第4話 人違い(続)

人生初の人違いで妙にソワソワしながらコーヒーを飲んだ。


いつもなら香りも味もしんみりと堪能するのだが、今日は香りも味もよくわからない。


隣の男のせいだ。


頭の中はすっかり「ハチワレ」のワードでいっぱいだ。

気になって仕方がない。

一体どんな関係性で、どんな相手なんだ?

まだ面識のない奴と待ち合わせているのか、

それとも面識ある奴だけど、そいつに俺が似ていて間違われたのか。


すでにおっさん年齢に達している俺の脳内、

何の想像も出てこない。


あれこれ想像しているうちにコーヒーも飲み終えてしまった。


まだ隣の男の待ち人は来ない。


なんともモヤモヤが残るが、ここは帰ろう。


俺が伝票を手に取ると、隣の男がまた声をかけてきた。


ほんと、先ほどは失礼しました。



またしても、いかにも人当たりの良さそうな柔らかい表情で微笑んできた。



人見知りのこの俺が自然と言葉を発していた。


いえ。早くお相手来てくれるといいですね。

それでは。


俺も奴につられたのか、うっかり微笑んでしまった…


その日はなんとも不思議な気持ちで家路についた。

人違いのおかげで、仕事のことは頭から抜けていた。

それはそれは清々しいほどに仕事のことはすっぽり抜けた。


今日はいつもより妻の話も長く付き合えそうだ。





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