第13話『膝枕をしてもいいですか?』
真央姉さんと井上さんが帰ったすぐ後に、俺はいつもの5人のグループトークに体調が結構良くなったこと、お見舞いのメッセージや井上さんがお見舞いに来てくれたことへの感謝のメッセージを送った。
すると、4人から続々と俺に向けて、
『和真君が元気になってきていて安心しました。みなさんもメッセージやお見舞いありがとうございました!』
『いえいえ。元気そうな長瀬君を見られて安心したわ』
『体調良くなってきたんだね! 良かったよ! 優奈と萌音から訊いているかもしれないけど、部活終わったら顔を見に行くよ』
『いえいえ。安心したぜ。明日は学校で長瀬と会えそうだな』
というメッセージを送ってきた。優奈が風邪を引いたときもみんなのメッセージを見て心が温まったけど、今回は自分宛てだから、あのとき以上に心が温かくなった。
――ピンポーン。
午後6時15分頃。
ベッドで横になり、録画した好きなアニメのBlu-rayを観ながらゆっくりしていると、インターホンが鳴った。このメロディーはエントランスからの呼び出し音か。時刻から考えて、呼び出したのは佐伯さんじゃないだろうか。
それからすぐに部屋がノックされ、
「千尋ちゃんがお見舞いに来てくれました。もう少しで来ます」
優奈は嬉しそうな様子で伝えに来てくれた。やっぱり、インターホンを鳴らした人は佐伯さんだったか。
優奈が教えに来てくれてから1分ほどで、
――ピンポーン。
と、再びインターホンが鳴った。今度は玄関の前にあるインターホンが押されたときのメロディーだ。
優奈は俺の部屋にあるモニターのスイッチを押して、
「はい。……千尋ちゃん、うちの前まで来ましたね。和真君とすぐに行きますね」
『うんっ』
モニターのスピーカーから佐伯さんの声が聞こえた。今日はまだ会っていないので、スピーカー越しにでも佐伯さんの声を聞くといいなって思う。
ベッドから立ち上がり、俺は優奈と一緒に部屋を出て玄関に向かう。
優奈が玄関の鍵を解錠し、扉を開ける。そこにはスクールバッグとエナメルバッグを肩に掛けた制服姿の佐伯さんが。佐伯さんは俺と目が合うと、いつもの明るい笑顔を向けてくれる。
「よっ、長瀬。お見舞いに来たよ」
「ありがとう、佐伯さん」
「千尋ちゃん、ありがとうございます」
「いえいえ。夕方に体調がだいぶ良くなったってメッセージをもらったけど、顔色は結構良さそうだね。今はどう?」
「ずっとゆっくりしていたから、かなり良くなったよ」
「そうなんだ。良かった!」
佐伯さんはニコッと笑いながらそう言ってくれる。そのことに元気をもらえる。
「昨日、バイト中の長瀬に『また明日』って言ったし、こういう形でも長瀬と会えてスッキリしたよ」
「そうか。佐伯さんらしいな」
もしかしたら、うちに寄ろうと決めた理由の一つは、また明日って言葉を実現させたい思いがあったからかもしれない。
スッキリしたと言っただけあってか、佐伯さんの笑顔は爽やかなものになる。
「あははっ、そうかな。……優奈もいい笑顔になってるね。学校では寂しそうにしていたからさ。安心したよ」
「和真君と一緒にいますし、和真君が元気になりましたからね。心配掛けてしまってごめんなさい」
「気にしないで。それに、長瀬だって優奈が風邪を引いたときは寂しそうにしていたし。似た者同士のいい夫婦だなぁって思うよ」
「……そうですか」
えへへっ、と優奈は嬉しそうに笑う。佐伯さんから「いい夫婦だ」と言われたのもあり、俺も嬉しい気持ちになる。
「長瀬の元気そうな顔を見られたし、あたしはそろそろ帰るよ。長瀬、お大事に。また明日ね。できれば、学校で」
「ああ。また明日な」
「また明日です、千尋ちゃん」
「うんっ。またね」
佐伯さんはニコッと笑って、俺達に手を振りながら家を後にした。
元気になって、明日は佐伯さんと学校で会いたいな。西山や井上さん達とも。
夜。
体調がかなり良くなったので、夕食を食べた後は俺の部屋で、優奈からノートを借りて今日の授業内容の部分を写させてもらう。たまに、優奈に解説してもらいながら。昨日の夜に予習していたのもあり、今日の授業内容はすんなりと頭に入った。
優奈は単に板書をノートに写しているだけでなく、分かりやすくまとめている。これも優奈が学年1位を取り続けている理由の一つなのだろう。ノートの取り方の参考になる。あと、字が綺麗だからとても読みやすいノートだ。
また、今日の授業で出て、明日の授業で提出する課題も取り組んだ。優奈が写させてくれたノートや、優奈に質問したのもあって、難なく終えることができた。
「……よし。これで明日出す課題も終わった」
「お疲れ様でした、和真君」
「優奈も課題お疲れ様。あと、ありがとう。ノートを見せてくれたり、分からないところを教えてくれたりして」
「いえいえ。今日の授業のいい復習になりました。こちらこそありがとうございました」
「いえいえ」
風邪を引いて学校を欠席したけど、優奈の役に立てたのが嬉しい。
「……風邪を引いていたからかな。ノートを写して、課題をやったら結構疲れた」
なかなかの疲労感がある。いつもだったら、バイトがあってもここまでの疲労は感じない。今日はもうこれ以上勉強しないようにしよう。下手したら、熱がぶり返したり、体調を再び崩してしまったりするかもしれないし。
「量もそれなりにありましたからね。無理もありません。……では、少しでも疲れが取れるように、和真君に膝枕をしてもいいですか? 今まで一度もやったことがありませんから、膝枕をしてみたい気持ちもあって」
優奈はいつもの優しい笑顔で俺にそう提案してくれる。
膝枕か。確かに、優奈の言う通り、優奈に膝枕をしてもらったことは一度もないな。優奈の膝枕がどんな感じなのか凄く興味がある。
「分かった。優奈の膝枕を体験したい」
「そうですか! 分かりました!」
膝枕をすることになったからか、優奈は凄く嬉しそう。そんな優奈を見て少し疲れが取れたよ。
「では、ベッドで膝枕をしましょう。そうした方がより気持ちいいと思いますから」
「ああ、分かった」
ベッドの上で膝枕をしてもらった方が、もっと早く疲れが取れそうだ。
優奈は俺のベッドの端に腰を下ろす。両手で自分の太ももをポンポンと叩いて、
「どうぞ、和真君」
と、優しい声色でそう言ってくれる。その姿はいつもよりも大人っぽくて、艶っぽさも感じられた。だから、ちょっとドキッとした。
「……失礼します」
ベッドに乗り、俺はゆっくりと仰向けの状態になる。その際、頭を優奈の太ももの上にそっと乗せた。
優奈の穿いているスカート越しに、優奈の太ももの柔らかさと温もりが後頭部に伝わってきて。呼吸する度に優奈の甘い匂いがはっきりと感じられてとても快適だ。あと、ノースリーブの縦ニットに包まれたFカップの胸の存在感が凄く、優奈の顔が見えない。
優奈は俺の顔を覗き込み、
「私の膝枕……どうですか?」
と、優しい笑顔で問いかけてきた。
「柔らかくて、温かくて……とても気持ちがいいよ。ベッドの上だから本当に気持ちいい」
「それは良かったですっ」
「優奈はどうだ? 俺を膝枕してみて。重くないか?」
「重くありませんよ。スカート越しですが、和真君の温もりと重みを感じられて心地いいです。膝枕をするの……いいですね」
「それは良かった」
俺がそう言うと、優奈はニコッと笑いかけ、俺の頭を優しく撫でてくれる。それがまた気持ち良くて。凄く幸せだ。
「そういえば、風邪を引いたときに真央姉さんに膝枕してもらったことがあったな」
「そうですか。私も妹の陽葵が風邪を引いたときに膝枕をしました。あと、萌音ちゃんと千尋ちゃんが風邪を引いてお見舞いに行ったときも。萌音ちゃんは特に嬉しそうでしたね。下から見る胸もいいと幸せそうでした」
「ははっ、井上さんらしい。ただ……優奈の大きな胸の存在感が凄いから、井上さんがそう言うのも分かるかな」
「そうですか」
ふふっ、と優奈は楽しげに笑う。
井上さんの場合、風邪を引いたら風邪薬を飲むよりも優奈に膝枕をしてもらったり、優奈の胸を堪能したりする方が効き目があるんじゃないだろうか。
あと、井上さん……ほんと、色々な場面で優奈の胸絡みエピソードが出てくるな。おっぱいエピソードがまだまだありそうだ。
そういえば、優奈の胸に顔を埋めたことはあるけど、お腹に顔を埋めたことはないな。どんな感じか興味がある。
俺は優奈の方に体を向けて、お腹に顔を埋めた。顔全体に優奈の温かさが伝わってきて、縦ニットを着ているのもあるから肌触りも良くて気持ちがいい。呼吸する度に優奈の甘い匂いを感じられるからとても心地良くて。
「ふふっ、お腹に顔を埋めて。どうですか?」
「最高だよ。温かくて、いい匂いがして」
「それは良かったです。私もお腹に和真君の温もりが感じられて気持ちいいです」
「それは良かった」
あと、嫌だと思われなくて安心した。
それから2、3分は優奈のお腹に顔を埋めた。その後は元の仰向けの体勢に戻り、優奈と談笑しながら、優奈に膝枕をしてもらう時間を過ごしていく。
優奈の膝枕……本当に気持ちいいな。ずっとこうしていられる。
ただ、優奈は重くないと言っていたけど、このままずっと膝枕してもらっていたら優奈の脚が痛くなってしまうかもしれない。疲れが取れてきたら起きよう。
20分ほどして、体の疲れもだいぶ取れてきた。なので、
「優奈、ありがとう。疲れが取れてきたからこれで十分だよ」
そう言って俺はゆっくりと上体を起こした。優奈の膝枕のおかげで体が随分と軽くなった。
「良かったです、和真君」
優奈は柔らかい笑顔でそう言った。さっき俺が結構疲れたと言ったのもあってか、ほっとしたようにも見えて。
「あのさ、優奈」
「何でしょう?」
「俺も優奈に膝枕をしたいな。一度もやったことがないし、お礼にしてみたいんだ。どうだろう?」
「ありがとうございますっ」
ニコッと笑いながら、優奈は俺にお礼を言う。俺の膝枕が気持ちいいと思ってもらえたら嬉しいな。
俺はベッドの端に座り、さっきの優奈のように、太ももをポンポンと叩きながら、優奈に「どうぞ」と言った。
「失礼します」
優奈はそう言ってベッドに上がり、仰向けの状態になる。その際、頭を俺の太ももの上にそっと乗せた。そのことで、俺の太ももには優奈の頭の温もりと重みを感じられるように。
「優奈、どうだ?」
「とても気持ちいいです。後頭部から和真君の温もりと柔らかさが感じられて。呼吸する度に和真君の匂いも感じますし。最高ですっ」
優奈はニコニコしながらそう言ってくれる。
「そう言ってくれて嬉しいよ。俺も優奈に膝枕して気持ちいい」
俺は右手で優奈の頭を優しく撫でる。それも気持ちいいのか、優奈の笑顔はニコニコしたものからまったりとしたものに変わっていく。今の優奈を見ていると、真央姉さんに膝枕したことを思い出す。
「あぁ、気持ちいいです。膝枕だけじゃなくて、頭を撫でてもらえて本当に幸せです」
「良かった。今の優奈を見ていたら、真央姉さんに膝枕したときのことを思い出したよ」
「そうですか。あと、やはり真央さんは経験済みでしたか」
「ああ。風邪を引いたときとか、修学旅行や泊まりがけの校外学習から帰ってきたときとかに。そういったときは姉さんが膝枕してって俺に甘えてきてさ。今みたいに頭を撫でると凄く嬉しそうだった」
「ふふっ、真央さんらしいです。でも、真央さんがそう言うのも納得ですね。凄く気持ちいいですから」
優奈は柔らかい笑顔でそう言った。凄く気持ちいいと言ってもらえて嬉しいな。
徒歩圏内ではあるけど、今は真央姉さんとは別々の家で暮らしている。お互いに家へ遊びに行ったときには姉さんに膝枕することがあるかもしれない。
「今後、風邪を引いたときには膝枕をお願いしましょう。風邪を引かずに健康なのが一番ですが」
「その言葉、今の俺に凄く響くなぁ。……膝枕してほしいときはいつでも言ってくれよ」
「はいっ」
優奈は可愛らしく返事した。
優奈はゆっくりと俺の方に体を向けて、顔を埋めてくる。さっき、俺が優奈のお腹に顔を埋めたから、自分もやりたくなったのかな。
優奈が顔を埋めることで、お腹に優奈の温もりが伝わってきて。気持ちが落ち着く。
「あぁ……和真君の温もりと匂いを感じられて幸せです」
「そうか。俺もさっきはそんな感じだったよ。お腹に優奈の温もりを感じられていいなって思う」
「そうですか。私もさっきはそういった感じでした」
「そうだったんだな」
お腹に顔を埋められるのもいいものだな。これから、膝枕し合うときは顔をお腹に埋めるのが定番になりそうだ。
さっき、俺が膝枕したときと同じく、優奈は少しの間俺のお腹に顔を埋めた後、仰向けになった優奈と談笑する。優奈に膝枕してもらうのもいいけど、優奈に膝枕するのもいいなと思った。
優奈に膝枕をしてすぐ、俺は寝ることにした。普段の平日よりも早い時間だし、風邪が完全には治っていないので、今夜は一人で。
今朝も思ったけど、このベッドは一人で寝るとかなり広い。ただ、家の中に優奈がいるし、膝枕をし合ったのもあり、今朝とは違って寂しさを感じることなく眠りにつくことができた。
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