第10話 彼と彼女の分岐点
「どうしたのマッディ、なにがあったの⁉」
「ああアンティーラ! ロアンナが足を滑らせて水の中に落ちてしまったんだ!」
マッディが指さした方向を慌てて目で辿ると、確かにバシャバシャと水面で必死にもがく彼女の姿があった。
しかし水を吸った着衣のせいで、抵抗むなしく徐々に沈み始めていく。
どうしてこのような事態に陥っているのか原因までは定かではないものの、二人の間でなんらかのトラブルがあったことだけは明白だ。
でなければ大の大人があんな格好のまま水辺に近づくわけがない。
「黙って見てないで、彼女を助けないの⁉」
私の隣でただ呆然とロアンナが溺れている様を眺めているだけで、一向に救出に動こうとしないマッディを強めの口調で咎める。
そもそも服すら着たままだし、最初から自分の侍従のことは諦めているのかもしれない。
「無理だよ! 僕まで溺れてしまう! それともなにか、君はたかが使用人のために僕の貴重な命を投げ捨てろというのかい⁉ 見返りもないのに冗談じゃない!」
喚くようにして最後にマッディが漏らしたその一言が決定的だった。私が彼に抱いていた恩義がまるで氷のように溶けていく。
見返りがないと他人を助けないということは、つまり私を助けたのはたんに見返りを期待してのことでしかなかった。
「……そう、かつて自分の命をかけてまで助けに来てくれた
「はぁ、なにをする気だい……?」
「いけませんアンティーラ様、それでしたらこのわたくしが――!」
いぶかしむマッディとは裏腹にコルダータは私が次に取る行動を予想できたらしく、慌てて声を張り上げた。
しかし着脱に時間のかかる給仕服に身を包んでいる彼女とは対象的に、自分は外歩き用の簡素な
ゆえに一息でそれを脱ぎ捨てると、コルダータの静止を振り切ってそのまま水面へと飛び込む。
(無茶だけはしないって貴方との約束をさっそく破ってごめんなさいコルダータ、けれどあそこでもたついていたらそこにある救える命も救えなくなってしまうもの)
既にロアンナは大量の水を飲んでしまって危険な状態であり、もはや一刻の猶予もない。
ただし真正面から救助しようとするとパニックになった彼女に抱きつかれて、二人仲良く溺れてしまう。
そうならないためにも少し遠回りして、彼女の後ろに回り込んでからすぐに抱きかかえた。
あの日の事故を教訓として、将来こういう事態に備えてひそかに泳ぎ方やこういった人名救助の仕方を覚えていたのだ。
「もう大丈夫よ落ち着いて」
ロアンナに語りかけながら、そのまま背泳ぎで慎重に接岸していく。
「今、陸地につくわ」
ようやく岸に辿り着くと、すぐ横で控えていたコルダータにすぐさま手伝ってもらいロアンナを引き上げることに成功した。
彼女はゴホゴホとむせながら水を吐いてはいるもののそれ以外に怪我はなく、意識もはっきりとしている様子だった。
よかった、助けることができて。複雑な感情がないわけではないが、それとこれとは別だ。
なにより色々と問題があったとはいえ、愛する男から見捨てられて、あまりにも可哀想だ。
この段階に至ってもいまだ彼女が恋慕していた男――マッディは、相変わらず遠巻きにこちらを眺めているだけで駆け寄ってくる気配がない。
本当に自分の侍従の安否はどうでもいいのね、顔を青くして心配しているようだけど、果たしてそれはなにに対してかしら?
________
これで共通ルートは終了となります。
ここからの展開は一部パラレル要素を含む断罪ルートと救済ルートに分岐します。
断罪ルートは慈悲のない完全なる
元婚約者やそのお付きのメイドが悲運な末路を辿りますので、(作者のように)後味悪いタイプのお話がお好きな読者様にオススメです。
救済ルートはざまぁはあるものの、〇〇を筆頭に一部キャラに温情と見せ場が与えられますので読後感が爽やかなモノを求められる読者様に最適です。
またその性質上こちらのルートが正史であり、救済ルートでしか明かされない物語の設定などがありますので、最終的にはどちらか一方と言わず両方のルートをお楽しみいただければ幸いです。
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