第4話『どの下着がいいですか?』

 6月20日、火曜日。

 今日も優奈の隣の席で学校生活を過ごしていく。

 中間試験が明けた頃に行なった席替えで優奈と隣同士の席になってから、それまで以上に学校生活が楽しくて時間の進みが早い。

 ただ、今日は放課後に優奈と井上さんと一緒に、優奈の下着を買いに行く予定があるから、いつも以上に時間の進みが早く感じられた。火曜日は体育の授業があるから、それがいい気分転換にもなったし。

 あと、


「優奈、放課後が楽しみね!」


 井上さんは朝から上機嫌で。もちろん、いつも通り優奈の胸を堪能していて。そのときは、


「これがGカップになった優奈の胸なのねぇ」


 と、優奈のGカップの胸にご満悦の様子だった。そのことに優奈も嬉しそうで。優奈は俺とのスキンシップや肌を重ねたことが胸が大きくなった理由だと言ってくれたけど、平日中心に井上さんにたくさん胸を堪能されているのも理由の一つかもしれない。




 放課後。

 今週は俺も優奈も井上さんも掃除当番ではないため、放課後になるとすぐに教室を後にする。この後、部活がある西山と佐伯さんも当番ではないので、2人とも一緒に。今日の学校のことで雑談しながら、昇降口のある1階まで階段で降りていった。


「みんな、また明日ね。優奈、いいものを買えるといいね」

「はいっ。和真君と萌音ちゃんに選んでもらいます。千尋ちゃんも西山君も部活を頑張ってください」

「ありがとう、優奈!」

「ありがとう、有栖川。3人ともまた明日な」

「西山も佐伯さんも部活頑張って。また明日」

「千尋、西山君、また明日ね」


 西山と佐伯さんと別れて、俺は優奈と井上さんと一緒に昇降口に向かう。終礼が終わってすぐの時間帯なので、昇降口にはそれなりの数の生徒がいる。

 昇降口で上履きからローファーに履き替え、外に出ると……シトシトと雨が降っており蒸し暑い。今日は朝からこんな感じの天気が続いている。梅雨のこの時期らしい天気だなと思う。

 俺達は傘を差して私立常盤学院ときわがくいん大学附属高校を後にする。その際、優奈と俺は相合い傘をして。雨が降っていると優奈と相合い傘をすることが多い。なので、去年までよりも梅雨が好きになった。


「そういえば、どこのお店に下着を買いに行くんだ?」

「高野カクイの中に入っている下着売り場です」


 高野カクイというのは、高野駅南口の近くにあるショッピングセンターだ。地元民なので小さい頃からたくさん行っており、優奈とも放課後や休日に何回も買い物に行ったことがある。


「あそこ、デザインの種類も多いし、取り扱っているサイズも幅広いの」

「そうですね。高野で下着を買うときはカクイで買うんです」

「そうなんだ。そういえば、カクイにある下着売り場は広かった記憶があるな。昔、真央姉さんや母親と一緒に行ったことがあってさ」

「真央さんや梨子りこさんとですか」

「ああ。小学校の低学年の頃に何度か。俺がそのくらいの歳の頃までは、休日に家族でカクイに買い物に行くことが多くてさ。母親の下着を買うときは下着売り場の近くで待っていたんだけど、真央姉さんの下着を買うときは母さんと一緒に下着売り場に連れて行かれて……陳列している下着を見たり、試着した姿を見せられたりしたよ。姉さんに頼まれて、どの下着がいいのかを言ったな。大抵は俺がいいって言ったのを姉さんは買ってた」


 そのときの真央姉さんは結構楽しそうにしていたのを思い出す。特に下着を試着した姿を俺に見せたときは。姉さんは昔から相当なブラコンなんだなって思うよ。


「そうだったんですね」

「長瀬君がいいって言ったのを買うのが真央さんらしいわ。試着した姿を見せるのを含めて」

「私も思いました」


 ふふっ、と優奈と井上さんは楽しそうに笑っている。

 優奈だけじゃなくて井上さんも真央姉さんがブラコンなのを知っているからな。それもあって、試着の話もした。姉さんのブラコンエピソードだけど、2人に笑いをもたらすことができて良かったよ。


「ちなみに、真央姉さん以外の女性の下着を選んだことはないよ」

「そうですか」

「……今日は久しぶりに女性の家族の下着を選ぶんだな。優奈っていう大好きなお嫁さんの下着を」

「……嬉しいです」


 えへへっ、と優奈は言葉通りの嬉しそうな笑顔を向けてくれる。そんな優奈を見て、自然と頬が緩んでいくのが分かった。


「良かったわね、優奈」

「はいっ」


 優奈はニコッとした笑顔で井上さんに返事をする。それがとても可愛かった。

 それからは、今日の学校のことや3人とも観ているアニメのことなどで雑談しながら、駅の南口にある高野カクイに向かって歩いていく。2人と話すのが楽しくて、カクイに到着するまではあっという間に感じられた。

 高野カクイに入り、入口近くにあるエスカレーターを使って、衣服を取り扱う2階へと向かう。

 2階に到着すると、俺達は女性向けの衣服を取り扱っているエリアへ。

 俺は衣服を高野カクイで買うけど、男性向けの衣服を取り扱っているエリアとは全然方向が違うので、こちらの方に来るのは久しぶりだ。周りを見ると結構新鮮な光景で。女性向けの衣服を取り扱っているので、お客さんはもちろん女性が大半だ。男性もちょっといるけど、俺のように女性同伴だ。


「ここです」


 女性向けの衣服を取り扱うエリアの中を歩いて少ししたところで、俺達は立ち止まった。

 目の前には……女性向け下着がズラリ。ここが目的地の女性向けの下着売り場か。俺の記憶通り結構広いなぁ。下着売り場の中には……店員さんと思われる人はもちろん、お客さんも女性しかいない。


「ここか。昔と同じく広いな。……ちょっと緊張する。あと、店内に女性しかいないけど、俺が入っても大丈夫だよな? 昔は入れたけど、それは年齢が一桁だったからOKだったりしないか?」

「ふふっ、大丈夫ですよ。私と萌音ちゃんが一緒ですし」

「優奈の言う通りよ。今は女性しかいないけど、これまでも夫とか恋人らしき男性が店内にいたことは普通にあったし」

「そうでしたね、萌音ちゃん」

「ええ。長瀬君心配しすぎ」

「久しぶりに来たから、つい。ただ、2人の話を聞いて安心した」


 優奈と井上さんから離れないように気をつけよう。


「では、入りましょう。とりあえず、昨日、キツいと分かったブラジャーのブランドのものが陳列されているところに行きましょう」


 俺は小学校低学年以来に女性向けの下着売り場に足を踏み入れる。

 まさか、高校生の俺が妻と友人と一緒に来ることになるとは。最後にこの売り場に来たときには想像もできなかったことだ。

 ブラジャーやパンツやキャミソールといった下着や肌着が次々と視界に入ってくる。色の展開がバラエティに富んでおり、カラフルな光景が広がっている。男性向けの下着や肌着売り場とは全然違った雰囲気だ。


「ありました」


 そう言い、優奈が立ち止まる。それに合わせて、俺と井上さんも立ち止まった。

 目の前にはレース生地のブラジャーが陳列されている。同じブランドなのもあってか、キツくなったブラジャーのデザインとよく似ていて。ピンク、赤、青、水色、オレンジなど様々な色がある。どれもパンツとセットだ。


「同じブランドだからか、キツくなったブラジャーのデザインと似てるな」

「そうですね。これもいい雰囲気のブラジャーだなって思います」

「そうね。あと、優奈はここのブランドのものをよく買うわよね」

「ええ。デザインも気に入っていて、値段もそこまで高くありませんし」

「お気に入りだって言っていたもんな。……キツくなったブラジャーはよく似合っていたから、デザインの似ているこのブラジャーも似合いそうだ」

「そう言ってくれて嬉しいですっ」


 優奈は弾んだ声でそう言うと、言葉通りの嬉しそうな笑顔になる。結構嬉しそうで。お気に入りのブランドのブラジャーだからなのだろう。


「私も同じ意見よ。体育の着替えとかで、ここのブランドの下着姿の優奈を見るけど、よく似合っているなって思うし」

「ありがとうございます、萌音ちゃん。では、このブランドの下着を買いましょうか」

「ああ、俺は賛成だ」

「長瀬君がいいのなら」

「分かりました。キツくなったブラジャーは3着ありましたし……3着ほど買いたいですね。どの色がいいか選んでほしいです」

「分かった。……昨日、キツくなったブラジャーの色はピンクとオレンジと水色だったな。どれも似合ってた。特にピンクは」

「分かるわ」

「あとは……大人っぽい黒や落ち着いた青も良さそう。別のデザインの下着だけど、その2色の下着姿も特にいいなって思っているし」


 今までの優奈の下着姿を思い出しながらそう言う。


「それも分かるわ!」


 うんうん、と井上さんは何度も頷いている。井上さんに同意してもらえて嬉しいな。また、井上さんを見て優奈は「ふふっ」と声に出して笑っていた。


「良さそうな色をたくさん言ってもらえて嬉しいです」

「ああ。ただ、3着買いたいって言っていたのに5色も言っちゃってごめん」

「いえいえ、かまいませんよ」

「それに、試着室でブラジャーを試着した優奈を見て、特にいいと思った3色を選べばいいのよ。……でも、長瀬君は男子だから試着室の前にいるのはまずいか」

「そうだな。真央姉さんのときは、俺が小学校低学年で母親も一緒だったから大丈夫だったんだと思う」

「萌音ちゃんの言う通りですね。下着ですし、他のお客さんもいますし。……では、試着した私の写真を和真君のスマホに送って、その写真を見比べて3色選んでもらいましょうか」

「じゃあ、私が撮るわ! 試着室は結構広いしね!」


 井上さんはとてもやる気になった様子でそう言ってくる。ブラジャー選びに協力したいのもあるだろうけど、優奈の胸を見たり、堪能したりしたい気持ちもあるんじゃないだろうか。


「そうですね。では、お願いします」

「任せなさい!」

「じゃあ、俺は終わるまで店の外で待っているよ」

「分かりました」

「分かったわ」

「試着が終わったら呼びますね」

「ああ」


 俺は一人で下着売り場を出る。

 エスカレーターの近くに休憩スペースがある。なので、休憩スペースへ。

 休憩スペースには長いベンチが2基と、1人用のソファーが2基置かれている。今は長いベンチに若い女性が2人座っている。空いているベンチやソファーがあって良かった。

 俺は1人用のソファーに腰を下ろした。学校が終わってからずっと立っていたので、こうして座るのは気持ちがいい。

 水筒に入っている麦茶を飲んだり、スマホでWEB小説を読んだりしながら待つと、

 ――プルルッ。

 井上さんから、LIMEで写真とメッセージが届いたと通知が。通知をタップすると、井上さんとのトーク画面が開き、


『長瀬君が希望した色はどれも優奈のサイズに合うものがあったわ。着け心地がいいって優奈が言ってる。まずはピンクよ』


 というメッセージと、下は制服のスカートで上はブラジャー姿の優奈が写った写真が送られてきた。俺に向けて送る写真だからか、優奈はピースサインしていて。可愛い。

 色がピンクだから可愛い印象だ。よく似合っている。あと、こうして写真で見ると……Gカップの胸がとても大きく、くびれもあってスタイルがいいなと改めて思う。


『ピンク可愛いな! よく似合ってる。あと、着け心地のいいブラジャーで良かったよ』


 という返信を送った。下着を買いに来ているし、昨日の夜にはブラジャーがキツくて浮かない表情をした優奈を見ているので、着け心地のいいブラジャーがあって何よりだ。

 画面を見ていると、俺の送信したメッセージはすぐに『既読』マークになり、


『優奈、長瀬君の感想に喜んでるわ。あと、優奈のGカップの生おっぱいを見たり、堪能したりできたから私も喜んでる!』


 というメッセージが送られてきた。やっぱり、優奈の胸を見たり、堪能していたりしたか。井上さんの嬉しそうな笑顔が目に浮かぶよ。

 良かったな、と返信して、次のブラジャー写真を待つ。……ブラジャー写真って何だか変態な響きだな。

 引き続き、スマホでWEB小説を読みながら待っていると、


『次は黒よ』


 というメッセージと、黒いブラジャーを着けた優奈の写真が送られてきた。

 ピンクに比べて、黒は大人っぽい雰囲気だ。優奈の肌の白さや美しさが際立つ。


『黒もいいな! 大人っぽくてよく似合ってる』


 と、井上さんにメッセージを返信した。

 その後も水色、オレンジ、青の順番で優奈のブラジャー写真を井上さんから送ってもらった。水色は爽やかな雰囲気、オレンジは明るさを感じられ、青は落ち着いた雰囲気でどれも似合っている。それについてメッセージで送った。

 5色全部写真を送ってもらったけど、どの色のブラジャーもよく似合っている。そう思えるのは、ブラジャーを着けているのが優奈だからだろう。5枚の写真を見比べながらそう思った。

 写真を見ながら、5色あるブラジャーのうちどの3色がいいかよく考える。


「……よし、決めた」


 この決断を優奈に伝えよう。

 ――プルルッ。

 スマホが震えた。さっそく確認すると、優奈からメッセージが届いたと通知が。通知をタップすると、優奈との個別トーク画面が開かれ、


『制服に着替え終わりました。下着が陳列されているところに来てくれますか?』


 というメッセージが表示された。着替え終わったか。

 分かった、と返信を送り、俺は再び下着売り場へ向かう。さっきとは違って一人なので、早足で下着が陳列されているところまで向かった。


「あっ、和真君来ましたね」

「来たわね」


 陳列されているところには既に優奈と井上さんがおり、こちらに向かって笑顔で手を振って送る。優奈は落ち着いた笑顔で、井上さんは元気そうな笑顔で。


「試着お疲れ様、優奈。井上さんは写真ありがとな。考えるのにとても良かった。ありがとう」

「いえいえ! 優奈のGカップの生おっぱいを堪能できたし、ブラジャーを着けた優奈とか、目の前で優奈がブラジャーを着け直す姿を見られたから……」


 井上さんはとっても幸せそうに言った。放課後に下着を買うときは井上さんが毎回一緒なのも納得がいく。あと、井上さんの肌ツヤがさっきよりもよくなっているような。


「和真君。3つ……決まりましたか?」

「ああ、決まった。まず、5色全部良かったし、似合ってた」

「私も同意見よ」

「和真君はメッセージで、萌音ちゃんは直接言ってくれましたね。嬉しいです。……和真君、どの下着がいいですか?」


 優奈は俺の目を見つめながらそう問いかけてくる。


「1つ目は……ピンク。5つの中で一番可愛くて好きだ。2つ目は……水色。可愛さと一緒に爽やかな雰囲気もあるのが好きだ。それで、3つ目は……黒。大人っぽい雰囲気があるし、優奈の肌の綺麗さが際だって素敵だと思った」


 俺は選んだ色とその理由を優奈に伝えた。ブラジャーのことだし、優奈の隣には井上さんもいるからちょっとドキドキするけど。


「ピンク、水色、黒ですね。分かりました! この3色を買います。素敵な理由も言ってくれたので、3つの下着が好きになれそうです。ありがとうございます、和真君!」


 優奈はそう言うと、俺に向かってニコッと笑いかけてくれた。


「いえいえ」

「長瀬君に3色選んでもらえて良かったわね、優奈」

「はいっ」

「あと、長瀬君の選んだ色は良かったし、理由も納得できたわ」

「そうか」

「あと、和真君。和真君さえ良ければ、萌音ちゃんが送った下着姿の写真……持っていていいですよ」

「ありがとう」


 俺は制服のスラックスのポケットからスマホを取り出し、井上さんが送ってくれた下着姿の写真をさっそく保存した。その行動が面白かったのか、優奈と井上さんは声に出して笑っていた。

 オレンジと青の下着は陳列されている棚に戻して、優奈は俺が選んだピンク、水色、黒の下着を購入した。

 会計が終わって、店員さんから下着が入っている紙の手提げ袋を受け取ったときの優奈はとても嬉しそうだった。

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