11-2 真実

 私は彼女らにとって救世主のような存在なのだ。

 だけど私は無力な一人の人間である。受胎告知を受け、処女懐胎で生まれたわけではない。馬小屋とは程遠い、研究室で人工受精卵から生まれたのが私だ。エリアから出たことはない、小さな存在なのだ。

 自分の祖先が日本人ということは知っているが、シグマ少佐のように本土の生まれではなかった。私は軍人になるためにデザインされて生まれ、育てられてきた。

 だから私の古典主義はすべて偽物である。

 すべて憧れや嫉妬であり、本質的には空っぽな人間なのだ。

 いや私は本当に人間だったのだろうか。母の子宮で育ったわけでもなく、母に抱かれてこともなく、母の乳を飲んだこともない。まるで人工的に作られた生命体であり、その憧れははなからただのバグに過ぎないのかもしれない。

 ロボットが人間に憧れて、人に恋をして、という小説は使い古された三文芝居である。まるでそれは私ではないのだろうか。

 背後で私の決断を待つ、難民たち。女も子供も皆、自分の意思で武器を持っている。エリアの内部に入り、難民といて暮しながら、その心に火をともし続けた者たちだ。

 私はその難民に向かって振り返った。

 拳を高く上げると、呼応して、それぞれが銃を天に掲げた。


「ノバラ覚悟が決まったようね」


「ええ、私ははなから人なんかじゃない」


 そういうと、メンフィスは息を飲んだように、目を反らした。だがそれは悲観的な言葉でもないし、同情を誘いたいがための言葉でもない。


「でも私は人だと思っているわ。だからこんなものをインプラントしたところで私自身が変わることなんてないわ」


 するとメンフィスは深く頷いた。


「分かったわ。すぐに準備するわ」


 すぐに私は倉庫の奥の手術台に横たわり、メンフィスの手術を受けた。

 局部麻酔を投薬され、インプラントの手術を始める。

 不思議と体の拒否反応起こらなった。本来ならこういった義体を装着するときには拒否反応が起こる。いくらチューニングしてもそれは、外部から入ってくる異物であり、人間の体はそうやってウイルスから守るシステムが存在している。

 だがリアンの作ったその義体は元から私の体だったように、よく馴染んだ。まるでもともと生えていた腕の方が自分の体ではなかったようにも思えた。


「すごいわ……ノバラ。こんなのあり得ない」


「リアンのお陰よ。彼女は天才だったから」


 本来ならインプラント後、約一日は歩くこともすらままならない。なにせ四肢が全く別のものに変わるのだ。だが私は手術後、すぐに体を動かすことができた。指先にまで感覚があり、針に糸を通すこともできそうなほど、その感覚ははっきりとしていた。ベッドから立ち上がると、何度がジャンプをし、体を捻った。

 いつも以上に体が軽い、そして力がみなぎるようだった。


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