最終話 魔女は神に挑む
ステンドグラスと天井の穴から、雨が広間に降り注ぐ。
その雨に打たれるまま、クーシンはずっと止まっていた。見ているのは、目の前の白いドレスだけ。
主人を亡くしたドレスはコルセットやパニエのおかげで、着られていた時の形をある程度保っていた。しかし、雨に濡れていくほどに重みを増して崩れていく。
「うまく行かなかったみたいっすね」
スイの声。
呑気な口調で、クーシンの時が動きはじめる。
ようやく顔を上げて、周りを見る。ウルスラとフェンフーはいつの間にいなくなっている。倒れていたはずの近衛兵の姿すらない。
スイはいつも通りのメイド服だが、手に首を下げている。西王国国王、ジェムログ2世の首だ。
「そっちは上手くいったのね」
「護衛より早く逃げてましたからねぇ。チョロいもんです」
そうは言うものの、スイの左腕は力無くぶら下がるだけだし、足も引きずっている。決して楽な戦いでは無かったのだろう。
クーシンは改めて自分の姿を見下ろす。
キミリアとの戦いでついた肌の焼け焦げや腹の穴は吸血鬼の再生力で治っていた。ただ、東方風ドレスにあいてしまった穴が、ここに傷があったのだと教えてくれる。
「お気に入り、だったんだけどね」
直すのは中々難しいだろう。東方領でないと職人がいないし、東方領に持ち込めば一発で身分がバレる。
「キミリア様は?」
「女神の御許で待ってるって言われたわ」
元々、クーシンは至聖教の女神を信じてはいなかった。でも、今は少し違う気持ちでステンドグラスを見上げる。
「どうするんです、これから」
「決まってるでしょ。キミリアが女神のところにいるのなら、そこに行くわ」
ステンドグラスの女神は首から上しか残っていない。自身に起こった惨劇すらも把握していない微笑みに向かって、クーシンは小さな拳を突き上げる。
「女神を殺して成り代わり、キミリアをあたしの手に取り戻す」
「えらく、大それた目標ですねぇ。神を殺すとか、できるんですか、そんなの」
王殺しのメイドが神殺しを違う吸血鬼を笑う。
「できるわよ」
女神の実在を心から祈りつつ、クーシンは断言する。
「あたしにはもう、時間はいくらでもあるんだから」
嵐はいつの間に止み、半欠けの月が天頂から吸血鬼を照らす。
その輪郭は、少し歪んでいた。
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かくして魔女と聖女は互いに想い合いながらも、すれ違い。
聖女は天に帰り、魔女は吸血鬼となって地を彷徨うこととなりました。
魔女クーシンと聖女キミリアの物語はここでおしまいとなります。
神に成り代わるという吸血鬼クーシンの野望は叶うのか、王を失った西王国がどうなっていくのか、などはまた別の物語。
近いうちに後日談を数本追加予定ですが、一旦完結とさせていただきます。
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『トイレに行ったら帰り道にダンジョン配信されちゃった地味オタ女子高生ですが、明日のバレンタインまでに帰れますかね?』
魔女と聖女はすれ違う ただのネコ @zeroyancat
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