見習い剣士、魔法を纏いて名を上げる

ど~はん

プロローグ ―約束―

 アルレギオン王国、最大都市シストレアの郊外にて―――。


「は………、はぁぁっ!」


 青天の中、力を込めた声とともに剣を振るう少年がひとり……。

 額から溢れた努力の結晶が眩しい太陽によって輝いている。

 身長は120cmくらいだろう。胸元にワンポイントのデザインの入った白色の半袖に青色の半ズボン。手に握るつるぎは大人が振るうには短く、短剣と言っても良い長さの鉄の剣。

 つるぎとは言っても練習用の軽量剣である。触れても斬れることはないが、剣先は鋭く尖っている。

 突きでもしようものなら簡単に刺さるだろう。


「はぁぁぁぁっ!!」


 大きく振りかぶった剣が振り下ろされる。少年の頭上から加速した剣先は少年の顔と同じ高さでピタリと静止する。

 踏み込まれた一歩、突き出された両手、その剣の先には少年の何倍にも成長した立派な大木が立っていた。

 少年の剣は大木を目掛けて振り下ろされたが、剣先は大木にぶつかる寸前で止まっている。

 その大木には幾度となく剣先を振り下ろし、傷をつけたであろう痕跡が無数に刻まれていた。


「おぉ、上手くなってきたじゃないか!」


 それを少年の背後から見ていたのは父親だ。

 父は聖騎士せいきしと呼ばれる人物であり、剣の腕は王国でトップクラスである。

 服の上からでもわかる鍛え抜かれた身体、太い腕、ただし目付きや表情は優しさに溢れている。

 力はもちろんのこと、加えて大きな身体から想像し得ない素早さ、全く無駄のない剣術。その素早さと力強さ故に相手の剣を折ってしまうほどだ。自身の剣も今までで何本折ってしまったかわからないほどと本人は言っていた。


「ほんと!?」


 少年は振り向いて父に輝かしい眼差しを向けた。

 父は忙しく、あまり家には帰ってこないが、帰ってきたときは必ず少年の剣術向上に励む姿を見るのだ。


「おう、その調子だ。頑張れよ!」


 父親は褒められて喜ぶ少年に歩み寄り、その頭に手を添えて優しく撫でた。すると、喜びのあまり少年は笑ったのだ。

 少年は思う。父のように強くなりたいと。そしていつかは……。


「お前は強くなれ。そして挑んでみせろ!俺を倒せば剣聖になれる」


 王国トップクラスの剣術の使い手にして、国防騎士軍元帥に与えられる称号、聖騎士。

 その聖騎士を決闘で倒したものに与えられる最強の称号――。

煌導こうどう十二剣聖じゅうにけんせい


「うん!絶対になってみせる!」


 右手に持った剣を大空に向けて高々と掲げながら少年は誓った。


「約束だぞ」


 剣を軽々と振るう大きい手と、剣術の稽古に励むまだ幼い小さな手、その小指同士が触れ合い、ここに父親との最初で最後の約束が結ばれたのだった。

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