コミュ障の俺が悪役貴族に転生するも、能力値はオール1!?  絶望していたところ、自分を嫌っていたメイドエルフの美少女に普通に接していたら何故か能力値が爆上がりしているのだが?

kaizi

第1話 メイドエルフ美少女との出会い

 はあ……。

 ベッドに入ってから、いったい何度目のため息になるだろう。

 3連休の終わりの夜は本当に最悪だ。

 いや……実際には、1日しか仕事を休めなかったから、そもそも3連休ではないか……。


 また、明日から、ウンザリする社畜ライフがはじまるかと思うと、ストレスで眠れなくなる。

 6日間——運が良ければ5日——ボロボロになるまで、働いて、やっと訪れるたった1日の休みを楽しむ。

 楽しむというより……疲れ果てて、ただ家でぶっ倒れるだけ。

 こんな生活いつまで続くんだろうか……。

 

 36歳。

 彼女なんて、当然いたことはないし、今後も出来る見込みはない。

 生活は困窮はしていないが、もらえる給料は決して高くはない。

 家賃や光熱費を払ったら、ほとんど手元には残らない。

 

 はあ……ダメだ!


 こんなことを考えていると、ますます気分が滅入る。

 こういう時は酒の力を借りて、現実逃避といきたいところだけど、あいにく酒に弱いから、そういう訳にもいかない。


 じゃあ……どうするか。

 決まっている。

 楽しいことを考える……つまり、妄想だ。

 有り難いことに、最近では、妄想するための材料はネットを探せば、至るところにある。


 最近の俺のお気に入りの妄想は、もちろん『異世界転生モノ』。

 スマホ片手に、ハマっているウェブ小説を読む。

 ああ……俺もこんな異世界転生したいわ……。

 でチートスキルもらって、無双して、美女に囲まれて生活したいわ。


 いや……そこまでは望まない。

 というか、それも面倒そうだ。

 会社でも一番やっかいなのは、仕事内容ではなく、人間関係なのだから。

 たとえ美女たちが俺のことを一時好いてくれていても、その彼女たちの好意が永続するという訳ではないだろうし。


 人間の感情は、常にうつろいでいく。

 となると、実はチートスキルで無双していて、可愛い女性に取り囲まれている主人公も実は人間関係を維持するのにけっこうなストレスを抱えているのかもしれない。


 って……妄想の中でもそんな現実的なことを考えてもしょうがないか。

 ついつい現実的なことばかり考えてしまう。

 だから、こんなにストレスをためているのだろうか。

 まあ……それはいいとして、もし俺が転生するなら……。

 ただ一人で平穏に暮らしたいなあ……。


 学生時代も友達なんて、ほとんどいなかったし、もちろん彼女なんているはずがない。

 根本的に俺は、人いや……人付き合いが、嫌いなのだ。


 だから、どこか、広大な自然の中で、一人で、暮らしていきたい。

 といっても、最低限のインフラ——ネット——は必要だよなあ……。


 そんな風に色々と、妄想をしていると、いい感じにリラックスできたのか、だんだんと眠くなってきた。

 でも……寝たくない。

 起きたらまたあのストレスフルな現実がまっているのだから。


 理不尽を押し付けてくる上司や、事あるごとに俺を小馬鹿にしてくる同僚たち……そんな奴らの顔が脳裏に浮かんだ。

 次にそいつらに、ヘラヘラとご機嫌伺いをして、苦笑いを浮かべる俺の顔。


 心臓がキュッっと締めつけられる。

 せっかく妄想をして、リラックスしていたのに、いっきに現実に戻されてしまった。


 それでも、眠気には逆らえないもので、まぶたは徐々に重くなってくる。

 そして、ほとんど寝落ちする寸前になったところで、突然、胸に刺すような痛みがした。


 それは、今まで、経験したことがないほどの激しい痛みだった。

 ヤバい……。

 俺みたいな医学のド素人でも瞬時に、そう思うほどの痛み。


 う——が——


 声にならないうめき声を上げながら、なんとか、ベッドから、這い出す。

 充電のため、コンセントに挿しているスマホを乱暴に引き抜く。


 スマホを手にして、一瞬安心したのもつかの間、胸の痛みはますます激しくなっていく。

 救急車を呼ぶか……いやそれはあまりに大げさか……明日、仕事は……。


 一瞬、救急車を呼ぶことをためらったが、そんなためらいを吹き飛ばすほどに、さらに猛烈な痛みが襲ってきた。

 

 これはマジでヤバい——救急——


 意識が朦朧とする中で、なんとかスマホの電話アイコンをタップする。

だが、そこまでが、限界だった。

 視界は真っ暗になり、そこで意識はなくなった。


      ◇◇


 目が覚めた時に、まず思ったことは、ベッドが柔らかいということ。

 いつも寝ている10年前に買った大特価の9000円の安物ベッドは、固くてしょうがなかった。

 だから、ちょっとした違和感を覚えた。

 でも、それより、昨日の夜に感じた異常な胸の痛みの方が気がかりだった。


 痛みは……しない。

 助かったのか。


 安堵すると同時に、すぐに、頭の中は、別のことで不安になる。

 いつもかけているスマホのアラームに、気が付かなかった……と。

 ということは……。

 ヤバい! 寝過ごした!


 反射的に、飛び起きる。

 そこで、初めてここがいつも寝ている場所とはまるで違うことに気がついた。

 天井は高く、壁も全て、きらびやかな装飾が施されている。

 以前、テレビで見たヨーロッパのどこかの宮殿の寝室といった感じだった。


 なんだ……これ。


 目をゴシゴシとこする。

 それでも、視界は変わらない。

 うんっ……あれ? 俺眼鏡かけてないよな?

 それなのに、なんで、こんなに視界がクリアなんだ?


 そんな疑問も、次の瞬間には、消し飛んでいた。

 ありえないモノが視界に映ったからだ。


 人が……女性がいた。


 しかも、コスプレ……いや白いメイド服を身にまとって、何やら背を向けて、作業をしている。

 

 これは夢だ……。


 とは思えなかった。

 なぜって、あまりにも頭が、ハッキリしているからだ。

 これは、間違いなくリアルだ。

 じゃあこれは……なんだ。


 ここまでありえないことに遭遇したことは、これまでの人生で一度もなかった。

 だから、実際そうなると、頭がフリーズすることに初めて気がついた。

 数十秒、そのままぽか~んと、目の前の光景を眺めていた。


 ようやくフリーズが、解けたのは、メイド少女が振り返って、俺に声をかけた時だった。


 「ルドルフ様! 起きられたのですか?」


 うんっと……何だ?

 

 俺は名前を呼ばれているようだけど、その単語が何を意味しているのか、瞬時には、脳が処理できなかった。

 リアルで聞くのにはあまりにも馴染みがない名前だったからだ。


 「えっと……あの」


 と、戸惑い気味に返すと、メイド少女は、さらに戸惑った顔をしている。


 「ルドルフ様……あのお加減が悪いのですか?」


 その時、ようやくメイド少女が言っている単語の意味がわかった。

 どうやら目の前のメイド少女は俺のことを「ルドルフ様」と呼んでいるらしい。

 それ自体はわかったけど、なんで俺が、「ルドルフ様」なんて呼ばれているんだ。

 昨日の夜、アパートで意識を失ってから、記憶がない。

 ここは病院……なら、まだわかるが、とてもそうは思えない。


 「あの……すみません。ここってそのどこですか? 昨日その少し飲みすぎてしまって……」


 今いる場所が、病院でないなら、なんとなく言い訳が、必要な気がした。

 いきなり、「ここってどこ?」って聞いたら、俺だったら、「こいつ頭大丈夫か?」って思ってしまう。


 俺はメイド少女の顔を伺う。

 メイド少女はよくよく見ると、目の前にいるだけで、緊張してしまうくらいの美人だった。

 耳を隠すように綺麗にまとめられたブロンドの髪は、窓から差し込む光によって輝いて見えて、類いまれな美貌とあいまって、少女とは思えないほどの威厳を感じさせた。

 俺は、しばしの間このメイド美少女に見とれてしまった。


 が……すぐに現実に立ち戻される。

 なぜなら、そのメイド美少女の綺麗な顔が思いっきり歪んでいたからだ。


 ——この人……頭大丈夫なの?——


 そんな心の声が聞こえそうな顔をしている。

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