第7話 銀の髪の公爵令嬢
小雨が降り出す中、私とマリーを乗せた馬車が止まった。
どうやら、アメジスト公爵の別邸に到着したらしい。
馬車の窓から見える屋敷は別邸とは思えないくらい、豪華絢爛だった。
私の肩が思わず震える。
何だか嫌な予感がするのだ。
戸惑っていると、馬車の扉が開く。
「アリシア、大丈夫か?」
アークのサファイアブルーの目が、私を覗き込む。
私は彼を心配させたくなくて、
「ううん、大丈夫よ」
そう答えた。
「アリシア、無理しないでくれ。君のことは、何があっても俺が守るって、約束しただろう?」
「アークーー」
私が言いかけると、
「だから、大丈夫だよ、アリシア」
私の後ろから、マリーが声をかける。
「アリシア様、何かあったら、わたくしもおりますのでどうか心配なさらないでください」
「ありがとう、アーク、マリー」
そう言って、私は馬車から降りた。
「アリシア王女殿下、およびカンタベリー連合王国王子アーク殿下がお着きになりました」
騎士服に身を包んだ魔法騎士が高らかに言うと、奥の部屋からロザラインがやってきた。
銀の長い巻き毛には大きな黒いリボンが結ばれ、レースたっぷりの黒いドレスが似合っている。
キツそうな紫の目がこちらを一瞥すると、ロザラインは優雅にお辞儀をして、
「遠いところからようこそいらっしゃいました、アーク殿下。わたくしはアメジスト公爵令嬢、ロザラインと申します。どうかお見知りおきを」
アークに微笑みかけた。
「ロザライン嬢、初めまして。こちらこそよろしくお願いします」
アークが一礼する。
「お部屋をご用意いたしましたので、案内致しますわ。それから今夜はパーティーがありますので、アーク殿下もぜひご参加くださいませ」
そう言ってロザラインは優雅にお辞儀する。
「さぁ、ご案内いたしますわ、アーク殿下」
ロザラインがアークの手を取ろうとした時、アークはその手を振り払った。
「失礼、ロザライン嬢。私には婚約者がいるので」アークが言うと、
「婚約者?何のことですの?」
済ました顔でしれっと、ロザラインが聞く。
「貴女は先ほどから無視されているようですが、私の婚約者はアリシア王女ですよ」
そう言ってアークは私の手を取る。
「あら、アリシア、貴女も来ていたのね。相変わらず子供っぽいドレスですこと。まぁ、貴女の地味な顔には、そのドレスがお似合いかしらね?」
ロザラインは私に笑いかけるが、紫の目はちっとも笑っていない。
「……」
私が押し黙っていると、
「ロザライン嬢!私の婚約者を侮辱する気か?」
アークが私を庇うように言う。
「アーク殿下。貴方も真実を知れば、このわたくしこそ貴方の婚約者に相応しいと分かるはずですわ」
そう言ってロザラインは、高らかに笑う。
「行こう、アリシア」
アークが私の手を引き、立ち去ろうとすると、
「あら?アリシアには別の部屋を用意させてあるのですけど?今から案内させますわ」
そう言ってロザラインはメイドを呼び、アークと私は引き離された。
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