武田勝頼異世界奮闘記

@kasugamasatuki

第1話長篠の敗戦

 

 雨が降る中、わずかな手勢だけを連れて私は故郷である甲斐の国へ向かう。


 私は、あの信玄の息子で現武田当主の武田勝頼その人である。色々あったが仮初ではあるがこれでも立派な大名なのだが、現在ある大戦に負けてしまい逃げ帰る途中である。

  

 それも大勢の家臣を死なせてしまう大惨敗であったのだが…、過ぎた事に対してあまり気にしてはいけない。これから武田家を立て直す為にすることが山積みなのだ。

 

 「まさか、ここまで格の違いを見せつけられるとは思いもせなんだな」


改めて考えると我ながら相手が悪過ぎたと思ってしまう、織田信長と徳川家康の連合軍にこうもあっさりと武田騎馬隊が壊滅させられるとは思いもしなかった。これは信長との戦経験の差なのだろうとつい考えてしまう。


 「家康だけならなんとかなったかもしれんのになこのままでは父上に合わす顔がない」


今更後悔して無駄であった、呪うのは信長を甘く見てしまった自分の浅慮さからである。偉大な父親と比べられてしまい焦った結果がこの敗戦なのだと噛みしめなければならない。


 「早く昌信に会わなければならないなぁ……」


最後の頼みの綱である人物の名を口にして力なく馬を進めていく、その足取りは重く雨の影響で地面がぬかるでいる為に余計に遅く感じてしまう。


 雨は次第に強く鉄砲水のようになり、行軍の兵士達へと襲いかかる。もはや誰も何も言わない人形の様に黙って歩いてついてきてくれてる事に罪悪感をいだいてしまう。


 (「さて、これからどうするか?)」


今後どうするか、思案していると一瞬近くの草むらが揺れた気がした、あまりの雨の強さで音は聞こえなかった。


 「なんだ?、どうせ猿か何かだろうな」


大した事では無いと思い、気にも止めなかった。だがここがよく落武者狩りが頻繁に現れる危険な道なのを失念していた。


 激しい雨に打たれながら、ようやく国境にまでこられた事に、みんな少し気が緩み始めていた。「もうすぐしたら故郷に帰る」と震えて沈んでいた顔が少しだけ緩んでいるのを見ると俺は少し救われた気にもなる。長篠での撤退から力尽きるもや離脱するものはおらずみんな敗戦の将である、俺についてきてくれていれことに対してまだ武田はこれからだと不思議と思えてしまう。


  少し、俺も気力を回復させた所にひとりの兵士が近づいてくる、おそらく先頭にいた部隊の一人だろう。彼は後少しのところで昌信の部隊が殿を待っている事を告げる。


 すぐに馬を走らせて向かい昌信と合流する、初老に近いこの老将は俺を見るなり何も言わずただ一言だけつげる。


 「よくご無事で戻って来られましたな、早く新しい鎧にお着替え下さい、その泥だらけの鎧では民に示しがつきませぬ故」


「あぁ、わかった」


無表情で淡々という昌信に対してこちらもそっけなく答える。相変わらず冷たい言い方だ。結局彼も俺個人を心配なんかしていない、奴が心配にしているのは「武田」の名だけである、これは長篠以前からだった。当主なんて聞こえがいいが実際は次の当主までの繋ぎでしかなく代理人に等しい立場であり、都合よく使われるだけで最後は捨てられてしまうのだろう。


 (「あぁ、出来る事ならこんなしがらみから解放されて気心が知れた奴等と共に過ごしてみたいものだなぁ)」


そんなことは口が裂けても言えないが可能ならそうあってほしいものだと余計な事を考えながら昌信から離れようとした時、腕に何か札の様なものが貼られている事に気づく、よく見ると昌信にもある、俺はそれを取ろうとした瞬間突然札が光だした。


 「なんだ、これは!?」


叫んだのも束の間すぐに眩しい光に包まれて意識が遠のいていく、最後にかすかに聞こえた声だけを俺は覚えている。


 「武田勝頼と高坂昌信の暗殺に成功した!?これで武田もおわりだ!!」


どうやら刺客にやられてしまったらしいなんともあっけないだがこれでよかったのかもしれないと思うやっと解放されると思っていた、この瞬間までは。


 「あっ、いけねこの札都で買った怪しい札だ」


「「えっ!?」」


珍しく昌信と声が重なってしまう、俺たちは文句を言う事も出来ずに今度こそ光に包まれてしまった。




 


 


 


  

 

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