33話 宗教法人『国造りの神道』


「おいっ!女の子が倒れてるぞ!」


 白い巨大建造物から白装束を身にまとい、胸にナンバープレートを付けた二人の男が駆けつけてきた。


 宗教法人『国造りの神道』の信者たちである。


「キミ、大丈夫かい?」


 男のひとりが膝をつき、心配そうに声を掛けた。


「お……お水が飲みたい」


 少女はか細い声で水を欲した。


「大丈夫だよ、直ぐにあげるね!おい、とにかく中へ運ぼう」


 男たちは少女を担いで、建屋の中へと入った。



 4メートル上空に飛んでいるは、その様子を監視していた。


「よーし、順調だね。早くも潜入成功じゃん」


 口いっぱいにお菓子を詰めた春樹ハルキがパソコンのモニターが反射していた。


「では早くてんとう虫も潜入させろ!……てか、キーボードの隙間がお菓子のカスだらけだぞ」


 夏井は鉄アレイ片手に苦笑いをした。


 その頃リーダーの秋山は、建物を一望出来る丘の上からスナイパーライフルのスコープで中の様子を覗いていた。


「こっちからは見えなくなった。ここからはてんとう虫の画像を見て待機する」


 画像はそれぞれのスマートフォンで共有出来るシステムなのだ。


 美冬みふゆ嶋田おれは、彼女の愛車(赤いスポーツカー)で待機。

 車体は草が生い茂り、木の枝から垂れ下がった影に駐車している。

 俺たちもスマホの画像を食い入るように見つめていた。


 男たちは医務室にひかりを運び、ベッドの上に寝かせた。

 ペットボトルにストローを挿して水を飲ませてくれた。


 その後、白衣を着た初老の男性がひかりを診察した。


「うん、軽い熱中症のようだね、心配ない。暫く横になってなさい」


 男たちはひかりに笑顔を見せると、医務室から出ていった。


「ふぅー、見てるこっちが神経使うぜ。とりあえず信者は皆 穏やかで人間味のある人たちのようだな」


 秋山は安心すると地面の上で仰向けになり、空を見上げた。


「ひかりとコンタクトを取ってみてくれないか?」


 俺は念のためひかりの様子を知りたかった。


「それは無理。てんとう虫は映像と音声のみ。こちらから声をかける事は出来ないよ。そういうのは今改良中だから」


 ハルキは少しムッとした。


「そうか、すまない」


「ハルキ、お嬢ちゃんの顔を突いてみたら?」


 美冬の提案に、ハルキはひかりの顔にてんとう虫をコツっと当てた。


「あれ?ひかりちゃん動かないぞ?」


「……」


 皆 沈黙する。


「皆、すまない。ガチで寝てる……」


 俺は申し訳無さげに伝えた。


 美冬が、俺に視線を合わせクスリッと笑った。


 およそ30分後、医務室に先程の男たちと一緒にもう1人の中年男性が入って来た。


 ひかりは気が付いてベッドに座った。


「具合はどうだい?」


 中年男はひかりに微笑み掛けた。


「はい、大丈夫です。ありがとう」


「ハッハッ、それは良かった。私は国造永光くにづくりえいこうという者だ。宜しく。ところでお嬢さんはどうして門の前で倒れていたのかな?」


 中年男は不思議そうに、また探るように質問する。


「私は目が見えないの……だからパパとママに捨てられたの」


 ひかりは俯き、悲しそうな顔をした。



「おチビちゃん、やるねぇ!アカ○ミー賞もんの演技だ」


 秋山はスマホの画面に向かいケラケラと笑った。



「それは可哀想に……。そうだ!良かったらウチのにならないかい?ここは皆、良い人ばかりだよ」


 掛かった!入信決定!


 ひかりが喜びお礼を述べると男たちは部屋から出た。

 代わりに二人の女性信者が入室して来た。


「いらっしゃい、今日から家族よ。仲良くしましょうね」


 二人の女性もとても優しそうな感じだ。


 その内のひとりが、袋から白装束を取り出した。ひかりに着せるようだ。


「お嬢さんは何歳かな?」


「私はもうすぐ8歳です」


「じゃあ小学生ね。ここでは勉強を学ぶ事が出来るのよ。さあ、これに着替えてね」


 ひかりは服を脱いで、スポーツブラにショーツ姿になった。



「おい!男どもは画面から目を離せ!」


 俺はついムキになった。


 この年齢でスポーツブラは着けなくてもいいのだが、これには美冬お手製の仕掛けがほどこされていた。


 片方のパットには平たい形状にした栄養食、もう片方にはビニールパックに入った飲料水が入っているのだ。

 非常時に飲食するように伝えてある。


 ひかりが着替え終わると、最後にナンバープレートを付けられた。


「まあ、似合うわ。アナタの名前は今日からNo.204891よ」


「え?……に、にいよん……が名前?」


 この『国造りの新道』では、皆 ナンバーで呼ばれる。

 名前が与えられるのは上層部の人間だけなのだ。

 つまり先程の中年男国造永光は上層部の一員という事だ。



「なるほど……名前のある上層部だけがを吸えるってワケか」


 俺はひかりがナンバーで呼ばれる事、この団体の仕組みが何となく分かったことで気持ちが逆立っていた。


 そして中心にある本堂を挟んだ2棟の建屋、これは富裕層と貧困層に分けられているモノだった。


 富裕層は献金を、貧困層はパートやアルバイトをし、その全てを上納金として教団へ渡す。


「クソ最低な仕組みだな……」


 夏井のコメカミに血管が浮き出た。


「信者は20万人を超えているみたいよ……」


 美冬の言うように、北は北海道~南は九州まで12箇所に及ぶ大規模な団体なのだ。



 そして、今からひかりに最悪の試練が待ち受けていた。


 着替えが終わると女性信者が先程の上層部の男を呼んだ。


「うん、とても似合ってるよ。No.204891」


 ひかりは動揺し戸惑ったが、とりあえずこうべれた。


「キミはアッチ(貧困層)の棟だから、まずは入信の儀式をして貰うよ。勿論、No.204891ならと信じてるよ」


 国造永光くにづくりえいこうは不気味な笑みを浮かべた。



「何か仕掛けてくるぞ!ハルキ、おチビちゃんから離れるなよ!」


「うん!分かった!」


 ハルキはお菓子を食べるのを止め、てんとう虫の操作に集中した。



「さぁ、ここだよ。キミは今から24時間、この部屋で過ごすんだ。これに耐えたら立派な信者だよ」


 国造永光が連れて来たその部屋は……いや、部屋とは呼べるものではない。

 そこはたた一畳いちじょうくらいの狭さで、天井はひかりの身長よりも低い。そして壁、天井、床……全てが真っ赤な空間だった。



「おいおい!ここに丸一日だと?完全に○っていやがる!ハルキ、おチビのお団子頭に隠れて一緒に入れ!」


 焦る秋山


 しかし……


「ダ、ダメだ……電波妨害装置がついてる。近づいたらてんとう虫が機能しなくなって落ちちゃうよ」


 ハルキは全身の毛穴が開くような感覚に襲われていた。



 そして……無情にもその時は訪れた。

































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