第4話 ある占い師との出会い 4 <完>
エルウィンが振り向くと、露天商に混ざって黒いローブ姿の老婆が見つめていた。
老婆の前には水晶が乗っている。
「お前か? 俺に声を掛けたのは?」
「ええ、そうですとも。少し占っていきませんか?」
するとエルウィンはそっぽを向いた。
「フン、あいにく俺は怪しげな辻占いなど一切興味が無いのでな。行くぞ、スティーブ」
「あ、は、はい」
踵を返したエルウィンに促され、スティーブは返事をした。すると老婆が再び声を掛けてきた。
「まぁ、まぁ、そう言わずに少しだけ試しに占ってあげますから。何、お代はいりませんから」
すると背後から老婆が声を掛けてきた。
「なる程、お前さん……数年前に一度に両親を亡くされているようだね。気の毒に……」
「何⁉」
その言葉にエルウィンは振り向いた。
「まだ年若いが、重責を担っているようだな……。中々苦労されているようだ。ここへは息抜きに来られたのかな?」
「お前……一体何者だ?」
エルウィンは殺気を込めた目で老婆を睨みつけた。
「何者も何も、先程お前さんが言ったではないか。怪しげな辻占いと」
「そんなことは聞いていない! 一体何処でその話を知った! 言え!」
「た、大将! 落ち着いて下さい!」
スティーブは必死で止めるもエルウィンは耳を貸さない。
「何処で俺の話を聞いたのだ! 正直に答えろ!」
身体に闘気をまとわりつかせ、老婆を怒鳴りつけるエルウィン。普通の者なら、その目で睨まられるだけで震え上がるものだが老婆は全く動じることがない。
(この老婆……一体何者なのだ? 大将の闘気にあてられても平然としていられるなど……)
「だから、占い師だと先程から言っておるだろう? お前さんは常人とは何処か違う雰囲気をまとっているので、占ってみたくなったのだよ」
老婆の言葉にエルウィンは少し落ち着きを取り戻した。
(確かに代々アイゼンシュタットの城主にはドラゴンの力が宿ると言われているが……まさかこの老婆がそれを見抜いたのか?)
「よし、分かった。なら占ってもらおうか? それで俺の何が見えるのだ?」
腕組みするエルウィンに老婆は答えた。
「もう、占いなら済んだよ。お前さん……女難の相が出ておるな? 女性が苦手のようだな」
「何だって⁉ 女難の相だって⁉ 冗談じゃない!」
驚きの表情を浮かべるエルウィンに対し、スティーブは危うくおかしくて吹き出しそうになってしまった。
(あ、あの大将に女難の相だって⁉ お、おかしすぎる……!)
「まぁ、でも素晴らしい出会いも待っておるな……。もうすぐお前さんの伴侶になる女性が現れる。お前さんはその女性と幸せな家庭を築くことになるだろう」
「は? 俺の伴侶だと? ありえんな! 俺は女が嫌いだ! 幸せな家庭を築くだ? そのような戯言、誰が信じるか!」
すると老婆は言い返す。
「私の占いは完璧だ。今まで一度たりとも外したことは無い。宣言しよう、お前さんは必ず恋に落ちるとな!」
「ブッ!」
とうとうその言葉に我慢できず、スティーブは吹き出してしまった。しかし、頭に血が登っているエルウィンの耳には届かなかった。
「よし! ならこちらだって宣言してやる! 俺は絶対に伴侶など持たない! もしお前の占いが当たれば、百万レニー支払ってやる!」
「ほほう、大きく出たものですな。ではもし私の占いが当たっていれば来年のカーニバルにも来なさい。百万レニーを支払ってもらうことにしようかね」
老婆は面白そうに笑う。
「ああ! 分かった! その代わり、お前の占いが外れたら、もう二度と占いなど馬鹿げた商いはやめてもらうからな!」
エルウィンは老婆を指さして怒鳴りつけた――
****
そして1年後――
エルウィンとアリアドネは2人で『ラザール』の町へと来ていた。
「どうだ? アリアドネ。この町のカーニバルは」
優しい笑顔で声をかけるエルウィン。
「はい、とても賑やかで楽しいですね。でも……何故、突然この町へ来たのですか?」
アリアドネは不思議そうな顔でエルウィンを見つめる。
「あ、ああ……少し約束があってな……」
何ともバツが悪そうなエルウィン。
「そうなのですか……」
「すまんな。身重のお前を連れ出したりして……だが、どうしても一緒にカーニバルへ来たかったのだ」
「いいえ、謝らないで下さい。ここへ来れて良かったです。だってこんなに活気のあるカーニバルを見るのは初めてですから」
「そうか。そう言ってもらえて良かった。なら、行こう。お前に会わせたい人物がいるんだ」
「はい、エルウィン様」
2人はしっかり手を握り、歩き始めた。
あの占い師の元へ――
<完>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます