湖の辺りで(改訂版)

今泉 叶花/宮園 れいか

第1話 

 それは、いつも通りバイオリンのレッスンを受けに先生の元へ向かう途中のことであった。

その頃はちょうどつつじの花が見頃で、彼女は道路脇の花壇から漂うほのかな香りに少しうっとりしながら、上機嫌で自転車を加速させていた。生み出される風が黒髪をはらりはらりとなびかせて空気を含ませている。澄み切った青空に彼女は思わず鼻歌を歌っていた。彼女はその日、少々浮かれすぎていた。

 何しろ、気が遠くなるほどの間ずっと夢に見てきた、ウィーンの晴れ舞台で演奏するという絶好の機会をやっと掴みかけたのだ。

 有頂天になってしまうのも無理はなかった。やっと叶うのね、と彼女の頬はひとりでに緩んでしまう。

 角を曲がった矢先に飛び出してきた自動車を見て、彼女ははっと息を飲んだ。慌ててハンドルを切る。

 しかし、すでに遅かった。右腕に燃えるような激痛を感じ、次の瞬間には気を失っていた。

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湖の辺りで(改訂版) 今泉 叶花/宮園 れいか @imaizumi_kyoka

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