世界創造の前段階、言うなれば、世界創造する自分を想像する
さて、脱線させられた話も落ち着いたことだ。改めて。
「それでは、なぜ僕が君を呼んだかの本題に入ろうと思う」
「やれやれまったく、やっと、という感じね」
なんだか、僕が話をこじらせていたかのような物言い。別に、一人称は私のままでもよかったのではなかろうか。
「それで、なんで私が呼ばれたのかしら」
「なんでだっけ…、えっと…。あぁ、そう。そうだった。僕と一緒に世界を作ろう!」
「は?」
またもや彼女は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。いったい何度、彼女は苦虫に見舞われるのか。
「いや、だから、この何もない世界を、色の溢れる世界に」
「あぁ、なるほどね。そういう説明がないと、プロポーズのようにも聞こえるし、新手の詐欺のようにも聞こえるわ」
「それはごめん」
「まぁ、いいのだけど。あなたが、阿保みたいな文章を言っても、私にはわかるしね。それが仮に意味のわからない奇声だとしても」
「たえには?」
「えぇ、そうよ。今のは、そうなの?って聞いたんでしょ?」
「よくわかるね」
「もちろんよ。実のところ、なんで呼ばれたかも最初からわかっていたのだけどね」
「じゃあ、なんで質問してきたのさ」
「形式上よ、形式上。何事もやはり、過程というのは大事なものよ。結果を急いだところで、何も産まないのだから」
「過程がいくら積み重なっても、結果は変わらないと思うけど」
「まぁ、そうね」
「え、じゃあいまの良いことを言っていたかのような台詞は」
「特に意味はないわ」
「あぁ、そう」
「それで、あなたは世界を作りたいんでしょう?こんな何もない世界を塗り替えて、何かのある世界を上書きしたいのでしょう?」
「そのために君を呼んだわけだしね」
「そしてあなたは、友達をつくりたい」
え?
「そんなことはないよ」
いや、ないだなんて、言い切れない。何もない空間で目覚めたとき、一人称決めを最初にしていたけども、それは虚勢を張っているだけだった。その実、心の中では、この何もないところで、ずっと一人なのだろうかと、不安に押しつぶされそうだった。
「虚言だなんて無駄なこと、やめなさいよ」
「――君はすべてわかるんだもんね。そうだね、そうだよ。僕は、1人の世界なんて嫌だから、誰か友達を、話し相手が欲しい」
「それで、世界を作ろうとしていると」
「そういうことさ」
「私だけではダメだったのかしら」
「そんなことはないんだけども、やっぱり、たくさんの人がいた方が賑やかかなって」
「それなら、ここに大量の人を呼べば?」
「んー、それはまたちがうかなって。ここに大量の人がいたところで、それはただ、たくさんの僕がいるだけという感じがして」
それだときっと、いつか気づいてしまうだろう。虚しいと。
「世界を作ったところで同じなんじゃない?」
「背景のある世界なら、それは自分じゃなくて、ちゃんとそこに生きている人だと思えそうだからさ」
僕が何もない世界に作った人々。僕の作った世界が産み出した人々。その2つに相違はない。――結局のところ僕の作り出した人々であるのだから。しかしそれでも、間接的に、僕ではなく、世界が作り出した人々ならば、それは最初から存在していた人々だと思えるのではなかろうか。少なくとも僕はそう思う。そう、錯覚できる。
「そんなものかしらね」
「そんなものだよ」
「ただただ、自分を騙しているだけのように見えるけども」
「そうかもしれないけど、それでも自分を騙せるほどの錯覚なら、それはもう現実になるんじゃないかな」
「そう、あなたがそう言うなら。それで、どんな世界を作るの?」
「どうにも、それを決めかねていたから、君に相談しようと思ったんだよね」
自問自答であるわけだから、わざわざ呼び出す必要は皆無だけども。
「まず聞いておきたいのだけど、作った世界で永遠に暮らし続けるつもりなの?」
「最終的にはそのつもりだけど、いったんは適当な世界を作ろうかと思ってるよ。本当に、世界創造なんてことが出来るのかわからないしね」
「それなら、あなたの行ってみたい世界を作るのがいいんじゃない?単純に、体験してみたいことでもいいでしょうし」
「体験したいことか…うーん、なんだろう」
「なんでもいいのよ、なんでも。出来るかどうかの実験なのだから、ぱっと浮かんだやつ」
「そうだな、じゃあ賞金稼ぎとか」
「ずいぶん、突飛なところが来たわね」
「仕方ないだろう、ぱっと浮かんだのがそれだったのだから」
「まぁ、いいんじゃないかしら?それじゃあ、賞金稼ぎの居そうな世界を」
「うん、考えてみるね」
賞金稼ぎの居る世界か…。言ってみたはいいものの、どんな世界なのだろうか。犯罪者の溢れる世界?秩序の崩壊した世界?はたまた宇宙人に攻め入られている世界?うーむ、あまりにも漠然としているな。まぁ、それっぽいのを作ればいいか。漠然と少女を生み出せたのだから、世界もまた漠然と出来るだろう。そして僕は、世界の形成を試みる。
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