3.新装少女
人生の主人公は自分
世界の主人公ではないが、人生の主人公ではある。なるほど考えようによってはそれは考えられる。
主人公に試練はつきもの。
失敗しても諦めないで挑戦するものだ。
何度でもたちあがり、
繰り返す。
がんばる。
でもそんなことは、当たり前のことで、何か憧れる夢を見た人間なら誰だってやることなんだ。夢に向かってなら努力するものなんだ。
でもたいていうまくはいかない。失敗する。
もちろん、失敗したその裏には上手く行った人もいる。
そしてその成功した人はまだ理想の形ではないと、がんばるかもしれない。しかし、どうだろう。それはそこにすら立てなかったこちら側としては、理想だろうが高みだなんだろうが、成功者に変わりはない。
辛いね。
成功するとは、努力の成果を誰かが認めることだ。
記録だったり、数値だったり、勝ちとか、受賞とか表彰とか。
何かしら世の中に認められることさ。
べつに成功しなくても、世界が優しければ認めてくれることはある。がんばってるな、って。
でもそこに結果が伴うかは別だ。過程を認めてくれる令和でも、結果を出せるかは違うんだ。
メダルを取らないとすごくはない。頑張ったことは認めてくれるけど。
新記録を出さないとすごくはない。頑張ったことは認めてくれるけど。
新発見じゃないとすごくはない。それまで頑張ったことは認めてくれるけど。
気に入った、面白い、心を動かさないと、すごくはない。名作にはならない。そこまで頑張ってきたことは認めてくれるかもしれないけど、さ。
それに世間は手を叩かない。
それを世間は成功とは呼ばない。
それを世間は認めてくれない。
なら、自分で自分を認めてやるしかない。
他人に認められることを求めない。
自己肯定だ。
どうするか?
簡単だ。
世界そのものを変えればいい。
それが答え。
出した答え。
すべての世界を変える必要はない。
自分の周り、周囲の環境という名前の世界を変えればいい。それだけのことだ。
※ ※ ※
「はい、霖くん。これが手榴弾です!」
「ありがとう、天野海星さん」
「海星でいいですよ。呼びづらくなければですけど」
「ライフルに弾倉、軽量防弾ジャケット。全部女の子用の軽々素材! 扱いやすくて、便利ね」
神北さんが得意げだ。なんでも世界の神様にお願いして用意してもらった一式らしい。
「新装備少女ですね」
「これで本当に戦うんだね」
「うん。世界から脱出のために」
「脱出のために」
「さあ、あの透かした黒服野郎をやっつけてやるんだから」
解放されて自由になるため。脱出するために死神を殺す。普通に生きなければいけないという不自由から脱し、元の世界に帰るため。そんな彼女たちを死神は透明少女と呼んで敵視している。それの何がいけないことかはわからない。良いことなのかもしれないし、悪いことなのかもしれない。僕にはわからない。だから成り行きで、とりあえずこちら側について見た。だから、話を聞いたら気を変えて裏切るかもしれない。僕はそのことを彼女たちには伝えていて、了承してもらっている。
「ごめーん、遅れた、た!」
「……祈鈴。あんたまた授業にでていたの? そんなこと必要ないのに」
普通にいきるの? と神北は問う。
「いや、それもいいかもって。でも水桜ちゃんたちのことも大事だから」
「だからこっちにきたって? あんたはどっちの味方なのよ」
「あたしは水桜ちゃんたちの友達だよ。でも、青宿さんもお友達なの。大切な、大切な人。なんで、戦わないといけないのかな、かな?」
「それはあいつが世界側の存在で、あたしらが世界に反抗している存在だから。それだけのことよ」
「み、水桜ちゃん……。あぅぅ……」
沈黙が訪れる。
僕はこれに対して何も言わずに考えていた。
考える。
理不尽な世界への反抗。まるで中学生の反抗期のようだ。親の元にいる世界。学校という閉鎖的空間の世界。それらに対する反抗。やらないといけないこと、やりなさいと言われること、やるべきだと強制されること。勉強、部活、友達、ご飯、風呂、挨拶。どれも普通で、普通のことで当たり前のことなのに半強制されている。勉強なんて勉めて強いることだから尚更だ。不自由への抵抗。好きなことをやりたいという自由への渇望。それらが起こさせる行動が反抗、レジスタンスという形になって現れている。
「祈鈴、あたしらは行くよ」
神北が装備を手に扉へ向かう。
「祈鈴ちゃんはどうするです? 僕は水桜ちゃんと一緒に行くですけど」
海星が手を差し出そうか迷いながら声をかける。
「霖くんは?」
「僕も行くよ。どちらの味方をするにしても、その場に居合わせ無い選択肢はないと思うから」
「そっか……あたしはわかんないや」
「じゃあね、祈鈴。元気で」
神北のその言葉がきっかけとなり、三人がそれぞれに扉を手に掛けた。戀風祈鈴は体育座りをしてうつむき、自分と一緒に丸くなっているだけだった。
※ ※ ※
「作戦は?」
「海星と種田が陽動で死神を呼び出す。あたしがここに立て籠もってライフルで頭を撃ち抜く。以上」
それを聞いて頷く三人。グーでタッチしてから別れた。神北の籠もる高台を後ろ目に海星と街の中心通りへと足を運ぶ。
「ロケット花火です。これを打つんですよ」
「僕が火を点けるよ」
「分かりましたです! 隠れます!」
海星は忍者のようにさっと消えた。どこへ隠れたのやらさっぱりだ。なかなかにすごいと素直に思った。僕は
ぱちっ。
ひゅーっ。
パンッ!!!
青空に見えにくい花火が打ち上がった。小さくて音だけでかい花火。明るすぎて色が見えない花火。真昼間に打ち上げられた色があるのに色のない花火。
途端、音もなく黒い姿の人が来たと思えば、刃が目の前をかすめた。それは本当に刹那の時間で、一瞬だった。
「死神っ!」
「誰だ?」
向こうが一方的に一定の距離を取ったので、それでようやく相手の姿を認識できるようになった。それは先程戀風を追いかけ回していた人物で、神北が目の敵にしていたその相手本人。向こうは相手が目当ての人物でなかったからかやや当惑していた……ところに銃声だった。しかし相手は死神。人外的反応速度で銃弾を躱すとその発射方向へ向かって飛んだ。
まずい。
本能的にそう思った僕は叫んだ。
「海星さん!」
「承知です!」
するとこちらも瞬く間に現れては光の速度で消えてその後を追っていった。僕も行きたい。でも、すぐに動けるほどの運動神経を持ち合わせていない。高台を見上げる。よく見えない。何が起きている。光った! なんだ、どうなったんだ。わからない。とりあえず向かってみよう。
僕は走る。
建物の入口に立ち、階段を見やって登り、最上階までしばし掛かり、辿り着いたときには二人は死んでいた。二人というのは女の子二人だ。それがそうであるとわかったのは男の刃から光がこぼれ落ちていたから。まるで血が滴るように光がこぼれ落ちていた。二人の少女の腹部は光に満ちていて、人間離れした姿であったが人間らしかった。人間らしい光を放って死んでいた。具体的には地にうつ伏せで横たわり、死因であろう死傷部の腹部の傷からは血の代わりに光が漏れているという状況だった。
「遅かったな」
その問は僕にかけられたものだと一瞬思ったが、しかし振り返ると後ろにもうひとりそこには居た。死神が声をかけたその彼女も少女。戀風祈鈴と呼ばれていた女の子。その眼に涙をめいいっぱいに流して、息を肩でしながら僕の後ろに居た。
「やっぱり、こうなるの……青宿はこうするしかないの…………?」
「ああ。俺は死神だからな」
諦めを知った余裕の笑みと悲しみを知った泣き顔と。
「わからないって顔だな、少年。教えてやるよ、この世界と俺たちの存在の意味を。お前の存在理由を。俺は世界側だからな。神様サイドだからな」
教えてやるよ。
彼はそう言った。
そして語られた。
それは悲しみでしかない悲しみの世界の物語だった。
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