13.神秘へ挑戦

 魔法――――。

 それは、人間が成し得ない神秘。

 それは、奇跡を成し遂げる人間の理想。

 そして、欲望が生み出した空想の塊。


 時は数年前……。


 「剣なんて、剣なぁ゛んてっ!!!」


 聖騎士の父を失い、アシル人生の道に迷っていた。

 大切なものを奪った剣術という道を歩みたくないと思うアシルだが、「強くなれ」という父親の言葉が、ずっと心の中に残り続けていた。

剣に対する恐怖心を打ち消して戻るのか、剣ではないで強くなるのか……。


「剣術を……捨てて……、剣以外で強くなることは……できないのか」


 父を失った悲しみから立ち直ることができたアシルであったが、剣に対する恐怖心は癒えるどころか増していった。

 そんなある日、彼は亡き父親の部屋に足を踏み入れる。


「何故……は剣を握ったのだろう……」


 当時のまま放置され、ホコリ被った机の書類、ボロボロな引き出し、本棚の本を手当たり次第に見ていく。


「なんだ?これ……」


 ふと、一冊の本を見つける。紙は波打つように変形し、表紙もボロボロになった本。

 崩さぬように丁寧に捲ると、見た目とは裏腹に中身は文字が読めるほどに綺麗であった。

 

「日記だ……」


 誰が書いたのかは記されていなかったが、手書きの文字からして、それは父の日記であると彼は思った。

 聖騎士として歩んだ人生、その理由について分からるのではないかとアシルは日記を読み始める。


『今日は実家へ帰った。アシルに久々に会ったが、相変わらず剣術の修業をしていた。腕は流石にまだまだだが、強くあろうとする姿を見れるのは何よりも嬉しい』

『気づけば聖騎士になってから五年。五年前の今日、王国の代表となることに決まり、戸惑うことはあったが、なんとか今までやってこれた。もっと頑張らなければ、愛するすべてを守るために』

『今日は一日書類と格闘。なんでこうも面倒くさいのか。全て剣を振るって解決できたら楽なのにな』


 それは父親が聖騎士になった後の日記であった。

 一日短く書いてあるものもあれば、長々と記録してあった日もあった。

 その一つ一つを見ていくアシルの手が、ピタリと止まったページがあった。


『今日は、王国屈指の学園。ティアハイトに訪問した。皆、剣術を学ぶため日々努力を重ねてる事が伝わってきた。俺にもあんな時代があったと思うも懐かしい。訪問は正直退屈なものだろうと思っていたが、それは見事に裏切られた。剣士の認定試験の見たが驚いた。見惚れてしまったよ』


 アシルの父親が目を奪われたのはある女子学生の認定試験。

 剣術を披露し、それを試験官が評価するものだ。


『まさか、学生であんなに美しい剣術ができるとは。その前も、後も何人か生徒の剣術を見たが圧倒的に違った。オーラがあったように感じた。輝いていたように感じた。いや、あれは間違いなく輝いていた。すごく綺麗だった』


 そして、後にはこう綴られていた……。


『まるで……魔法のような光景だった』


 と………。


「剣が……輝いていた?太陽の光に反射してたんじゃないか?魔法のような………どういうことだ?」


『あの子は絶対に強くなる。並大抵じゃあの輝いた魔法の剣のように見せることはできないだろう。私だってそうだ。きっとそこまで到達していない。いつか、あの子が私に向かってで剣を構えることもあるだろう。楽しみだっ!アシルもいつか、あの魔法のような剣術の使い手になってくれるだろうか』


 それを見て、アシルはそっと日記を閉じる。その後のページを見ることをやめて……。


「なんだよ、魔法魔法って!!どういう光景なんだ……。輝いた剣?あの人は何を見てそんなことを……………」


 彼は、父親が見た光景を見たいと思った。

 しかし、残念ながらこの日記からは何もわからない。想像などできなかった。


「でも、ごめんよ父さん……。俺は剣を……。そんな魔法のような剣士には……………ま……ほう?」


 突然、握られていた日記は床へと落下した。

 そして、アシルは思考を巡らせる。


「魔法……って……よく本とかで見たことあるけど、非現実的なもの……で……いいのか?もし魔法が使えたのならば、剣なんてなくても、強く……なれるんじゃないのか!?」


 剣ではない別の道を探すため、彼は多くの知識を得ようとしてきた。

 父との思い出が蘇ってしまうため、剣術を磨くことや身体を鍛えることを避けて、街の書庫へと行っては、勉強に励んだ。

 二度と同じ悲しみを味わいたくない。守りたいものを守る強さを得たい。恐怖心が拭えない『剣』に頼らない強さを見けるためにありとあらゆる知識を身につけることを決意したアシル。


「架空のものであっても、それに近しいことは必ずできるはず……。偶然が重なってありえないことが起きるから魔法なんて言葉が存在するとすれば……」


 父の日記から得られた魔法というキーワード。

 彼は、魔法という万能な力があれば、剣などなくても救いたいものを救えるだろう。もう何も失うことはないという考えに彼は至った。


「自分の命をも犠牲にして大切なものを守る?そんなことしなくてもすべてを守れる。強くなれる。奇跡を起こせる力」


 非現実のものとわかってはいるが、彼が書庫を巡る中で、それを本気で実現しようと試みた記録は存在しなかった。


「でもどうやって……。火や水を操れたり、物を変化させることができないといけない。たしか何かに書いてあったな、人間が動くのに力が必要なのと同じように、物に変化を与えたり、燃やしたり、発光したりするにもその素が必要。それがエネルギーだと……」


 アシルは勢いよく扉を開けて、家の外へと飛び出す。そして、そのまま街の書庫へと向かった。


「現実にしてみたい!魔法をっ!」


 これが、魔法という神秘への挑戦が始まったきっかけであった。

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