エピローグ『これからもずっと』

「後片付け、終わったよ」

「お疲れ様でした。ありがとうございます。アイスコーヒーを淹れておきました」

「ありがとう、優奈」


 朝食の後片付けが終わり、俺はリビングのソファーに座る。優奈と体が軽く触れるくらいの近さで。

 ソファーの前にあるローテーブルには、アイスコーヒーが入った俺のマグカップが置かれている。マグカップを手に取り、コーヒーを一口飲む。


「……美味しい」


 俺好みの苦味の強いコーヒーで。以前から愛飲しているインスタントコーヒーだけど、自分で作るコーヒーよりも美味しく感じられるんだよな。あと、後片付けをして体がちょっと温まっているので、コーヒーの冷たさも良くて。


「美味しくできていて良かったです」

「ありがとな」

「いえいえ」


 優奈は自分のマグカップに入っているアイスコーヒーを一口飲む。美味しくできたのか、小さな声で「美味しい」と呟くのが可愛らしい。

 優奈はマグカップをローテーブルに置くと、俺にそっと寄り掛かってくる。


「いいですね。こうやって、休日に和真君と一緒にのんびりするの」

「そうだな。優奈と好き合う夫婦になれたから、今まで以上にいいなって思うよ。幸せだ」

「私も幸せです。これからもずっと、和真君と一緒にこういう時間を過ごしたいです」


 優奈は彼女らしい優しい笑顔でそう言ってくれる。そのことにとても嬉しい気持ちになる。


「俺もだ。優奈と一緒に、いつまでもこういう時間を過ごしていきたい。そうできるように、一日一日を大切にして過ごしていこう」

「はいっ!」


 ニッコリと笑って返事をすると、優奈は俺にキスをした。

 優奈に言ったように、一日一日を大切にして。俺達は高校生だから勉強を中心に頑張って、これからも優奈と一緒に夫婦生活を送っていこう。きっと、優奈と一緒なら、毎日を楽しく過ごしていけるだろう。











 優奈と一緒に、夫婦生活を楽しく過ごしていって。月日が流れていった。











 翌年の3月下旬。

 高校の卒業式も終わり、今日は優奈と俺の挙式と披露宴が行なわれる日だ。

 好き合う夫婦になった頃から、優奈と俺は結婚式をしたいと話していた。

 ネットで調べると、披露宴込みだととてもお金がかかることが分かった。なので、挙式のみを行なうことも選択肢に入れていた。それを両家の家族全員での話し合いで伝えると、


「そうか。ただ、挙式と披露宴は優奈と和真君だけでなく、ここにいる私達家族、両家の親族やお世話になった人達のための式でもある。私達にも費用を出させてほしい」


 と、おじいさんから打診された。俺の家族も優奈の家族もおじいさんの考えに賛同。なので、優奈と俺は打診を受け入れ、俺達2人がバイトをして貯めたお金と、両家の両親と総一郎さん、真央姉さんの出したお金で挙式と披露宴を行なうことになった。

 挙式と披露宴について何度か話し合いを重ねた。その結果、3月下旬である今日に行なわれることになった。俺達が入籍したのが春であること。2人とも誕生日が4月なので近いこと。春休みになっており、招待する人達が出席しやすいことなどが理由だ。

 ちなみに、ハネムーンは大学に入学して、今年の夏休みに海外へ行く予定だ。今は優奈と2人で旅行資金を貯めている。

 これまで、優奈と一緒に打ち合わせや式場選び、結婚式で俺が着るタキシードや優奈が着るウェディングドレス選びなどをしてきた。


「ここの結婚式場、とても素敵な雰囲気ですね!」


「このウェディングドレス、とても綺麗です!」


「和真君! そのタキシード姿、よく似合っていますね!」


 と、優奈は結構楽しそうにしていたっけ。そういったときの優奈が可愛くて、今でも思い出すと頬が緩む。

 様々な準備をしてきて、今日を迎えることができた。

 今日は朝からよく晴れており、昼を中心に暖かくなる予報だ。数日前には関東地方でも桜が咲き始めたので、まさに結婚式日和と言えるだろう。このような天候の中でできることをとても嬉しく、幸せに思う。

 挙式がスタートし、挙式で定番のクラシック曲が流れ始める。

 白いタキシードを着た俺は祭壇の前に向かう。両家の親族、招待した西山、井上さん、佐伯さんなど3年2組のクラスメイトと担任の渡辺先生、スイーツ研究部の部員と顧問の百瀬先生、俺達それぞれの友人達などに拍手を送られながら。


『続いて、新婦の入場です』


 司会の牧師によって、そうアナウンスされる。

 扉が開かれ、純白のウェディングドレス姿になった優奈が父親の英樹さんと一緒に入場してくる。

 ウェディングドレスを選んだとき、試着した優奈を見て綺麗だと思った。ただ、結婚式当日になって、祭壇近くから優奈のことを見るとよりいっそう綺麗で。世界で一番、優奈が美しい。

 女性中心に参列した人達の『綺麗』『可愛い』といった声が聞こえてくる。そのことに嬉しい気持ちになる。

 英樹さんと一緒に、優奈は俺の前までやってくる。

 俺は英樹さんから優奈の手を受け取る。その際、英樹さんは俺達にとても優しい笑顔を向けてくれた。

 優奈と俺は祭壇の前に立った。

 賛美歌の斉唱、聖書の朗読や祈祷が行なわれ、誓約をすることに。


「新郎・長瀬和真さん。あなたは新婦・長瀬優奈さんを妻とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」

「はい。誓います」


 優奈と結婚してからの日々や、優奈が見せてくれたたくさんの笑顔を思い出しながら、神父に向かってしっかりと返事をした。


「新婦・長瀬優奈さん。あなたは新郎・長瀬和真さんを夫とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」

「はい。誓います」


 神父からの問いかけに、優奈の綺麗な声に乗せられた返事が響き渡る。


『続いて、指輪の交換を行ないます』


 指輪の交換を行なうため、優奈は両手に嵌めている白いグローブを外し、介添人かいぞえにんというお世話係の女性に渡す。

 優奈がグローブを渡し終え、俺達は向かい合う体勢に。

 司会者の牧師から、優奈の結婚指輪を受け取る。左手で優奈の左手を支え、優奈の左手の薬指に結婚指輪を付けた。俺達2人で買った結婚指輪も、こうして結婚式で付けてあげると特別感がある。

 ベール越しでも、優奈はとても嬉しそうにしているのが分かった。

 続いて、優奈が俺の左手の薬指に結婚指輪を付けてくれた。普段は自分で付けるけど、こうして優奈に付けてもらうと特別感があっていいなって思う。ジュエリーショップで受け取ったときから思っているけど、この指輪をいつまでも大切にしようと改めて思う。


「それでは、誓いの口づけを」


 神父は俺達のことを見ながらそう言った。

 いよいよ、みんなの前で誓いのキスをするときが来たか。

 俺が優奈のウェディングドレスのベールを上げる。これからキスをするし、参列者達の注目が集まっているからか、優奈の頬はほんのりと赤い。


「優奈。大好きだ。これからもずっと大好きだよ」

「私も和真君のことが大好きです。これからもずっと大好きですっ」


 優奈は俺にそう言うとニコッと笑い、ゆっくりと目を閉じる。

 ウェディングドレス姿だから、いつも以上にキスを待つ顔が魅力的だ。そう思いながら、優奈の両肩をそっと掴んで、優奈と誓いのキスを交わした。

 キスをした瞬間、多くの拍手が上がり、


「優奈、和真君、おめでとう! ばあさんもきっと喜んでいるぞ!」

「カズ君、優奈ちゃん、おめでとう! いつまでも仲良くね!」

「お姉ちゃん! 和真さん! 2人ともおめでとう!」

「おめでとう! 優奈! 長瀬君! 2人とも素敵よ!」

「優奈、長瀬君、おめでとう! 長瀬君、これからも優奈を頼むよ」

「和真、優奈ちゃん、おめでとう!」

「和真、優奈さん、おめでとう!」


 両家の家族や親族からも、


「優奈、長瀬君、おめでとう! 本当におめでとう! 2人とも素敵よ!」

「優奈! 長瀬! 結婚おめでとう!」

「長瀬! 有栖川! おめでとう! これからも2人で幸せにな!」

「優奈ちゃん! 長瀬君! 結婚おめでとう! 担任としてとても嬉しいよ!」

「優奈ちゃん、長瀬君、おめでとう!」


 友達やお世話になった先生達、優奈の部活仲間からも、たくさんの祝福の声が聞こえて。

 唇を離し、会場内を見ると……参列した人がみんな、俺達に向かって笑顔で拍手を送ってくれている。祝ってくれている。それがとても嬉しい。優奈の嬉しそうな笑顔を見ると、その気持ちがより膨らむ。

 みんなの前で誓ったことを胸にして。みんなが祝ってくれたことに感謝して。そして、愛するお嫁さんの優奈を大切にして。これからもずっと、優奈と一緒に人生を歩んでいこう。




本編 おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る