3.誕生、異世界人魔法使い

 同時刻、莉葉とルナは爆発音がした方向へ向かって走っていた。しかし、走るのが苦手な莉葉はルナよりちょっとだけ、遅れを取っていた。


「大丈夫、莉葉!」と少し離れた所から、心配そうな顔でルナは声を上げて、平気そうな顔をしながら、莉葉はそう返した。


「うん、大丈夫よ。ルナ」

 走ってから、数分後、目的地に辿り着いた。しかし、彼女達が目に入った光景はとても酷い物であり、周りの木が倒れていて、大きなが穴が空いていたのだった。


「何これ?」とルナは目を見開き、言葉にならない衝撃を受けた顔をし、彼女の後に莉葉、あまりの酷さに怯えた表情を両手で口を隠しながらつぶやいた。


「酷い……」


「あっ、シルフィーナ」とルナは穴の近くで倒れているボロボロのシルフィーナを見つけ、悲しい顔をしながら、彼女に駆け寄った。莉葉もそれに続いて駆け寄ろうとした。


 すると、ドシンドシンという地響きが轟き渡り、二人の体を揺さぶった。


「何だ、この音は……?」


「えっ!」


 突如として鳴り響く地響きに、二人は驚愕の表情を浮かべた。その音は次第に大きくなり、こちらへ向かって迫ってくるような感覚が広がる。そして、近くの茂みから何かが飛び出してきた。


「うっ、嘘でしょ」と飛び出して来た者を見て、言葉を失う程の衝撃を受け、莉葉も目の前の者を見て恐怖を覚えた。


 そこには赤くてふさふさな4本足で歩く頭が三つあるケルベロスの様な化け物が姿を現した。


「こんな所にレッドケルベロスがいるなんて、でも、怖気付いていかない。私だって魔法使いなんだから……」


 と少し恐怖を感じながらも、強い姿勢を見せるルナは持っていた杖を構えて、攻撃をする体制を取り、莉葉に向かってこう叫んだ。


「莉葉!ここは任せて、私の後ろに隠れて……」


「うん、分かったわ」と魔法の力なんてない私では、到底、あの化け物に叶うわけないと思い、莉葉は目の前の脅威をルナに任せて、彼女の後ろに身を潜めた。


『ガォォォン』


 そして、ルナの声に反応したレッドケルベロスの三つの頭を上へ向けて、一斉に吠え、その凄まじい轟音は、周囲の鳥たちを驚かせた。


「くっ、行くよ。炎球ファイアボール


 獣の咆哮に恐怖を感じつつもルナは杖を掲げ、魔法を唱えた。すると、彼女の杖の先から燃え盛る炎の塊が生まれた。


 そして、一筋の炎は一直線に向かって行き、レッドケルベロスの身体に当たり包み込もうと思われたが……


『ガォォ、ガォォ』


 と強烈な咆哮を上げたレッドケルベロスは身体を回転させて、包み込んだ炎を消し飛ばした。


「やっぱり、一筋縄では行かないよね。でも、負けない。凄い魔法使いになる為にも……。炎球ファイアボール連続打ち」


 そう意気込みながら、ルナは何度も炎の魔法を放ち続ける。しかし、レッドケルベロスは三つの顔を上げ口を大きくあけて、火の玉を吐いた。それによって、ルナの火の魔法は全て相殺された。


「強い、強すぎるわ。やっぱり、私じゃあ勝てないというの?」


 そう呟き、絶望な表情を浮かべながら、ルナは全ての攻撃が全く通用しない現実を知り、落胆してしまった。すると、彼女が油断した隙を狙おうとレッドケルベロスは突進してきた。



「あっ、危ないわ! ルナ!」


 莉葉はルナの所へ駆け寄り、必死で左腕を引っ張り、レッドケルベロスの突進をかろうじて回避した。


 そして、突進したレッドケルベロスはそのまま、大きな木にぶつかり、縦倒しに倒れた。


「ねぇ、大丈夫。ルナ」


「……」


 心配そうな顔で莉葉はルナに声をかけるが、絶望的な表現を浮かべている彼女には全く声が届いてなかった。


 一方、突進してきたレッドケルベロスは莉葉達を睨みつけて、また突進しようとしていた。


(とてもまずい状況になってしまったわ。どうする。ルナは落ち込んでいるし、そうだ、ここは私がやるしかない。彼女の杖を持ってば、私だって、魔法を使える筈……)と莉葉はそう考え、ルナが持っていた杖を取り上げた。


「えっ、何をするつもり? 莉葉」


 ルナは杖を戸惑いながら、問いかけるが、莉葉は少し恐怖を感じつつも優しい笑みを浮かべて、彼女に向かって、こう口にした。


「わっ、私が魔法を使って、あの化け物をやるわ」


「むっ、無理よ。異世界人の莉葉には……」


 莉葉のありえない発言にルナは唖然とし、心配な顔浮かべながら、無理よと伝えるが、それでも彼女は諦めない顔を見せ、ルナに向かってこう返した。


「無理でもやるしかない。行くよ。」


(でも、やれるのかしら、こんな頭の三つある化け物に……。けど、ルナを助ける為にやるしかない。お願い彼女の為に力をかして)


 莉葉はそう願いながら、莉葉は杖を構えて、呪文を唱え、それと同時にルナが彼女の名前を叫んだ。



炎球ファイアボール


「莉葉!」


 莉葉がそう唱えると杖の先から、ルナより大きく火力の強そうな炎の塊が現れ、その光景に驚きを隠せないの程の衝撃を受けたような顔をして、思わず口にした。


「凄い! 異世界人の莉葉が魔法使い」


「これが私の魔法……」


 魔法なんて使えないと思っていた莉葉は目の前の光景に驚きつつも、嬉しい顔をし、彼女はレッドケルベロスに向け、杖をふって炎の塊を飛ばした。


「行けぇぇぇぇ」


 レッドケルベロスは莉葉の魔法に驚きつつも、強気な姿勢を三つの頭を向けて、炎を吐いた。だが、三つの炎は莉葉が飛ばした炎の塊は相殺せず、飲み込み形で受け止められ、そのままレッドケルベロスの身体にあたり、炎の塊が彼を包み込み、じたばたしながら悲鳴を上げた。


「ガォォォン、ガォォォン」


 レッドケルベロスは悲鳴を上げつつも燃え盛る炎の中から逃れようとジャンプした。


 しかし、莉葉は彼を逃がすつもりはない。彼女は再び杖を構えて、魔法を唱えた。


「逃がさないわ。もう一回、炎球ファイアボール


 ジャンプして出てきた所を狙われ、レッドケルベロスは再び、炎の塊に命中し、自身の体が燃え上がりながら、彼は地面に倒れ込み、苦しい表情を浮かべて絶叫を上げた。


「ガォォガォォガォォ!」


「ガォォガォォ……」


 レッドケルベロスの絶叫は次第に小さくなり、彼の動きも鈍くなっていった。最終的に彼は地面に倒れ込み、声を上げることもなく息を引き取った。


「ガォォ……」


 周囲の炎も次第に消えていき、静寂が戻った。レッドケルベロスとの激しい戦いは終わりと共に、莉葉はひとまず安堵の表情を浮かべた。


「ふぅ、なんとか倒せた」


「……莉葉、大丈夫?」


 心配そうな顔をしながら、ルナは莉葉に声を平気そうな顔をして、「大丈夫よ。少し疲れたけど……」と返して、彼女はほっと胸を撫で下ろしながら呟いた。


「よかった」


 しかし、莉葉達の脅威はまだ終わっていなかった。実はレッドケルベロスはもう一体のだった。そうとも知らないで喜び合う二人の前にレッドケルベロスはジャンプしながら襲い掛かろうとした。


「しっ、しまった。もう一体いたの?」


「莉葉!」


 次の敵が現れるなんて思っても見なかった彼女達は完全に油断し、魔法を唱える暇もなく、ジャンプしてきたレッドケルベロスに押し潰されそうになった。


「水の斬撃、アクア!」


 その時、大きな声で呪文を唱える声が聞こえ、切れ味のある水の斬撃がジャンプしてきたケルベロスに飛んできて、身体にあたり真っ二つに割った。


「今の魔法は……」


 莉葉達は水の斬撃が飛んできた方向を見ると、白いハットを被った黒髪の女性が立っていた。彼女は青い制服と青いローブを身にまとっており、杖を構えていた。背後にはシルフィーナの取り巻きであるアイナとレイルを含む数名の男女が立っていた。


「アクナ先生!」


 ルナが驚きと喜びを込めて叫ぶと、アクナ先生は微笑みながら頷いた。


「ルナさん、どうやら無事なのようですね」


「はい、無事です。」


 ルナは安堵の表情を浮かべながら応えた。彼女を見て安心したアクナ先生は、後ろにいる者達と共にシルフィーナの所へ向かった。


 そして、アクナ先生はシルフィーナの所へ駆け寄り、仰向けにさせて、しゃがみ込みながら、彼女の心臓の鼓動を聞いて確かめ、それを見ているアイナやレイル達は大丈夫かな心配そうな表情を浮かべながら、見守った。


「……どうやら、彼女も無事なようですね。」


「よかった。お姉様」


 爆発に巻き込まれたにも関わらず彼女の心臓は動いていて、これにはアクナ先生に驚きつつも安堵し、後ろにいたシルフィーナの取り巻きのアイナが安心した表情を浮かべながら、そっと胸を撫で下ろした。


「しかし、彼女が傷だらけなのは変わりない。アイナとレイル、そして、ビショップクラスの生徒の皆さん、彼女を学園の北校舎にある医務室まで連れて行ってあげなさい」


「「はい、先生」」


 そう指示されたアイナとレイルはシルフィーナの左肩と右肩を持って、真っ直ぐ学園にある医務室へ向かい、ビショップクラスもそれに続いた。


 そして、彼らが去っていた後、ルナ、莉葉、アクナ先生の三人になり、アクナ先生は莉葉を見て怪しむ様な表情を浮かべながら、顔を近づけ、話しかけてきた。


「あなた、何者ですか? それに今の規格外な魔法は……」


 どうやら、彼女は莉葉が魔法を使う所を見ていたらしく、一般魔法とは違う強さを持つ莉葉は怪しみを浮かべていたのだった。


「えぇっと」


 何者かと問われた困った顔をしながら、莉葉は考え込んだ。


(どうしようかしら、異世界人と答える。いやいや、言っても信じないだろう。それに私が規格外な魔法だって、初めて使ったなのにそんな事を言われるなんて、思って見なかった。けど、どうしよう)


 頭を横に振り、考えても答えは見つからず、困り果てた莉葉の前にルナが立ってアクナ先生にこう言った。


「アクナ先生、彼女は私の友達です。どうして、あんな力が出せたのか私にも分かりません。」と真面目な顔をしながら、ハクア先生に説明した。


「なるほど、ルナさんの友達ですか? しかし、こんな魔獣がいる森に一人、女の子がいるのは怪しいですね」


 ルナの説明にアクナ先生は納得を示さない様子で疑念を抱きながら、こう返した。


「それには理由があります。」


「へぇ、それは……」


 ルナは仕方ない顔で理事長に異世界召喚させてしまった莉葉の事を話す前に、彼女を疑っているアクナ先生に話すのであった。

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