第36話 初恋

 今日は初めて光と二人で会う。

念のため直樹はいいのか確認したが、相談したいことがあるからと二人で会うことになった。


待ち合わせ場所のカフェで先に一人で待つ。

直樹がいないほうがいいってことは、察するに恋愛相談な気がしている。


少なからず直樹も気になっているのは確かだ。

俺は直樹にストップをかけていない。

もし光が直樹のことを想ってるとしたら…

まずは光の話を聞いてからだよな。


間もなくして光が来た。


「こんにちは。すみませんお待たせして。」


「いや全然。アイスココア?良いチョイスだね。」


「僕甘党なんで。大輝さんは?」


「俺もココア好き。そんなことより何かあったの?」


「あっ、そ、そうなんです。

相談したいことがあって。

……。

僕、今初めての出来事にキャパオーバーで。

誰かに相談したいけど親には言えないし、相談できる友だちもいないし。

気がついたら大輝さんに連絡しちゃってまして。」


「うん。で?俺で役に立てる案件なのかな。」


「おそらく。」


「そうか。俺で役に立てるかわかんねぇけど聞くよ。」


「ありがとうございます。

あの、僕、特定の人に対して初めてすごく興味を持ちまして。

自分の中の感情がどういうことなのか

モヤモヤしてて。

この気持ちは何なんだろうって。」


「相手はどんな人?」


「……。年上の方です。」


「直樹か。」


「え?え?何で?」


「何でって。だって光、直樹への想いダダ漏れてるよ、毎回。何となく今日の話もそれだろうなって思ってた。」


「想いがダダ漏れって…。」


「光は直樹といるとき、どんな気持ちがする?」


「……。直樹さんからメッセージの返信が遅いとめちゃくちゃ気になったり、

大輝さんと仲良さそうなところを見ると胸がズキンってしたり。

帰る時間になるともう少し一緒に過ごしたいって思ったり…します。」


「光君、それ恋というんだよ。」


光の顔が一気に赤みを帯びる。


「恋、ですか…。」


「仮に直樹が独身だったとして、光はその先どうしたいと思う?」


「……。直樹さんのこと、もっと知りたいって思います。」


「気持ちは伝えたい?」


「……。わかりません。想像できない。直樹さんに否定されるって想像するだけでこわいです。」


「そうだよな、こわいよな。」


「僕、どんどん欲張りな自分になりそうで。

最初は歳が離れているけど友だちができたみたいに嬉しかったんです。一緒にどこに行くか考えるだけで楽しくて。」


「だけど、それ以上の興味が出たんだ。なんて聞けばいいかな、こう…ドキッとしたというか、意識しちゃうきっかけみたいなことはあった?」


「ありました。僕、今でもハッキリ覚えてます。

雨の日、直樹さんの傘に入れてもらったことがあって。そのとき直樹さんの手に触れた瞬間があったんです。

すぐ隣に直樹さんがいて、直樹さんの匂いと体温を感じて。なんていうか胸がギュッてしました。」


「それがきっかけか。」


「はい…」


「そうだな…。俺の考えだから参考程度で聞いてほしいんだけど。

恋愛はさ、苦しい、楽しいの繰り返しだから。

もうそれは誰が相手でも同じ。

男も女も関係ない。

今はどうしていいかわらかない、

でも直樹のことをもっと知りたいと思ってる。

それでいんじゃないか?

今は直樹のことを知っていく、

それだけで。

せっかく初めて他人に興味をもてたんなら、

その気持ち大事にしろ。

焦って結論を出す必要なんてないんだから。

好きって伝えたいって強く思うときがきたら、

そのときまた一緒に悩んでやる。」


「……。」


「大丈夫。だって初めてなんだろ?誰だって初めてのことはわからなくて当然。後悔しないように自分の心の声に正直にな。」


「……。ありがとうございます。

僕、なんか焦ってしまって。直樹さんは既婚者でお子さんもいて、同性で。始まる前から好意をもってはいけない相手だって思ったら、もうどうしていいのかわからなくなって。

大輝さん、僕が男性が気になってるって知ってどう思いますか?」


「なんとも思わない。ただ、光の純粋な気持ちは

とても綺麗だなって思う。」


「綺麗?ですか…。なんかありがとうございます。嫌いにならないですか?」


「え?ならないよ(笑)俺、光のことお気に入りだから。おまえいい奴だから。」


「僕、大輝さんに相談してホントによかったです。今はこれまで通り直樹さんをお誘いして一緒の時間を過ごしてみたいって思えました。」


「え!?俺も誘えよ。食べるの好きなんだから。いや、俺と直樹だけだと、若者しか行けないような店は入れねぇから。俺もまぜろよ。」


「プッ(笑)アハハハッ。なんかすごく緊張してたけど、肩の力抜けました!お腹すきました、僕。」


「おー、そうか!じゃぁラーメンでも行くか?」


「え?いんですか?」


「おぅ!じゃ、行こ。」


光のヤツ、少し元気になってくれたみたいで良かった。

せっかくだし奢ってやるかー。








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