるわけか。思い返せば、ここのところ随分と運動をサボってきたし、そのツケが回ってきたのか友達にもからかわれるほどお腹もぽっこり。できることなら、短期間でうんと痩せて周りとあっと驚かせたい。正直な体重と理想の体重を入力したあとに、難易度はむずかしい、の上、鬼モードを押してみる。
『それでは、理想のトレーナーを選んでください。もちろん、トレーナーは後からでも変更できます』
ついに来たか………。思わず込み上げてきた唾液をごくりと喉に押しやった。
男性か、女性か。男性ならイケメンで、女性なら美少女。もちろん、女性っ、と………。
『では、お好きな美少女を選んでください』
いや、まさに状況的にはその通りなんだけど、何か急に淫靡な響きになったな………。これ、絶対に子供がやっちゃダメなやつだ。
と、理性が冷静に語ろうとするが、ぶんぶんと首を横に振る。淫靡が何だ。一応、恋愛シミュレーションなんだし、自分は十八歳の大学生なんだし、例え二次元だろうが、色恋の一つや二つ、楽しむべきだ。あぁ、こういう時、一人暮らしでよかったなぁって思う。家族になんて見られたら軽く死ねるな。
「あっ、この子だ………」
俺のドストライク。金髪ツインテールの、ロリ巨乳! ピンク色のジャージもガーリーで可愛いな。ぜひこの子とダイエットしたい! 迷うことなく、スティックボタンを回して、カーソルを頭の金髪に合わせて………ポチッと。
『ちょっと、馴れ馴れしく触らないでくれる?』
「え?」
『今日からビシバシ鍛えてあげるから、覚悟しなさいよね! この豚!』
えっ、何だこのキャラ! 甘くて高い声にうっとりして聞き流しそうになったけど、豚とか言われなかったか? 表情も無愛想というか、不機嫌丸出しだし………これは萌えアニメの定番ヒロインのツンデレときたか。まぁ、ツンデレはいいんだけど、豚は言い過ぎな気が………鬼モードが関係しているのか?
『自己紹介しとくわ。あたしの名前は
いや、名前! おかしいだろ! 金髪美少女に近松門左衛門はないだろ! 歴史人物にしてもなぜ彼を選んだ!? …………ダメだ。小学校の授業で習った印象はあるけど、何した人か具体的に思い出せない。
『気安く
呼んでないっ! 呼びたくもないっ!
『さっさと始めるわよ! 豚!』
こっちは名前すら呼ばれてないっ!
と、理想を裏切られて非常に不本意ながらも、門左衛門とのトレーニングが始まったのだ。
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