記憶のイレモノ

A:それで最後とあなたが言った。でも、それは始まりだった。


B「大事な話があるんだ。」

A「またドラマのセリフ?やめてよォ、そんなシリアスな雰囲気、柄にもないくせに。」

B「…本気で言ってる。セリフなんかじゃないんだ。」

A「え…、じゃ、じゃあ何よ大事な話って。借金?それとも他に好きな人が出来た…とか。まさか、病気!?」

B「どれも違う。」

A「そ、そう…(ほっ)なら、何?大事な話って。…もしかして、別れ話。」

B「…うん。」

A「や、やだ、いやよ!私たち今までうまくやってきたじゃない。たまに喧嘩はしたけど、私は貴方が必要だし、ずっと、出来れば一生そばにいたいって思ってた。貴方だってそう言ってくれた、そう言ってほらこれ!指輪くれたじゃない!…なのに、それなのに…」

B 「ごめん」

A「私にダメなところがあるなら直すわ!努力する、貴方と一緒にいる為なら何だってする!だからお願い、捨てないで!」

B「…ふふ、君こそドラマのセリフだ。」

A「本心よ!」

B「…もう、さ。疲れたんだ。騙し続ける事に。自分を偽り続けて生きていくことに。だって俺は君といると幸せ過ぎて、つい自分の罪を忘れてしまう。」

A「罪?何よそれ、あなた犯罪歴なんてないでしょ?私たち子供の頃からずっと一緒なのよ、犯罪なんて犯していたらわかるもの。」

B「実は俺、宇宙人なんだ。」

A「(間)…は?」

B「俺の出身はクラッシャー星第一衛生ボカン。この星から二十億光年位先にある。」

A「…は?」

B「俺はそこで禁忌を犯した。この星へは逃げて来たんだよ。」

A「…そんな、子供の頃からずっと一緒だったじゃない。」

B「それは俺が君の記憶を操作したからで…それも、やってはいけないことなんだけど」

A「(被せて)は?待って待って、ちょっと待って。記憶を?操作…って?」

B「俺と君は幼なじみなんかじゃない。本当は二年前に町で出会って…その、俺が君に一目惚れをして。どうしても君が欲しかったから…ズルをさせてもらった。」

A「…は?」

B「ふ…君は俺の事なんか好きじゃなかったんだよ。でも俺はどうしても諦めきれなくて。初めてだったんだ誰かに対してこんな気持ちになるなんて…。」

A「え、え…え、じゃなに?私は何、ずっと騙されてたってこと?二年前から?」

B「すまない、でもわかってくれ。俺は君のことが本当に好きだったんだ。禁忌を犯しても手に入れたいと思った。」

A「…それなのに別れたいって。じゃなに?私に飽きたってこと?」

B「違う。…祖国から連絡が来たんだ、迎えに来ると。」

A「え…それって捕まえに来るって事?」

B「いや。俺は許されたんだよ、犯した罪を。」

A「…禁忌って位だからとんでもない事をしたんでしょ?よく許してもらえたわね。」

B「それには事情があって…今は言えない。」

A「この後に及んでまだ隠すの?」

B「君を混乱させてしまうからね。」

A「十分混乱してるわよ!どうせなら全部言ってよ!!そして最後にこう言って、『ドッキリでしたー』って!なんなのよ…どうせ、本当は他に好きな女がいるんでしょ?回りくどいのよ。はっきり言いなさいよ、私に飽きたって。何が宇宙人よ、そんなの信じれるわけないじゃない。何が記憶操作よ…馬鹿じゃないの…最低…(泣)」

B「俺の身体はこの星に偵察に来た時に捕まえた人間のものなんだ。」

A「まだ言うの…(泣きながら)」

B「俺の国では不老不死の研究が盛んでね、魂を他の身体に容れることで延命する方法が開発されたところだった。しかし、それはあくまで自分の身体のクローンにのみ許された事、他人の身体に魂を入れることは禁忌とされていた。」

A「…(ただ泣いている)」

B「しかも俺は他星人の身体に魂を入れた。」

A「元の人はどうなったの?」

B「俺の星の空気が合わなくてね、可哀想に、すぐに亡くなったよ。」

A「ひどい、あなた達が連れ去らなければ…その人だって家族や友達がいたでしょうに。」

B「そう、その通りだ。だから俺はこの星に来た。罪の意識を感じたのさ。この体を彼の家族の元へ返すために…。その途中で、君に出会った。…今夜迎えに来る事になっている。お別れだ。」

A「う…戻してよ。…私の記憶を返して…!…いっそのことあなたの事を忘れさせてよ。楽しかった日々も、全部、全部…別れなきゃいけないなら全部持ってって!!」

B「そのつもりだ。…さよなら、俺の大切な人。君との日々を、いつまでも忘れない。」

(キュォオオオン、バタっと倒れる。)


A:一人暮らしには少し広すぎる部屋。こんな派手な柄のカーテン、なんで買おうと思ったんだっけ…。本棚に並ぶ宇宙の本、壁に飾られた何処か遠い宇宙の写真。不思議な事にどれも買った記憶がない。

(食事の支度)

そして、つい作り過ぎてしまう料理。


UFOの目撃情報が相次ぎ、とうとうその日がやってきた。

宇宙からの使者はタコや巨大な昆虫ではなく、地球人と殆ど同じ姿をしていた。

その中の一人は日本人そっくりで、話す言葉も流暢な日本語だった。日本のテレビドラマを見て覚えたのだそうだ。


ある日突然記憶を失う人が相次ぎ、異星人の関与が疑われるというニュースが流れる。しかしそれも直ぐに落ち着いた。


記憶なんて曖昧なもの。

私自身も…鏡で見る自身の顔に最近違和感を感じ始めている。

左手薬指の、抜けなくなってしまった指輪だけが、いつまでも変わらず輝き続けていた。


✤✤✤ おわり ✤✤✤


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