一番活躍した選手
カウントは1ストライク2ボール。
オレはキャッチャーのリードを見て第4球を投げた。ストレートが、やや真ん中に入る。
―――キィン!!
打者がバットを振り、ファウルボール。
少しヒヤッとしたが、なんとか平常心を保つ。これで2ストライク2ボール。
キャッチャーが低めのフォークボールを要求する。オレは頷く。
第5球を投げる。低めにフォークがいく。
打者はかろうじてバットに当て、またファウル。
さすが強豪、粘り強いな。並のチームなら空振り取れたのに。
オレは考える。どのボールを投げれば、打ち取れるのか。
第6球、第7球と、強気に直球勝負で挑んだが、いずれもファウルされた。
ラストバッターなのに、なんてすごい打者なんだ……!
相手に感服した。しかし、勝つのはオレだ。美希のご褒美がかかっているんだ! 打たれてたまるか!!
第8球。オレの伝家の宝刀フォーク。内角低めに投げた。
打者は打った。サード正面の内野ゴロ。
大事に一塁に送球し、アウト。
3アウトチェンジ。
―――やった!抑えた!!
三塁手の
ベンチに戻ると、オレの投球を見ていてくれたマネージャーの美希がこちらへ歩み寄ってきた。
「ナイスピッチングです、竜先輩っ!」
「……!あ、ありがとう、桐生!」
オレは美希にほめられて、不覚にもニヤけてしまった。
オレは続投という形になり、試合が進んでいく。
5回ウラ、6回ウラもオレが投げ、ピンチを背負いながらなんとか無失点で切り抜けた。
7回表、青葉高校の攻撃。 6番打者の山瀬がタイムリーを放ち、2-3と一点差に迫った。
なおも1アウト一塁三塁として同点のチャンス。バッターは、オレ。
代打を送られるかと思ったが、監督はまだオレを投げさせてくれるらしい。
投げるだけじゃなく打つ方でも活躍してやる。まずは同点にする!
オレはバッターボックスに入り、深呼吸する。監督からのサインを確認する。
相手のピッチャーが投球モーションに入る。
その瞬間三塁ランナーがスタートを切る。
すかさずオレがバントの構えを取り、ボールをバットに当て、三塁方向にコロコロと転がす。
三塁ランナーがホームイン。
3-3の同点に追いついた。オレは一塁でアウトになったが、スクイズ大成功。
良かった、スクイズ決めることができた……オレはホッとした。ボールを当てる直前まで、めちゃくちゃ緊張した。
まだ同点!次の回も絶対抑えてやる!! オレは気を引き締めた。
―――
その後は、両チーム共に点を取ることはなく、試合は3-3の引き分けということでゲームセットとなった。
オレは8回ウラまで投げ、無失点で抑えることができた。
強豪相手にこの好成績。日々の努力がやっと実り、自信がついた。
ちなみに9回ウラはルーキーの姫路が投げた。
―――
試合後、チーム全体でミーティングを行う。
今日の練習試合を通して、良かった所、悪かった所をみんなで話し合う。
良かった所は大会本番でもできるようにし、悪かった所は反省して本番でしないように心がける。
……で、美希からご褒美がもらえるのは一体誰なんだ?
オレは無失点に抑え、スクイズも決めたんだからオレが選ばれてもおかしくない。でも打撃で活躍した中里や山瀬もいるし、確実にMVPとは言えない。でもレギュラーが相手でもやっぱり負けたくない、選ばれたい。
頼む、神様。監督。美希。オレを選んでください。
20分くらい話し合い、ミーティングが終了した。監督が口を開く。
「よし、これにてミーティングを終わる。……ああ、そういえば試合で一番活躍した奴は桐生からご褒美が貰えるんだったか?
桐生、今日の試合で一番活躍したのは誰だと思う?お前が決めてくれ」
「はい、監督。私から見て一番活躍した選手は―――」
―――ドクン、ドクン
部員全員に重い緊張感が走る。
オレも心臓が口から出そうなくらい緊張していた。
「―――4回と3分の1を無失点に抑え、同点スクイズを決めて1打点をあげた滝川竜先輩です!」
…………
幻聴……じゃない、よな? 周りのチームメイトみんなオレを見ている。勘違いじゃないよな?オレだよな!?
―――よっしゃああああああ!!!!!!
オレだ!オレだぞ!! 美希のご褒美をゲットしたのはこのオレだああああああっ!!!!!!
やべー、どうしよう、死ぬほど嬉しい。
これまで18年間生きてきたが、これほどまでにテンションが上がったのは生まれて初めてだ。これ以上嬉しいことがこれからの人生であるだろうか。ないと思う。おそらく人生のピーク。生きててよかった。青葉高校に来てよかった。美希と出会えてよかった。
ゆっくりと美希が歩み寄ってくる。
心臓を鷲掴みにされ跳ね上がってしまう。
「今日の試合ナイスファイトです、竜先輩っ!
では、約束通りご褒美をプレゼントしますので、私と一緒に来てください」
ギュッ
「!!!!!!」
そう言うと、美希はオレの手を握って、歩き始めた。
手を繋いでる……! オレ、今、大好きな美希と手を繋いでる……!!!!!!
なんて柔らかい手だ。可愛い女の子は指先まで洗練されて輝いている。オレの手がマメだらけでゴツゴツしてるから余計差が際立つ。
幸せすぎる。鼻血出そう。
「いいなあ~滝川。美希ちゃんのご褒美がもらえるなんて」
「めっちゃうらやましいっスよ、滝川先輩」
チームメイトから嫉妬の声が飛んできて、優越感に浸る。
―――
美希に案内され、やって来た場所は、更衣室。しかも、女子更衣室。
更衣室は、文字通り着替える部屋。
まさか、ご褒美って……美希の生着替えが観賞できる、とかか!? こっそり覗くとかじゃなくて堂々と見れるのか!?
美希とオレは更衣室に入り、美希は中から鍵をかける。
これでオレと美希は更衣室で2人っきり。誰も入れない。誰も邪魔できない。
2人っきり2人っきり2人っきり2人っきり2人っきり2人っきり……!!
ドキドキドキドキドキドキ……
緊張と興奮が一気に高まってくる。
美希は顔を少し赤くして、上目遣いでオレの顔を見る。
美希の上目遣いは破壊力抜群で、オレは完全にメロメロにされてしまった。
ここまで来たんだからエロい展開を期待してしまう。心臓が張り裂けそう……
美希は、上半身がTシャツで、下半身がミニスカートという格好。
少し汗をかいていて、ブラジャーが透けて見える。美希の今日のブラジャーの色は水色。
すごくいい。ヒラヒラしたレースも見えるほど透けててものすごくそそる。
まさかこの格好で帰るということはないだろう。絶対に着替えるはず。
今のオレ、すごくいやらしい顔してるだろうな。
美希が口を開く。
「では、ご褒美の時間を始めましょう」
「……あ、ああ……!!」
ついに来た。オレはワクワクドキドキが止まらない。
しかし、美希の口から驚愕の言葉が出てきた。
「竜先輩、まずは脱いでください」
…………
……は?
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