第57話『お見舞い-後編-』

「終わったわ、長瀬君」


 廊下で待ち始めてから10分ほど。優奈の部屋の扉が開き、井上さんが姿を現した。井上さんはとっても上機嫌な様子だ。優奈の汗を拭いたり、着替えを手伝ったり、裸の状態の優奈の胸を堪能したりしたからだろうか。心なしか、俺が部屋を出て行く前よりも肌ツヤがいいような。


「お疲れ様、井上さん。ありがとう」

「いえいえ。優奈の体を拭いたり、生のおっぱいを堪能できたり、替えの下着と寝間着を選んで着替えを手伝ったたりしたからとても楽しかったわ。あと、優奈の生おっぱいは至福の心地良さで最高だった……」


 そのときのことを思い出しているのだろうか。井上さんは恍惚とした表情になっている。優奈の胸を生で堪能できて幸せな気持ちがひしひしと伝わってくるよ。


「えっと、その……良かったな」

「うんっ!」


 ニッコリとした笑顔になって、とっても可愛い声で返事をしてくれる井上さん。こんなにも嬉しそうな井上さんは今まで見たことないぞ。優奈の生の胸の凄さを思い知る。

 部屋に入って優奈を見ると、ベッドに座っている優奈の寝間着が水色から桃色に変わっていた。今の俺達のやり取りが聞こえたのか、優奈はいつもの柔らかい笑顔になっている。


「優奈。井上さんに汗を拭いてもらったり、着替えさせてもらったりして気分はどうだ?」

「スッキリしていい感じです。萌音ちゃんにタオルで拭いてもらったのも気持ち良かったですし」

「それは良かった」


 スッキリできたのなら、より早く体調が良くなりそうだ。

 あと、拭いてもらって気持ち良かったと言われたからか、井上さんは嬉しそうにしている。可愛いな。


「優奈。汗を拭いたタオルと、今まで着ていた下着と寝間着はどうすればいい?」

「洗面所にある水色の洗濯カゴに入れてもらえますか?」

「分かったわ」


 そう言うと、井上さんは勉強机に置いてあるふんわりと膨らんだバスタオルを持って部屋を後にした。あのタオルに、これまで着ていた下着や寝間着が包まれているのかな。

 洗面所にある洗濯カゴがすぐに見つかったのだろう。井上さんは程なくして部屋に戻ってきた。


「和真君。萌音ちゃん。ゼリーを買ってきてくれたんですよね。お昼以降は何も食べていないので、お腹が空いて。食べさせてほしいです。汗拭きと着替えは萌音ちゃんにしてもらったので、これは和真君に」

「分かった」


 差し入れにゼリーを買ってきたから、ゼリーを食べさせることはあるだろうと思っていた。それでも、優奈から食べさせてほしいと指名されると嬉しいな。


「優奈。桃のゼリーとりんごのゼリーを買ってきたんだ。どっちを食べたい?」


 ドラッグストアのレジ袋からゼリー2つを取り出す。どっちを選ぶだろう? 井上さん曰く、優奈は果実系のゼリーを差し入れると特に喜ぶと言っていたけど。


「桃のゼリーを食べたいです」

「桃だな。じゃあ、スプーンを取ってくるよ。りんごのゼリーは冷蔵庫に入れておくから」

「はい」


 俺はりんごのゼリーを持ってリビングに向かう。

 キッチンにある冷蔵庫にりんごのゼリーを入れて、食器棚に入っているスプーンを一つ取った。

 また、IHにあるお粥を作った土鍋の蓋を開けると……学校に行く直前よりも減っている。お昼にお粥を食べたと聞いたけど、こうして量が減っている鍋を見ると嬉しい気持ちになる。

 食卓に優奈のお弁当箱が閉めた状態で置かれている。なので、どのくらい食べたのか確認すると……玉子焼きはなくなっている。優奈が大好きだし、優奈好みの甘めに作ったから全部食べてくれたのかな。他のおかずはちょっとずつ食べた感じか。嬉しいな。

 スプーンを持って、優奈の部屋に戻る。優奈は井上さんと談笑している。学校ではないけど、今日も2人が楽しく喋っている様子を見られて良かった。


「お待たせ」

「おかえりなさい」

「おかえり」


 桃のゼリーの蓋を剥がして、俺はベッドのすぐ近くまで向かう。

 優奈は上体を起こした状態でこちらを向いている。それは今朝、お粥を食べさせたときと同じような体勢だ。ただ、あのときとは違って顔色が良くなっており、元気そうな様子で。そのことに安堵する。

 スプーンで桃のゼリーを一口分掬い、優奈の口元までもっていく。


「優奈。はい、あーん」

「あ~ん」


 優奈に桃のゼリーを食べさせる。

 ゼリーの味がとてもいいのだろうか。食べさせた直後から、優奈は柔らかい笑みを浮かべて。食べさせているのもあって小動物的な可愛らしさがある。


「美味しいですっ。桃らしい優しい甘味で」

「良かった。井上さんのアドバイスもあって、これとりんごのゼリーを買ったんだ。井上さんは今までに何度か優奈のお見舞いに行ったことがあるから」

「そうでしたか。萌音ちゃん、ありがとうございます」

「いえいえ。美味しく食べてもらえて嬉しいわ」


 井上さんは言葉通りの嬉しそうな笑顔でそう言った。親友のためになれて、親友にお礼を言ってもらえて本当に嬉しいのだろう。

 桃のゼリーがとても美味しいからか、優奈は「あ~ん」と口を開けて要求してくる。それが可愛いなぁと思いつつ、ゼリーをもう一口食べさせる。


「美味しいです。熱も出ましたし、暖かい部屋にいるので冷たいのがいいですね」

「良かった。優奈はお腹を壊していないようだったから、冷たいゼリーを買ってきたんだ。それに、ゼリーは冷たい方が美味しいしな」

「なるほどです。ありがとうございます」


 優奈は優しい笑顔でお礼を言ってくれた。

 その後も、優奈に桃のゼリーを食べさせていく。美味しいと言うだけあってパクパクと食べていて。本当に可愛いな。


「あぁ、桃のゼリー美味しいです。ゼリーもそうですが、お菓子とかアイスなどでも、桃の味って優しい甘さで美味しいのが多いですよね。ですから、桃味は結構好きです」

「私も桃味は結構好きよ。あと、個人的に桃味は外れがないなって思う」

「確かに安定しているイメージはあるな。俺も甘いものを飲みたいとき、桃味の天然水を買うときがあるよ」

「天然水も美味しいですよね」

「暖かい日に飲むと特に美味しいわよね。これまで、学校の自販機で買って飲んだことが何度もあるわ」

「一口くれたこともありましたよね」

「そうね。その後に千尋にゴクゴク飲まれたこともあったわ」

「佐伯さんらしいかも」


 俺がそう言うと、俺達は笑いに包まれる。佐伯さんに飲まれたことを思い出しているのか、優奈と佐伯さんは楽しそうに笑っていて。そのことに心が温まる。


「美味しいといえば……和真君が作ってくれたお弁当も美味しかったです」

「良かった。お腹の調子は悪くないみたいだし、何時間か寝れば体調が良くなるかもしれないから、お弁当をキッチンに置いておいたんだよ」

「そうだったんですか。玉子焼きは特に美味しくて全部食べました。他のおかずもちょっとですが食べました。一つ一つが小さめで食べやすかったです」

「そっか。良かった。優奈は体調を崩していたから、食べやすさ優先でおかずを小さめに切っておいたんだ」

「やはりそうでしたか。いつもよりも小さかったので、そんな気がしました。和真君の優しさを感じられました。あのお弁当も食べたおかげで、今はここまで回復したんでしょうね。和真君、ありがとうございます」


 とても柔らかな笑顔で優奈はお礼を言ってくれた。

 全部ではないけど俺の作った弁当を食べてくれたことはもちろん、あの弁当が優奈の体調の回復に繋がったようで嬉しい。昼休みに弁当を食べたとき、優奈も少しは食べてくれているかなって思っていたし。


「2人とも良かったわね。優奈は長瀬君特製の美味しいお弁当を食べられて。長瀬君は優奈に食べてもらえて」

「ええ!」

「良かったよ」

「ふふっ。あと、今の2人の会話を聞いたり、長瀬君が優奈にゼリーを食べさせる姿を見たりしていると、2人がいい夫婦になってきた感じがするわ」


 井上さんは落ち着いた笑顔でそう言ってくれた。

 両家の家族以外で俺達夫婦のことを一番見ているのは井上さんだ。そんな井上さんから、いい夫婦になってきたと言われるのはとても嬉しい。


「嬉しいな。ありがとう、井上さん」

「ありがとうございます、萌音ちゃん!」


 俺の後に、優奈は弾んだ声で井上さんにお礼を言った。優奈は今日一番と言っていいほどの可愛い笑顔を見せていて。井上さんに褒められたのがよほど嬉しかったのだろう。今の優奈の反応を見て、嬉しい気持ちが膨らんだ。

 俺達にお礼を言われた井上さんは口角をさらに上げて「ふふっ」と笑った。

 それからも、俺は優奈に桃のゼリーを食べさせた。美味しいと言っていたし、お腹が空いていると言っていただけあって、優奈はゼリーを完食した。


「ゼリー美味しかったです。食べさせてくれてありがとうございます」

「いえいえ。全部食べられるほど食欲があって良かったよ」

「私も同じ気持ちだわ。優奈の体調が結構良くなっていて安心した。……私はそろそろ帰るわ」

「はい。萌音ちゃん、お見舞いに来てくれてありがとうございました。汗を拭いてくれたり、着替えを手伝ったりしてくれましたし。おかげで、より元気になりました」

「俺からもお礼を言わせてくれ。ありがとう、井上さん」

「いえいえ。親友であり、友人のお嫁さんのためですから」


 井上さんは優しい笑顔で、優しい声色でそう言った。そのことに心がとても温かくなった。

 その後、井上さんは自分のスクールバッグを持って優奈の部屋を出る。俺達は井上さんを玄関まで見送ることに。その際、俺は優奈の体を支えて。


「優奈、お大事にね。明日、学校で会えたら嬉しいわ」

「ええ。明日、学校で会いましょう」

「また明日な、井上さん」

「ええ、2人ともまた明日」


 井上さんは微笑みながら俺達に手を振って、家を後にするのであった。

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