九重クシナの怪異相関説
ガリアンデル
序章/前編 宵の口
「ふぁ〜あ」
欠伸をしながら今日もひとっこ一人通らない寂しい通りを眺めていた。
元はラーメン屋だった場所から調理設備だけが運び出された居抜き物件に机と来客用のソファを置いただけのおざなりな空間があたしの事務所だ。
入口には一応『あらゆる霊能関係の困りごと解決します。煙魔除災事務所はコチラ』と看板を出しているものの……回ってくる仕事以外には来客は月に一人いるかいないか程度なのが現状で常に閑古鳥が鳴きまくっている。
何が悪いのか考えてはみるものの、原因が分からないので面倒臭くなって来客用のソファに腰を沈めて天井を見上げた。
「あー金がねぇ……」
クソオヤジに金を出させて事務所を開くまでは良かったが、この調子じゃ『ほら! クシナちゃん
……とりあえず少しでも客が来るように店の前でも掃除しておくか。
年季の入った赤のスカジャンを肩に羽織り、馴染みの工房手製の下駄を履く。
「おいしょっ……と! うぅ、寒ぃな……」
ガタガタと立て付けの悪い引き戸を開けて外に出ると、冷えた空気が頬を撫でた。時刻は夕方、季節は秋。新宿のビル街にオレンジ色の光が反射し周囲の建物も皆一様に黄昏色に染まっていた。そして光のその向こうでは寄せる波を思わせる淡い闇が迫っているのが見えた。吐く息が僅かに白かった。
「あーあ、秋も暮れになるねぇ」
変わっていく空の色と気温、それに空気の匂いが冬の訪れを告げている。これから日が短くなり、夜が長くなる。
つまりあたしの様な者にとっては本来であれば稼ぎ時の季節だ。けどそれは客さえいればの話だ。同業者はそれなりに儲かっているのに何故あたしはこんな寂れたボロ事務所で貧乏生活しているんだろうか。考えると秋空の様に虚しい気持ちが溢れてきた。
店前の掃除を終え、事務所の中に戻った。ジャケットのポケットから煙草のケースを取り出して一つ咥えて火をつけた時だった。
がっ。がん。と音がして煙草を咥えたままあたしは音のした方向へと首を向ける。
そこには少しだけ開いたガラス戸の隙間からあたしを見つめる娘が立っていた。娘は肩下まで伸びた黒髪に金のインナーカラーを入れており、黒金糸の髪が色素の薄い整った顔と合わさってどこか上等な織物の様な雰囲気を感じさせる。
そして娘は中途半端に開いた戸の間からこちらに向けて問いかけてきた。
「あの、ここってバイトとか募集してないっすか?」
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