第14話・父

「何だ……これは」


 パトカーから真っ先に降りてきた奴が、死んでいる屑どもを見て呟いた。


「全員……死んでいます」


 不良の開いたままの目を見て、警官が叫ぶ。


「死んでいます、占部警部!」


「数字はどうなっている?」


「数字ではありません。額の文字は「DEATH」!」


「充人!」


 僕を見たは、険しい顔をより一層険しくする。


「まさかとは思うが……これはお前のやったことなのか?」


「まさか」


 僕も吐き捨てる。


「僕の力は過去と未来を読むこと。こんな簡単に能無しの不良どもを皆殺しにする力を、残念ながら今の僕は持っていない」


「なら、誰がやった」


「言う義理があるのか?」


 に白々しい目を向けてやる。


「え? 


「父に向かってなんて言い方だ!」


「事件を解決するのか警察じゃない、事件を起こさないのが警察だと、は何度も繰り返していただろう。平和な生活こそが警察の目指すものだと」


 激昂した父に薄く笑ってやる。


「それがこの有様はどうだ。警察が動き出したのは地震と日蝕が始まった直後からだろうに、人は死ぬ、町から出られない、不良どもは群れを成して人を襲おうとする。この神野町の何処が平和だ? 一大魔界都市じゃないか。たちの守ろうとしている平和なんて……っ!」


 途中で言葉が止まったのは、だん! と足を全力で踏まれたから。


「何をする、ユキ!」


「何をする、じゃないでしょう!」


 ユキは一瞬母を思わせる顔で叫び返した。


「占いで、お父さんの力が必要と出たんでしょう? お父さんがこの事件を解く鍵の一つなんでしょう? それを、会うなり喧嘩売って! サキト君はこの町を良くしたいの、悪くしたいの、どっち!」


 目の前の男……僕の父、占部うらべ賢人けんとは、眉間にしわを寄せながら煙草を一服していた。


 肺に煙を入れ、吐き出す。


 まだあんな違法薬物もどきがやめられないのか。堅固な意思を持てと言いながらひ弱な話だ。


 もちろん言葉にはしていない。話がややこしくなるのが目に見えているから。


「……充人」


 ようやく平常心を取り戻したらしい父は、僕を見る。


「本当に、この問題児集団をったのは、お前じゃないんだな?」


「何度も繰り返すな、不愉快だ」


「……なら、いい。どれだけかマシだ」


 パトカーの周りでは警官が不良の倒れている現場を確保している。馬鹿なことを。それは暴力による殺しじゃない。異能によって、触れられるだけで死んだ亡骸だ。


「警察署で対策本部を立ち上げた」


 父は相変わらず、事実だけを伝える。


「その対策本部に、充人、お前を正式に捜査協力者として招き入れることになった」


「対策本部? はっ!」


 僕は鼻で笑ってやる。


「打つ手どころか、事件のきっかけさえつかめない警察が、ついに占い師に頼ったか! 国家権力である警察が! 一介の占い師に! 正式に協力者として!」


「そうだ。……そうしろと言ったのは美奈だ」


「母さん?」


 今、町の外にいるはずの母さんが? どうしてだ?


「母さん……サキト様のお母様は他の町に行っていると聞きましたが……警察で、何か外と連絡を取れる手段があるのですか? それとも」


「残念だが、スマホも無線も、通信手段の全てが町の中だけに留められている。町内のパトカー同士の無線のやり取りは可能だが、町外へは連絡手段はない」


「じゃあ、どうして」


「一般市民に話せる情報ではない」


「生憎だが、二人は僕の連れだ」


 相変わらず公僕と言いながら自分を一段階上だと思っている言い方だ。だが、そう言われたら受けて立つぞ、父よ。


「この事件を解決するために協力してくれている。その二人を僕と切り離す?」


「しかし若い女性を危険なところに」


「今のこの町にいる限り、何処にいても同じです」


 アヤは言い切った。


「私は、外に出る手段を探し、その為にサキト様に協力しています。何の力も持ってはいませんけど、解決の為に動いているのは確かです」


「わたしもです!」


 ユキが叫ぶ。


「家で大人しくしていれば、この異常事態は収まるって言うんなら話は別ですけど」


「前例のない事態だ、今のところ……安全な場所があるとは言い切れない。申し訳ない」


 渋い顔の父。警察に出来ないことがあると認めるのが気に入らないのだ。


「この二人はお前の協力者なんだな?」


「繰り返すな」


 ふぅ、と父は息を吐いた。


「分かった。説明は本部に戻ってからする。三人とも、そこのパトカーに乗ってくれ」


 一人の制服警官がパトカーの後部ドアを開けている。


「行ってくれ」


 十人近い不良が死んでいる異常事態に指示を飛ばしながら、父は言った。


「大丈夫? でしょうか?」


 アヤは不安げな声。あの態度の父を見てから大人しく警察に行くというのも不安だろう。だが。


「大丈夫だ」


 僕は言い切った。


「あの男は裏切るのも裏切られるのも嫌いだ。一度信用したなら裏切りが確定するまで信じ抜く。裏切ったらタダじゃ済まないが」


 僕はさっさとパトカーに乗った。


「……サキト君が言うなら」


「サキト様の御判断なら」


 二人も乗った。

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