第8話『一緒に水着を買いましょう-前編-』
6月23日、金曜日。
今週最後の学校生活は時間の進みがかなり早く、あっという間に放課後になった気がする。放課後に優奈と井上さんと一緒に水着を買いに行ったり、明日は優奈とプールデートに行ったりするという楽しみな予定があるからだろうか。
優奈と井上さんと一緒に下校し、火曜日に優奈の下着を買いに行ったときと同じく、高野カクイに向かい始める。
「いやぁ、下着を買った同じ週に優奈の水着を買うのに付き合えるとはね。誘ってくれてありがとう、優奈」
井上さんはご機嫌な様子でそう言った。優奈の水着を買うことに付き合えるのもあってか、今日の井上さんは朝からずっと上機嫌だったな。
「いえいえ。萌音ちゃんは高校生になってから毎年一緒に買いに行ってますからね」
「ふふっ。水着姿の優奈を見られるのが楽しみだわ。あと、長瀬君の水着選びに付き合うのは新鮮だわ。男性の水着選びに付き合ったのは、小さいときにお父さんの水着を選んだことくらいで、同級生男子のは一度もないから」
「そっか。井上さんも優奈と同じか」
「ええ。……ちなみに、長瀬君は女子の水着選びに付き合ったことはあるの?」
「そういえば、和真君の経験有無を聞いていませんでしたね。気になります」
井上さんと優奈は俺のことをじっと見つめてくる。傘の柄を持っている俺の手を握る力が強くなって。
「真央姉さんと母さんくらいだな。俺が幼稚園とか小学校1、2年くらいのときは、家族みんなで水着を買いに行って、それぞれの水着をみんなで選んでた。それ以降は俺が小学校を卒業するまでくらいは、姉さんと2人で買いに行ってたな。で、姉さんは何着か試着して、俺がいいって言ったものを買ってた」
「ふふっ、真央さんらしいです」
「そうね、優奈。まあ、下着の話を聞いていたし予想はできていたけどね」
「姉さんのことをよく分かってらっしゃる」
俺がそう言うと、優奈と井上さんは声に出して楽しそうに笑った。
「話を戻すけど、2人と同じで異性の水着を選んだのは家族だけだよ。姉さん以外の同年代の女性では優奈が初めてだ。あと、姉さんと母親以外の女性に水着を選んでもらうのは優奈と井上さんが初めてだよ」
「そうだったんですね。嬉しいです」
「良かったわね、優奈」
「はいっ」
優奈はニコッと笑った。
それから程なくして、俺達は高野カクイに到着した。
入口近くのエスカレーターを使って、衣類を取り扱っている2階へ行く。また、その間に優奈の水着を先に買うことに決まった。
2階に到着し、俺達は女性向けの水着売り場へと向かう。
小さい頃から高野カクイにはたくさん来ているけど、1週間のうちに女性向けの衣服を取り扱うエリアに2回行くのはこれが初めてかもしれない。
「ここですね」
優奈がそう言い、俺達の歩みが止まる。
目の前には、ビキニやワンピース型水着などといった、レジャー用の女性向けの水着が陳列されているのが見える。パッと見た感じ、結構広い。
火曜日に行った下着売り場のように、水着売り場の中にいるお客さんの大半は女性。ただ、下着売り場とは違って、夫なのか恋人なのか男性と一緒にいる人も。
「和真君。私に買ってほしい水着の希望はありますか? もしあれば、その水着が多く陳列されている場所に行きますが」
「ビキニだな。昨日、参考に見せてもらった写真を見て、ビキニがいいなって思ってさ。去年着ていた三角ビキニが特に」
「去年の優奈の水着……ああ、白い三角ビキニだったわね。あれはとても良かったわ」
「お二人がそう言ってくれて嬉しいです。では、三角ビキニが陳列されているところに行ってみましょう」
優奈と井上さんと一緒に女性向けの水着売り場の中に入る。
水着は海やプールで見るものだし、火曜日に下着売り場に行ったのもあり、あのときに比べたらあまり緊張していない。
三角ビキニが多く陳列されているところを探しながら、売り場の中を歩く。
こうして見てみると、女性向けの水着って種類や色がいっぱいあるな。下着売り場と同様にカラフルな空間だ。
「ありました」
俺達は三角ビキニが陳列されているエリアに辿り着いた。
目の前には三角ビキニがハンガーラックにたくさん掛けられている。たくさんの色があって。また、無地だけでなく、ドット柄や花柄といった柄物もある。
「いっぱいあるなぁ」
「そうですね」
「優奈は可愛いしスタイルがいいから、どれも似合いそうな感じがするわ」
「そうだな、井上さん。ただ、見せてもらった写真の優奈は無地の水着を着ていたしそれが良かったから、無地の水着がいいな」
「無地ですね。分かりました。ちなみに、私も無地が好きで、無地の水着を結構買います」
「そうなんだ」
俺の好みを聞いて水着を買ってくれることになっているけど、それが優奈の好みに合っていると分かると嬉しいな。
「無地はシンプルでいいわよね」
「そうですね。……無地のビキニはたくさんの色がありますが、どの色がいいですか? 下着のときみたいに、試着しますからいくつか候補を言ってもらってかまいませんよ」
「優奈の言う通りねっ!」
井上さんはとても力強く言った。水着を試着した優奈をたくさん見られるのが楽しみなのだろう。すぐにそう予想がつき、思わず「ははっ」と笑い声が漏れる。優奈も俺と同じなのか、クスッと笑った。
「じゃあ、いくつか候補を出すか」
ハンガーラックには様々な色の無地のビキニが掛けられている。優奈はどの色も似合いそうだ。ただ、その中でも、
「ピンクと白が候補だな。参考に見せてもらった写真の優奈はどっちも似合っていたし」
「ピンクと白ですね。他にはありますか?」
「あとは……水着と下着を一緒にしちゃいけないのかもしれないけど、水色と黒も。火曜日に買った下着……ピンクはもちろん、水色と黒もよく似合っていたからさ」
「長瀬君がそう言うの分かるわ。優奈が買った下着、似合っていたものね」
井上さんは朗らかな笑顔でそう言う。下着を理由に言ったけど、同意してくれるのは嬉しい。
「下着が似合っているからという理由はとても嬉しいですよ。では、水色と黒も試着しましょう。他にありますか?」
「今のところは……ないな」
「では、ピンク、白、水色、黒の4色の試着をしましょう。……下着のときのように、和真君は外で待っていて、スマホに写真を送りますか? それとも、試着室の前にいますか? 水着ですので、和真君が試着室の前にいても大丈夫だろうと思いまして」
「下着とは違って、水着は海やプールで見せるものね。長瀬君は優奈の夫だし、私も一緒だから大丈夫そうだと思う」
優奈と井上さんは優しい笑顔でそう言ってくれる。
まあ、井上さんの言うように、水着は海やプールで見せるものだ。それに、井上さんも一緒だから、男の俺が試着室の前にいても大丈夫そうかな。
「俺も試着室の前にいるよ。優奈の試着した姿を直接見たいし」
「分かりました!」
優奈はニコッとした可愛い笑顔でそう言った。試着した姿を直接見たいと言われたのが嬉しかったのかも。
優奈と井上さんがハンガーラックから候補に挙げたピンク、白、水色、黒の三角ビキニを手に取る。幸いにも、4色とも優奈の体に合いそうなサイズのものがあった。
ビキニが置いてあるエリアから一番近い試着室に行く。
3つ連続して並んでおり、どれも空いている。優奈は向かって一番右側の試着室を利用することに。
「では、試着しますね」
「ああ、分かった。着終わったら言ってくれ」
「分かりました」
「楽しみしているよ」
「私も」
俺と井上さんがそう言うと、優奈は右側の試着室に入っていった。
4つある候補のうち、優奈はどの色の水着を着るんだろうな。楽しみだ。
「どの色の水着を着るか楽しみね」
「そうだな。あと、一緒に外で待っていてくれてありがとう。店内は女性ばかりだから、井上さんのおかげであまり緊張せずにいられてる」
「いえいえ」
井上さんは微笑みながらそう言った。
試着室の側にいるのもあり、中からは衣擦れの音が聞こえてきて。好き合う夫婦になってからは、入浴の前後で優奈は俺の前で脱ぎ着しているけど……こういう音が聞こえるとドキドキさせられる。
井上さんから、一昨年や去年にスイムブルー八神や海で、優奈や佐伯さんや陽葵ちゃん達と一緒に遊んだ話を聞きながら待つ。
昨日、優奈が話していたように、みんなとプールで遊んだり、ウォータースライダーを何度も一緒に滑ったりして結構楽しかったそうだ。いいなぁ、井上さん達。俺も明日のプールデートではプールやウォータースライダーで優奈と一緒に楽しい時間を過ごしたい。
「着終わりました」
井上さんの話が楽しくて、優奈にそう言われるまであっという間だった。
「分かった。開けていいぞ」
「はーい」
そう返事すると、優奈は試着室の扉を開ける。
すると、中からはピンクの三角ビキニを着た優奈の姿が。俺に水着姿を直接見られるのが初めてだからか、優奈ははにかんでいて。
ピンクでも色合いは淡いので、可愛らしさがありつつも落ち着いた雰囲気もある。トップスにしっかりと収まっているけど、Gカップの胸の存在感が凄い。谷間もしっかりとできていて。ボトムスもスカートではなく普通のパンツなので、一昨年のピンクのビキニよりもセクシーさが感じられる。本当によく似合っているし、ドキドキする。いい匂いがほのかに香ってくるし。
『おおっ……』
と、声が漏れた。井上さんも同じタイミングで声を漏らしていた。井上さんは優奈のことをじっと見ている。目線が顔じゃなくて胸に向けられているけど。
「まずはピンクを着ました。ピンクは最初に候補に挙げていましたし、下着を買うときも最初にピンクを試着しましたから」
「なるほどな。本当によく似合っているよ、優奈。ピンクだから可愛らしい雰囲気で。色合いも淡いから落ち着いた雰囲気もあっていいな」
「そうね! 可愛くてよく似合っているわ! あと、トップスに包まれた大きな胸もいいわぁ。下着を試着したときにも思ったけど、いい形をしていて、胸の谷間も凄いわぁ……」
うっとりとした様子でそう言う井上さん。途中から胸の感想になってるな。そこが井上さんらしくていいけど。
「ふふっ、ありがとうございます。私も可愛いなと思いました。淡い色合いも好きです」
優奈はニッコリとした笑顔でそう言う。それもあって、ビキニ姿がより似合った印象に。
「写真で見た一昨年の水着とは違って、下がスカートじゃないから、セクシーな雰囲気もあるな。それもいい。あと、水着姿を生で見るのが初めてだからドキドキする」
「ふふっ、そうですか。和真君にそう言ってもらえて嬉しいです」
「あと、サイズは大丈夫か?」
「はい。トップスもボトムスも問題なく着られました。ちょうどいいです」
「良かった」
「じゃあ、後で見比べるためにも写真撮っておくわ。長瀬君に送るから」
「お願いしますっ」
「ありがとう」
井上さんはスマホでピンクのビキニ姿の優奈の写真を撮った。その際、優奈は笑顔でピースサインして。男子の俺も一緒にいるけど、写真を撮っているのは女子の井上さんだから不審者扱いされることはないだろう。たぶん。
井上さんが写真はさっそくLIMEで送ってもらった。
「では、次の色のビキニを試着しますね」
「ああ」
優奈は試着室の扉を閉めた。
次はどんな色のビキニを試着するだろう。楽しみだな。
「水着を試着した姿を実際に見るのもいいな」
「そうね」
「あと、実際に見たら、プールデートがますます楽しみになった」
「ふふっ。優奈とプールで遊ぶのって楽しいわよ」
これまでに遊んだときのことを思い出しているのか、井上さんは楽しげな笑顔でそう言ってくる。一昨年と去年に優奈と一緒にプールで遊んだことのある井上さんが羨ましいよ。
その後も雑談しながら、優奈が2着目のビキニを試着するのを待つ。
「2着目、着終わりました」
「分かった」
さあ、次はどの色のビキニを試着したのか。
中から優奈が試着室の扉を開けると、そこには白い三角ビキニを試着した優奈が立っていた。
白い三角ビキニは去年の優奈が購入した水着だ。写真を見たときにも思ったけど、白いから落ち着いた雰囲気や爽やかさが感じられて。よく似合っている。
「白も最初に候補に挙げてもらったので、次は白にしました」
「そっか。白もよく似合ってるなぁ。落ち着いた雰囲気と爽やかさがあって」
「そうね。よく似合ってる」
「似合っていると言ってもらえて嬉しいです」
「去年の水着とほとんど一緒だから、去年の夏に優奈達と遊んだことを思い出すわ。懐かしい」
「私も懐かしさを感じますね」
「あと、去年よりも胸が成長したのが分かるわ」
「ふふっ、そうですか」
「まあ、最近Gカップになったしな」
胸の大きさ込みで優奈の水着姿を覚えているところが井上さんらしい。さすがです。
さっきと同じように、井上さんが水着姿の写真を撮り、俺のスマホに送ってくれた。
その後も、水色、黒の順番で優奈はビキニを試着していった。水色は爽やかさと可愛さが感じられ、黒は4色の中で最も大人っぽく、肌の白さが映えて艶っぽい印象を抱かさせる。
「どれもいい感じね」
「そうだな。さすがは優奈って感じだ」
最後に黒いビキニを試着した優奈の姿を見て、井上さんと俺はそんな言葉を言った。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
「そうね。いいものを見させてもらったわ。4着見られて満足」
「そりゃ良かった」
「写真で見ると、どれもいい感じだって改めて思う」
「そうね」
「4色ともいいから、この中から選ぶよ」
「分かりました。では、制服に着替えますね」
そう言って、優奈は試着室の扉を示した。
「あぁ、満足だわぁ」
井上さんは言葉通りの満足そうな笑顔でそう言う。試着したビキニの露出度もそこそこあり、ビキニのトップスに包まれた優奈の豊満なGカップの胸が見られたからかな。
「良かったな、井上さん」
「うんっ!」
井上さんはとっても可愛い笑顔で返事をした。
井上さんが撮影し、俺のスマホに送ってくれた優奈のビキニ姿の写真を見比べて、どの色のビキニが一番いいかを考えていく。
どの色のビキニもとても似合っているけど……この色が一番いいな。
「着替え終わりました」
何がいいのか考えていたから、気付けば制服に着替え終わった優奈が試着室から姿を現していた。
「長瀬君、試着した4色の中から選ぶって」
「聞こえていました。……和真君、決まりましたか?」
「ああ、決まったよ」
長めの呼吸を一度してから、俺は優奈のことを見つめる。
「ピンクがいいな。三角ビキニだからどの色もセクシーで。ただ、ピンクは可愛いし、淡い色合いだから落ち着いて柔らかい雰囲気もあるから一番いいなって思ったんだ」
と、俺の決断したビキニの色とその理由を言った。優奈はどう思うだろうか。
「分かりました! どれも良かったですが、ピンクは可愛い雰囲気が素敵でいいなって思います。では、これを買って、明日のプールデートで着ますね!」
優奈は可愛い笑顔でそう言ってくれた。そのことに嬉しい気持ちになり、頬が自然と緩んでいくのが分かった。
「ああ。明日のプールデートがもっと楽しみになったよ」
「私もですっ」
「長瀬君にいい水着を選んでもらえて良かったわね、優奈」
「はいっ!」
優奈は井上さんに向かって元気良く返事をする。2人のやり取りを見ていると、嬉しい気持ちが膨らんでいく。
白、水色、黒のビキニを陳列されていた場所に戻して、優奈はピンクのビキニを購入した。バイトなのか、真央姉さんと同じ年齢くらいの若い女性の店員さんがレジ対応してくれた。俺達の一部始終を見ていたのか、店員さんは優奈だけでなく井上さんと俺に笑いかけることもあった。
「和真君、選んでくれてありがとうございます!」
優奈はとっても嬉しそうな笑顔でお礼を言ってくれる。優奈の水着を選んで本当に良かった。
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