第11話『汗拭きとお着替え』

 体調もだいぶ良くなったので、寝ることはせず、真央姉さんと談笑しながら、優奈が井上さんと一緒に帰ってくるのを待つ。学校生活を中心に近況や風邪を引いたときの思い出話などで話を咲かせて。

 真央姉さんと話していたら喉が渇いたので、ローテーブルに置いてあるスポーツドリンクを飲んだ。エアコンを掛けて部屋が涼しくなっているので、ちょっと冷たくて結構美味しい。

 目を覚ましてから30分以上経って、


『ただいま』

『お邪魔します』


 部屋の外から、玄関が開く音と、優奈と井上さんのそんな声が聞こえてきた。優奈の声が聞こえるだけでも嬉しい気持ちになる。

 俺は真央姉さんと一緒に「おかえり」と言った。

 ――コンコン。

 部屋の扉がノックされる。


『優奈です。学校から帰ってきました。萌音ちゃんがお見舞いに来てくれました』

『井上です。お見舞いに来たよ、長瀬君』

「ああ、どうぞ」


 俺がそう言うと、部屋の扉が開き、スクールバッグを持った制服姿の優奈と井上さんが部屋に入ってきた。井上さんはレジ袋を持っている。部屋を涼しくしているからか、2人ともやんわりとした笑顔になる。


「優奈、おかえり。井上さん、こんにちは。来てくれてありがとう」

「2人ともこんにちは」

「ただいま、和真君。真央さん、お見舞いに来てくれてありがとうございます」

「長瀬君、真央さん、こんにちは」

「和真君。体調はどうですか? お昼頃に、お弁当箱に入れたおかずは完食したとメッセージをもらいましたが」

「優奈が作ってくれたお粥とおかずのおかげで、体調はだいぶ良くなったよ。さっき測ったら、36度8分まで下がってた」

「それは良かったです!」

「良かったわ。安心した」


 優奈と井上さんは安堵の笑みを浮かべる。2人がこういう笑顔になれるくらいに体調が回復して良かったよ。

 体調が良くなったと示すために、すっと上体を起こす。すると、優奈は嬉しそうな笑顔になって、俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。その流れでキスしてくる。おかえりのキスかな。


「優奈のおまじないのおかげでもあるかな」

「そうだと嬉しいです。……今朝よりも、体から伝わってくる熱も落ち着いていますね」

「そうか」

「帰る途中で、ドラッグストアでみかんゼリーを買ってきました。真央さんが、和真君は果実系のゼリー全般が好きで、特にみかんゼリーが好きだと教えてくれましたから」

「お腹を壊していなければ、風邪を引いたときにみかんゼリーを食べさせることが多かったからね」

「そうだったな」

「この前の優奈のときみたいに、優奈と折半して買ったわ」

「そうか。2人ともありがとう」


 優奈が真央姉さんに俺の好きなものは何かを訊いてくれたんだよな。それもあって、みかんゼリーを優奈と井上さんが買ってきてくれたことがとても嬉しい。姉さんはニッコリと笑って「良かったね」と言った。


「あと、メッセージを送ったけど、千尋と西山君がお大事にって。千尋は部活が6時過ぎに終わる予定だから、部活帰りに顔を見に来るって。西山君は部活が遅くまであるから来られないって言っていたわ」

「ああ、分かった。佐伯さんは優奈のときみたいに来てくれるのか。西山は遅くまで部活をやっていることが多いから、お見舞いに来られないのはいつも通りだな」


 サッカー部は午後7時まで練習をしており、それ以降も練習していることもたまにあるという。遅い時間に来ても俺に迷惑がかかるかもしれないと考えて気を遣っているのかもしれない。

 ただ、雨の日に風邪で欠席したとき、練習が休みになったから、西山が放課後にお見舞いに来てくれたことがあったな。


「今日の学校はどうだった?」

「授業はいつも通りでした。いくつかの授業で課題が出たので、後でプリントを渡したり、範囲を教えたりしますね」

「分かった。ありがとう」

「あとは……あのときの長瀬君みたいに、優奈が寂しそうにしていたわ。お昼は久しぶりに優奈と千尋と3人で食べた。あと、休み時間に長瀬君の席に座っていたときもあったわね」

「隣ですし、少しでも和真君を感じられるかと思いまして」


 えへへっ、と優奈は照れくさそうに笑う。

 この前、優奈が風邪を引いたときにはしなかったけど、優奈が俺の席に座る気持ち……分かる気がする。今日、家で一人でいるとき、ベッドにある優奈の残り香を感じてちょっと寂しさが紛れたから。


「西山君や千尋はもちろん、他の子達も長瀬君が休んだことを残念そうにしていたわ。ただ、今の体調なら、明日は学校で会えそうね」

「ああ、そうだな」


 いつも通りの生活に早く戻れそうで良かった。明日、学校に行ったら西山達にお礼を言わないとな。


「和真君。私達にしてほしいことがあったら言ってください」

「遠慮なく言ってくれていいんだよ、カズ君!」

「だいぶ治ってきたとはいえ、病人だからね。この前の優奈のように、してほしいことを言って」


 優奈と真央姉さん、井上さんは優しい笑顔でそう言ってくれる。

 優奈が帰ってきて、真央姉さんと井上さんがお見舞いに来てくれたんだ。ここはお言葉に甘えて、3人にしてほしいことを言うか。


「じゃあ……汗を拭いてくれるかな。お昼ご飯を食べたとき以外は大半寝ていたし、胸まで布団を掛けていたから汗を掻いたから」

「汗拭きですね。分かりました! 私、やります!」


 優奈はピシッと右手を挙げて、やる気になった様子でそう言ってくれる。こういう反応をしてくれると嬉しい気持ちになるな。


「優奈ちゃんやる気だね。お姉ちゃんも汗拭きしたいなぁ。今まで、カズ君が風邪を引いたときはやっていたし。背中だけでもいいから」


 優奈に倣ってか、真央姉さんも右手を挙げて汗拭きを志願してくれる。姉さんの言う通り、俺が風邪を引いたときは姉さんが汗を拭いてくれたっけ。


「じゃあ、背中は姉さんで、それ以外は優奈に任せようかな」

「うんっ!」

「お任せください! 私が風邪を引いたときは寝間着と下着を着替えましたが、和真君はどうしますか?」

「そうだな……着替えようかな。そうした方がよりスッキリできそうだから」

「分かりました。では、お着替えも手伝いますね」

「ああ、お願いするよ、優奈」

「じゃあ、終わるまで私は廊下で待っているわ」

「ああ、分かった」


 井上さんはさすがにここにはいられないよな。汗拭きだけでなく着替えもするから。


「私も背中を拭いたら廊下に出るよ。小さい頃は一緒にお風呂に入っていたけど、カズ君が中学生になってからは入っていないし……」


 真央姉さんは頬を赤くして、ちょっと恥ずかしそうに言う。まあ、姉さんの言う通り、姉さんと一緒にお風呂に入っていたのは俺が小学生までの間だ。ここ数年は、体調を崩したときの看病では汗拭きをしても、着替えは手伝わなかったからな。


「分かったよ、姉さん」

「廊下に出てきたら、真央さんの胸を久しぶりに堪能させてください」

「いいよ、萌音ちゃん」

「ありがとうございますっ!」


 井上さんは嬉しそうにお礼を言った。そういえば、引っ越しの手伝った日に井上さんは真央姉さんの胸を堪能して……優奈以外の胸では一番いいと言っていたっけ。

 井上さんはニコニコのまま部屋を出て行った。


「じゃあ、まずは寝間着の上着とインナーシャツを脱ぎましょうか」

「お姉ちゃんと優奈ちゃんで脱がせてあげるよ。脱ぎ脱ぎしようね~」

「ありがとう。お願いするよ」


 病人だし、ここでも甘えるか。

 ベッドに腰を下ろした俺は優奈と真央姉さんに寝間着の上着とインナーシャツを脱がせてもらう。エアコンがかかっているし、汗も掻いているので、上半身体になるとかなり涼しい。

 あと、上半身をさらけ出したとき、以前、優奈にキスマークを付けてもらった左胸をチラリと見た。あれから数日経っているので、今はほんのりと赤く残っているだけになっている。これなら、姉さんにキスマークだと気付かれる可能性は低い……かな。


「あぁ、カズ君の汗の匂い……好き」


 真央姉さんはインナーシャツの匂いを嗅ぎながらそう言う。幸せそうな表情をするところを含めてブラコンだなぁ。優奈のいる前でもやるのはさすがである。


「私も……和真君の汗の匂い、好きです」


 優奈は優しい笑顔でそう言った。お嫁さんに汗の匂いが好きだと言ってもらえると嬉しい気持ちもあるけど、それよりも安堵の気持ちが強い。あと、俺の姉さんがインナーシャツの匂いを嗅ぐことにも不快感は抱いていないようで良かった。


「いいよねっ!」


 優奈が共感してくれたからか、真央姉さんはとても嬉しそうだ。こういうことでも義理の姉妹の話が合って良かった。


「優奈ちゃん、最初に私がカズ君の背中を拭いていい? 途中で部屋を出る予定だし」

「いいですよ」

「ありがとう」


 真央姉さんはローテーブルに置いてあるバスタオルを持ち、背中を拭くためにベッドに上がる。


「じゃあ、背中を拭くね」

「お願いします」


 真央姉さんに背中を拭いてもらい始める。

 バスタオルの柔らかな肌触りと、真央姉さんの優しい手つきのおかげでとても気持ちがいい。癒やされる。


「カズ君、どうかな?」

「凄く気持ちいいよ」

「じゃあ、こんな感じで拭いていくね」

「ああ」


 それからも、姉さんに背中を拭いてもらう。


「カズ君の背中……広いね。結婚して優奈ちゃんっていうお嫁さんがいるから、前よりも立派に見える」

「そうかな?」

「和真君の背中、とても広いですよね」

「ふふっ。そう言うってことは、やっぱり優奈ちゃんとカズ君は一緒にお風呂に入っているんだね。さっき、お着替えも手伝うって優奈ちゃんが言っていたし」

「……ああ、一緒に入っているよ」

「入っています」


 優奈は頬をほんのりと赤くし、ちょっと照れくさそうに言う。俺も頬が熱くなっているから、優奈のように赤いのだろう。

 下着を含めた着替えを手伝うって言うことは、裸を見せても大丈夫な関係。つまり、一緒にお風呂に入ったことあると真央姉さんは推理したのだろう。


「ふふっ、照れちゃって可愛い。好き合う夫婦になったんだから、お風呂にも一緒に入るよね。あと……もしかして、最後までしたり?」


 真央姉さんは俺や優奈にしか聞こえないような小さな声で問いかける。廊下で井上さんがいるからだろう。まあ、井上さんは俺達が最後までしたことを知っているけど。

 着替えまで手伝うと優奈が言ったのは、お風呂だけでなく、最後までしたことがあると考えたのか。俺達は好き合う夫婦になったし、姉さんも大学生だからそこまで考えが行き着くか。

 優奈はさっきまで頬にしかなかった赤みが顔全体に広がり、


「し、しました」


 さっきよりも小声で返答した。


「ああ。……したよ」


 井上さんは知っているけど、優奈と同じくらいの声の大きさでそう言った。言う内容が内容なだけあって、体が熱くなってきた。

 俺達が最後までしたことを知って、真央姉さんはどんな反応をするだろうか。姉さんは結構なブラコンだし。ちょっと不安だ。

 ゆっくりと振り返ると……真央姉さんはとても優しい笑顔になっていた。俺と目が合うと、姉さんは目を細める。


「……そっか。最後までしたんだね。納得。ただ、2人は高校生だから、避妊はしっかりするんだよ。お互いに相手の体を大切にね」


 真央姉さんは俺と優奈を交互に見て、落ち着いた声色でそう言った。井上さんや佐伯さんにも言われたことだ。ただ、姉さんからは直接言われたので、彼女達以上の重みを感じられて。優奈のことを大切にしないといけないって改めて思う。

 俺達が好き合う夫婦になったし、たまに俺達の様子を見ていたから、最後までしたと知っても納得できたのだろう。さっきも、体調が良くなってきたと言ったとき、優奈は俺を嬉しそうに抱きしめてキスしたし。

 俺も優奈も分かったと言うと、真央姉さんは「うんっ」と柔らかく笑って頷く。その姿はとても大人っぽく見えた。


「まあ、もし2人の間に子供ができちゃったら、そのときは伯母として私も愛情を注いで育てるよ!」


 やる気になってそう言う真央姉さん。俺と優奈の間に産まれる子供をもうそ……想像しているのだろうか。弟夫婦の子供だから、姉さんは物凄く甘えさせそうなイメージがある。


「えっと……気持ちは受け取っておくよ」

「そうですね、和真君。できてしまわないよう気をつけますね、真央さん」

「うん。あと……カズ君の左の胸にうっすらある赤い痕は、している最中に優奈ちゃんに付けられたキスマークかな?」

「キスマークなのは合ってるよ」

「そ、その……する前に私がお願いして付け合ったんです。私の左胸にもあります」

「そうなんだ。本当にラブラブだね」


 ふふっ、と真央姉さんは優しく笑いながらそう言った。薄くなっているけど、左胸の赤い痕がキスマークだと気付かれたか。キスマークを付け合ったときのことを思い出してドキドキしてくる。熱がぶり返しそうな気がする。

 それからも真央姉さんに背中を拭いてもらい、


「はい、背中はこれで終わったよ」

「ありがとう、姉さん」

「いえいえ。カズ君の汗拭きできて嬉しかったよ。じゃあ、私は萌音ちゃんと一緒に廊下で待ってるね」

「分かった」


 真央姉さんはベッドから降りて優奈にバスタオルを渡すと、部屋を出て行った。その直後に、「あぁっ」と井上さんの甘い声が聞こえてきた。さっそく、姉さんの胸を堪能しているのだろう。


「まさか、姉さんに最後までしたことを感付かれるとは」

「私がお着替えも手伝うと言いましたからね。お風呂に入っただけでなく、最後までしたのかもと真央さんが考えるのも納得です」

「まあ、そうだな」

「……では、体の前面を拭いていきますね」

「ああ、お願いするよ」


 優奈は俺の目の前で、向かい合う形で膝立ちをする。俺が上半身裸なのもあって、こういう体勢になるとドキドキしてくる。

 優奈はバスタオルを使って胸のあたりから拭き始める。さっきの姉さんと同様、優しく拭いてくれるからとても気持ちいい。


「和真君。拭き方はどうですか?」

「凄く気持ちいいよ。こんな感じでお願いします」

「分かりました。……それにしても、和真君は上半身裸ですし、汗の匂いもほんのりと香ってくるのでドキドキします」

「そっか。……さっき、優奈が俺の汗の匂いが好きだって言ってくれたよな。俺も……優奈の汗の匂いが好きだよ」

「……嬉しいです。あと、良かったです。嫌だと思われてなくて」


 優奈は嬉しそうな笑顔で、ほっと胸を撫で下ろした。最近は暑い日が多くなってきたし、汗の匂いが俺にどう思われているのか気になっていたのかもしれない。


「ありがとうございます、和真君」


 小さめの声でそう言うと、優奈は左胸にあるキスマークにキスした。優奈の唇の感触はバスタオルよりも柔らかくて心地いい。

 それからも優奈にバスタオルで汗を拭いてもらい、新しい下着と寝間着の着替えを手伝ってもらうのであった。

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