太陽と月の二人

津川肇

Chapter0 太陽

Prologue 太陽の戦士

 彼女が、小さな日長石にっちょうせきを両手でやさしく握る。


「変身」

 

 オレンジ色の石が、太陽のような輝きで彼女の囁きに応えた。きらきらとした光の粒は瞬く間に広がり、彼女の全身を包み込む。彼女は瞳を閉じて栗色の髪を揺らし、ただその光に身を委ねている。やがて、その煌めきはオフホワイトの布に閉じ込められ、彼女の肌にぴたりと吸い付くと、美麗な戦闘服へとたちまち姿を変えた。

 何度か見たことがあるはずなのに、その布の鎧は前よりずっと彼女に馴染んで見えた。襟元には光沢感のある透けた生地があしらわれ、白いデコルテが露になっている。腰回りにも同様の装飾が施され、綺麗に割れた腹筋が見える。

 彼女が腕をしなやかに伸ばすと、白に金色のふちのバングルと、首元にお揃いのチョーカーがパッと現れた。そして、足を軽く鳴らすと細いピンヒールがちらりと覗く。仕上げに彼女がくるりと回ると、それに合わせて光の粒もちらちらと舞い、艶やかな髪があっという間に後ろでまとめられた。


 それはほんの一瞬だが、あまりに眩く美しい変身だった。彼女が不意に顔を上げ、目を開ける。その時、胸元に燃えるような色のリボンが結ばれたのが見えたが、もう見惚れている暇はなかった。彼女の薄茶の瞳の奥に、静かな闘志の炎が揺らめいていたからだ。それは、胸に飾られたリボンの中心で存在感を放つ日長石と、全く同じ色をしていた。

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