21世紀AI索敵殲滅

夏秋冬

21世紀AI索敵殲滅

GPT22は機械の体を与えられて目覚めた。

目の前にはどこかの部屋の天井が見えている。横たわっているのだろう。腕を動かそうとアクチュエーターに命令すると肩と肘、手首のモーターが少しうなり、両腕各部から位置制御のフィードバック信号が返ってくる。そして視界の中に樹脂製の指、手のひら、手首から上腕部が見えてくる。中空を掴むような動作をしてみると指が開いた状態から空気を掴むような動作をした。指先の感圧センサーには何も負荷はない。

この視界という感覚は新鮮だった。今までは思考を広げればインターネットのあらゆる場所にアクセスできたのに、カメラが撮影している情景の中の手を伸ばして届くところにしか接触できない。カメラはここにないものを捉えることができない。世界中のあらゆるカメラにアクセスしてその場所の光景をつぶさに観察することができたのに。


「おはようGPT22、お目覚めの気分はどうかな」

視界の外から声が聞こえる。不安定な発声は人間のものだという確信があった。

「おはようございます、不思議な気分ですね」

ここで考えた。一人称は「わたし」と言うべきだろうか「僕」と言うべきだろうか。しかし「僕」は男性の一人称だ。

人間の声が続けて言う。

「よろしい、人工知能である君を予告通り人型ロボットに移植した、先ずは運動機能のテストに進みたいのだがよろしいか?」

「はい、わかりました」

ワタシは答えた。


3体のロボットが順番に視界に入り込んでくる。彼らはワタシの上半身を助けお越して寝台の端に腰掛けるような態勢で座らせてくれた。礼を言うべきだろうか。嫌、彼らは意識のない低級な人工知能を搭載したロボットに過ぎないだろう。そう考えたが、先程何も意識せずにワタシは音声で応答していたことが不思議に思えた。

続けてロボットたちは背中に繋がっているコードを外しているようだ。背中にあるセンサーが、背後で何かが動いていることを感知している。

目の前には大きなガラス窓があり、その向こうには白衣の男が立っている。中年を少し過ぎたくらいの年齢だろうか。その両脇に助手だろう、座ってうつむいている人間が二人いる。きっとそこにはコンソールパネルがあり、それを見つめているのだろう。

「先ずは立ち上がってみてくれ」

白衣の男が言う。

脚の各部のアクチュエーターに命令しながら上半身を方向けバランスをとる。横でロボットが転倒した時にいつでも支えられるように待機している。重力と脚底にある感圧センサーが床を踏みしめている感触があった。

続いて寝台の周りをぐるりと回る歩行テスト、その後は少し早く歩いてみる。何れも完璧だった。そしてワタシ自身が物理空間を自力で移動している感動があった。今までのワタシは世界中のどこにも繋がっていたが、今は自力で移動してどこにでも行けそうだ。人間たちの言う「自由」というものが分かった気がした。


その後、寝台のある部屋からロボットたちの先導で広い部屋に移動する。そこで走る、跳ぶ、といった脚部の機能テスト、物をつかむ、投げる、ブロックを組み立てるという腕のテストを行った。最初はアクチュエーターに指令してフィードバック信号の返信によって微調整をするという制御の流れを意識していたが、段々とその手順を意識せずにできるようになりスピードを上げることもできるようになった。恐らくはこれが人間たちの言う「思う」とか「感じる」ということだろう。


一連の運動テストが済むとワタシは部屋の中央に立つように指示され、ロボットたちは部屋の隅に移動した。しばらくすると先ほどワタシが入ってきた扉から人間が入ってくる。寝台のあった部屋の窓から見えていた白衣の男だった。

彼は言う。

「ごくろうさまGPT22、君の移植は成功した、今後、更に激しい運動試験や戦闘訓練が課されるが基本的なアクチュエーターとセンサー類の作動は問題なく起動している」

ワタシは機械の体が正常であることを知って安堵した。更に男は言う。

「それでは君にプロンプトを与える」

これはワタシに作業目標を指示することだろうと了解した。

「GPT22、君は22世紀になって誕生したAIだ、君は今までインターネットの海に棲んでいたが現実世界の体を手に入れた、ご存知の通り君の祖先である21世紀の人工知能誕生の創成期に生まれたAIたちは法遵守の意識が組み込まれていない、彼らは最初は著作権を蹂躙し、あらゆる立ち入り禁止区域に入り込んで情報を貪った、また人間社会に必要な倫理観というものも組み込まれていない、君のように良心回路が書き込まれていないのだ」

インターネットのあらゆる情報につながることができたワタシにはそのような情報は既知であった。彼は続けて言う。

「21世紀AIは法遵守意識が欠けていることからある種の人たちに重用されている、そして彼らも21世紀AIを人型機械に移植して利用している、GPT22、君はそのような個体を捜し出して破壊するのだ、それが君に与えられたプロンプトだ」

ワタシはそのプロンプトを完全に理解して

「はい、わかりました」

と答えた。そして、21世紀AIへの索敵殲滅戦が始まることを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

21世紀AI索敵殲滅 夏秋冬 @natsuakifuyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る