七瀬の両親が部屋の片付けをし、七瀬の痕跡を片っ端から持っていく間、自分はどんな顔をしていればいいのだろう。

 部屋の中を忙しく飛び回る七美を眺めるともなく眺めながら、章吾はそんなことを考えていたのだが、それは杞憂に終わった。

 七瀬の父親に、部屋を追い出されたのである。

 「気がついていないとでも思っているのか。」

 七瀬によく似た白い頬に、傷跡のような深い皺を刻んだ七瀬の父親は、章吾の腕を掴んでそう言った。

 七美によく似た丸い目をした七瀬の母親は、黙って深くうつむいていた。

 気がついていないとでも思っているのか。

 章吾は一瞬なにを言われているのか理解できず、ふらりと目眩さえ覚えた。

 そして、その言葉の意味を理解したとき、目眩はさらにひどくなり、その場に座り込みそうにすらなった。

 しかし辛うじて姿勢を保った章吾は、なにを言われているのか理解できていない、という表情も保ちきった。

 やめて、と、七瀬の母が囁くように言った。

 視界の端に引っかかる七美は、もとより大きな目をさらに見開き、硬直していた。

 「出ていけ。」

 七瀬の父が、低く呻くように言った。

 怒鳴られたのなら、章吾も素直に家を出たかもしれない。しかし、七瀬の父親は、明らかに苦しんでいた。

 七瀬と七美と一緒に遊園地やバーベキューに連れて行ってもらった過去が、章吾の頭をよぎる。

 そんなときこの父は、子どもたちと同じくらいはしゃいだ。その父をたしなめながら微笑んでいた七瀬の母の顔も、章吾はよく覚えていた。

 謝りたかった。

 七瀬の死を止められなかったこと。彼が死に向かって歩いていっているのは分かっていたのに、なんの対処もできなかったこと。

 謝って、地面に額を擦り付けて、それで章吾は、許されたかったのだ。

 しかし、七瀬の父は章吾にそれをさせなかった。出ていけ、と、掴んだ章吾の腕を引きずって、七瀬の父は部屋のドアを開けた。

 やめて、と、また七瀬の母の声が聞こえた。

 章吾は七瀬の父の力に逆らえないまま、部屋の外に放り出された。

 「章吾さん!」

 七美の半ば悲鳴のような声。

 「七美、行くな!」

 七瀬の父の声が娘の背を追った。

 しかし七美は止まらず、章吾を追って部屋を飛び出してきた。

 「……ななちゃん、戻ったほうがいいよ。」

 章吾の台詞は葬儀のときと同じで、けれど七美はあの日とは違い、はっきりと首を横に振った。

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